ドラム界に戦車で参入した男・・・Dennis Chambers
ゴスペルチョップスというドラミングスタイルをご存知だろうか?
ざっくり説明すると、ゴスペルはプロテスタント系キリスト教を基にした黒人による宗教音楽。日本語にすると福音音楽と訳されるそうだ。
ゴスペルは、圧倒的にソウルフルでエネルギッシュな聖歌隊とそれを支えるファンキーな楽器隊により演奏されるが、ある時期から夜な夜な激しいドラム同士のセッションが行われるようになった。他の楽器の伴奏を背に複数名で激しいドラムソロを交換しあう、これはドラムシェッド(Drum Shed)と呼ばれている。
これがいつから始まったのか正確なところは定かではないが、2000年を過ぎた辺りからのようである。日本では、たぶん2010年頃からゴスペルチョップスという言葉が徐々に知られてきたと思う。
そのドラムシェッド文化は今も続いており、今やキリスト教・黒人といった枠を超え、全世界のドラマー間で行われている(時にはオンラインでのドラムシェッドなんかも)。
が、やはりドラムシェッド文化の原点である黒人達の存在は抜きん出ており、目を疑うほどの超絶技巧ハイエネルギーな黒人ドラマーが特に目立って輩出されている。
そして、それらの「ゴスペルチョッパー」というドラマー達にも、良い見本として尊敬してきた先人達がいる。ゴスペルチョッパーに強い影響を与えたドラマーは複数いるが、今回紹介するドラマーはその代表格である。
ゴスペルチョップスという文化がまだ生まれていなかったときから、凄まじいチョップスをハイエネルギーで演奏し、そのどれもが当時としては衝撃的に斬新で、しかもグルーブも強力にファンキーで、さらにめちゃくちゃに音楽性が広くて、アンサンブルも上手いという奇跡のようなドラマーが80年代後半から頭角を現した。
それが、「Dennis Chambers」である。
日本では「デニチェン」の愛称で親しまれている。
彼は、ジャズ、フュージョン、ファンク、と呼ばれる音楽での活動が多く、このnoteで紹介してきた Steve Gadd , Vinnie Colaiuta , Dave Weckl とも活動のフィールドが大いに被る。そして、デニチェンはこの3名と比べると名声的には後発にあたる。
デニチェンの登場に、世界中のドラマーが震撼した。
おそらく、彼を聴いた人達のファーストインプレッションとして皆同じ事を最初につぶやいたと思う。
「やべぇ・・・」
と。
というのは、それまでのジャズ・フュージョン界のドラミングというのは、Steve , Vinnie , Dave という3名に代表されるような、合理的シャレオツスマートなドラミングが主流であった。
しかし、デニチェンはそこに圧倒的・理不尽なまでのハイパワー、生々しい人間さを感じさせる無茶苦茶なフレーズのねじ込み、軽快さとストロングさが同居したこれまでにないファンキーグルーブを持ち込み、「知能こそブレイン」「技術こそテクニック」というドラミング王道の時代に「力こそパワー」「速さこそスピード」を武器に、「ドラムとは本来こういう楽器だ!」という世界のドラマーが忘れかけていた「エナジーこそエネルギー」というシンプルな事実を思い出させたのである。
Dennis が影響を受けたと公言しているドラマーは数多くいるが、その中で特に影響が強いと僕が感じたドラマーは Buddy Rich , Billy Cobham , Tony Williams である。さらにそこに Vinnie Colaiuta のポリリズミックな要素を少し加えた感じ。
いずれにしても、めちゃくちゃ主張が強く、轟音プレイヤーで、グイグイとバンドを牽引していくタイプである。
僕がドラムを始めた頃、Dennis は30代くらいで最も脂が乗りきっていた。僕の年代のドラマーで Dennis から影響を受けないことはほぼ不可能だったろう。好みの問題による好き嫌いは当然あったが、Dennis は圧倒的にすごいというところは満場一致という感じだった。
僕が初めて Dennis の演奏を聴いたのは、このビデオ「Zildjian Day London 1993」。
(Dennis の演奏は56:07~あたりから)
初めてこの演奏を聴いたときの僕の感想。
・・・。
雑!!!!!!!!!!!!!
いろんなドラムソロを聴いてきたが、こんなハチャメチャなドラムソロは初めてだった。
そして、ドラムの音色がヤバい!!!!!
なんか、他のドラマーからはまるで聴いたことのない音が聴こえる。
「ドン」とか「パン」とか「シャーン」なんてやさしいもんじゃない。
「ドギャッッ!!!」
「バキョッッ!!!」
「パキャーン!!!」
「グシャーーン!!!」
「ア゛フォーーン!!!」
「ドフゥッッ!」
みたいな、いちいち太鼓が悲鳴を上げているような音。
でも、Dennis はとてもユニークで、単に音が大きいだけじゃなくて、すごい軽いというか曖昧な音も混ぜ合わせて使うところ。
「モソモソ・・・」
「ツンツン・・・」
「コロン・・・」
「ドロロロ・・・」
みたいな。
このタッチの幅が、より「ハチャメチャ」さを際立たせるのよね。
して、このタッチの幅が、独特のズッシリ感と浮遊感と微妙なハネ感を同居させたようなグルーブを生み、またこれがアンサンブルにめっちゃ馴染むのよ。(Dennis はソロも良いが、アンサンブルでのグルーブもめっちゃ良い!)
背は実は160cmちょいと日本人と比べても小さいほうで、体格に恵まれたほうではない(腕っぷしは良いが)。
異常なまでに早いシングルストローク、縦横無尽なタムへのアクセスが印象的。
このへんに、Buddy Rich , Billy Cobham の影響がめちゃくちゃ強く見える。
Buddy 以降のドラマーで、最も Buddy に近い音を出したのは、Dennis かもしれない(チューニング感はぜんぜん違うが)。
例によって、書く体力が尽きたので、今回はこの辺でサヨウナラ!
ドゴォォォォォォォォォォォ
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