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【後編】星間露天商 マヤカス星人(893字) │ 特撮ショート

 その日は、来るべくしてやって来た。これまで数々のスタントを成功させてきたが、一番苦手だった火に包まれるシーンに出るよう、事務所から依頼が入る。

 今の自分ならやれる。いつもみたいに、軽々とこなしてみせるさ。自信に満ちた彼は、二つ返事で受ける意思を伝えた。

撮影日当日。

 「ではいきまーす。はい」

 カメラが回る合図と共に、スロットルを握る手に力を入れ、倉庫の壁を突き破りながら外に飛び出す。行手に燃え盛る日の壁に向かって、猛スピードで突入していく男。目の前が真っ赤になりながらも、カメラの前を行き過ぎる。ああ、無事に終わった。ゆっくりとバイクを止めると、スタッフが走ってくる。

 きっといつものように私を労ってくれるのだろう。そう思いながらなんて返そうか男は考えていたが、急にあたり一面が真っ白になった。スタッフが手に持っていた消化器を、男に向かって使ったのだ。

 男は、何が起きているかわからないまま、どんどん視界が奪われていく。立っていられずバイクから転げ落ちてしまう。

 「一本じゃ足りない。もっと持って来て」

 スタッフたちの叫び声と皆が走りまわる音が地面越しに耳に入ってくると同時に、また赤い色がゆらゆらとバイザー越しに見えてきた。そこでようやく、自分の体が火に包まれていることに気づき、しばらく惨劇がつづいた。


「もうスタントマンの仕事はできないでしょう」


 担当医はそう言い残して病室を出た。全身の三十パーセントに火傷を負う重症。一命は取り留めた。絶望の最中、あの裏路地に行くと、例の露天商は荷物を片付けている最中だった。

「絶対に失敗しない力を、あんたから買ったはずだが」

 男はついていた松葉杖を放り投げ走り寄ると、相手の胸ぐらを掴んで問い詰めた。すると店主は、その腕をひょいっと軽く摘んで戻すと、崩れた服を直しながら、乾いた笑い声を上げた。

 「いやだなあ、お客さん。売ったんだから、お駄賃もらうのは当たり前でしょう。あなたが一番大事にしている恐怖心がそのお代です。商売ですから」

店主は荷物の入ったトランクケースを持つと、止めてあった卵型の宇宙船に乗り込んで、そのまま空に消えてしまった。

【前編】はこちらから


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