所感『スピノザの診察室』水鈴社

夏川草介
スピノザの診察室
水鈴社

スピノザ哲学を基盤とした医療の世界の話、この世界が現実に存在してほしい。
生成AIといった技術の進歩は「人生」を豊かにするためかもしれないが、無意識に「健常者の人生」に偏りすぎてないか?
技術進歩はむしろ弱・老・病・死者の人生(をも、否)こそ、豊かにしてほしい


病気が治ることが幸福だという考え方では、どうしても行き詰まることがある。つまり病気が治らない人はみんな不幸なままなのかとね。治らない病気の人や、余命が限られている人が、幸せに日々を過ごすことはできないのか

p151

たとえ病が治らなくても、仮に残された時間が短くても、人は幸せに過ごすことができる

p151

我々にできることは、せいぜい襲い掛かる津波から走って逃げることや、どこまで効くかもわからない抗がん剤を点滴することだけれど、それさえ、うまくいかないのが現実だろう。そうやって突き詰めていけば、人間が自分の意志でできることなんて、ほとんどないことに気が付く。つまり人間は、世界という決められた枠組みの中で、ただ流木のように流されている無力な存在というわけだ

p217

こんな希望のない宿命論みたいなものを提示しながら、スピノザの面白いところは、人間の努力というものを肯定した点にある。すべてが決まっているのなら、努力なんて意味がないはずなのに、彼は言うんだ。だからこそ努力が必要だと

p218

願ってもどうにもならないことが、世界には溢れている。意志や祈りや願いでは、世界は変えられない。そのことは、絶望なのではなく、希望なのである

p218-219

野心はなくても矜持はある

p56


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