2020.2.24 なぎさ水族館
この日は朝から雨、そして曇り。
花粉が飛ぶ前に出かけてしまおうと、周防大島町のなぎさ水族館へ行ってきた。
島へ入ってからの道のりがなかなかに長いのだが、だんだんと差してきた日の光に照らされ、瀬戸内の海がエメラルドグリーンに透き通っていて、それを眺めている間に到着してしまう。
このなぎさ水族館はとても小さな水族館だが、最近ではネット上で白いナマコが話題になっていたり、何より今回の私の目当ての、日本最大級の屋内タッチングプールがある、とても魅力的な水族館だ。
入口の扉をくぐるとすぐに、筒状の水槽があって、おいしそうな魚たちが泳いでいる。
海に囲まれた国土に住む民たるもの(?)、魚には「かわいい」や「かっこいい」や「おもしろい」を感じるのと同時に「おいしそう」と思ってしまうのは、当然のことだと思う。
だから、たいした食いしん坊だと言われてしまうのを承知の上で、はっきり記しておきたい泳いでいる魚たちは、おいしそうだった。
さて、館内の水槽は小ぶりで、大きな水槽のある大規模な水族館のように、見上げて、見渡して、景色に圧倒されて、水槽の奥まで泳いでいきたくなるようなことはない。けれどもその分、一つ一つの水槽の生き物たちを集中して、間近に見たり触れ合ったりできるところが、とても魅力的だった。
手書きの紹介パネルも、生き物たちと一番近くでいらっしゃる飼育員さんの目線で、とても親しみやすく、興味深く、ときに笑いが漏れるような面白いものばかりだった。
個人的に特にうれしかったのは、やはり、実際に調理されて召し上がった感想の紹介だ。そのお魚の生きた姿を目の当たりにしつつ、味を想像したりできるのは楽しい。
今回も、特に私のお気に入りの生き物たちを書き記しておこうと思う。(本当は、すべての水槽を紹介したいくらいなのだが、水槽の壁と水越しに写真を撮るのはなかなかに難しかったのだ。)
こちらのカワハギ、「水槽をツンツンすると寄って来るよ!」という紹介につられて従ってみると、本当に寄ってきてくれるではないか……!
黄色味を帯びた体で水中をたゆたう姿がとてもかわいらしかった。
これが話題の白ナマコ……!!と思ったけれど、奥に隠れている子はもっと白く見えて、話題になっていたのはその子の方なのかもしれない。しかし、どちらが有名ナマコかなどは、どうでもいい。
本当に、雪のような白さだ。紅色の小さな斑点もお洒落だ。
じっと見ていると、このナマコは、石によじ登り、そのまま乗り越えてしまった。
他の仲間が後ろの岩陰に身を潜めている中、どんな衝動に駆られてそんな運動をしていたのか……。なかなかのスピードに、少し感動してしまった。
ウミシダはシダという名前だが、ウニやヒトデの仲間らしい。ということは、どこか食べられる部分があるのだろうか……。
世界で最も美しいと言われるというスナイソギンチャクは、写真には上手く移せなかったが、触手の先端がネオンのようなピンク色でとても鮮やかでうつくしかった。
私の子供のころの認識でいうと、このような形の生き物は、イソギンチャクと呼んでいた。(おそらく、子供時代の私の「サンゴ」は宝石のつやつやにされたサンゴと、骨格だけになったサンゴの姿だったのだと思う。)
これは、ニホンアワサンゴ、この水族館において世界で初めて人工繁殖に成功したという、とても貴重なサンゴだ。
うつくしい緑色が、花のように、草葉のように、ゆらゆらしている。
岩をよくよく見ると、とてもちいさな緑の花のように、若いサンゴも引っついていた。
このムツサンゴも、蛍光色に感じるほどのまぶしいオレンジ色をしていた。
私は絵本やアニメーションの人魚の世界が大好きなのだが、これほどまでに鮮やかで華やかでうつくしいサンゴが、実際に、現実に、しかも身近に存在していたとは……。
ところで、サンゴもイソギンチャクも、それからサンゴたちの展示スペースの前に並んでいるクラゲたちも(クラゲは本当に写真に撮るのがむずかしいので、ぜひ実際に来て、自分の目に焼きつけてほしい)、刺胞動物という仲間らしい。
彼らを仲間として、そして「刺胞動物」という名前を、今まで意識したことがなかったので、今更ながらに、一つ、賢くなった気分だ。
ご覧あれ、このカメラ目線を! 彼らは今回この水族館で一番人懐こかった生き物だ。
大きな瞳とほほ笑んでいるような口元がかわいらしくて、ずっとカメラを向けていると、代わる代わる泳ぎながらこちらを見つめてくれていた。
水槽の右端から撮影していたのを、ふと左端に歩いて移動してカメラを構えると、わらわらとそれに続いてついてきてくれた。
虫の苦手な方は、ちょっとぎょっとしてしまうかもしれない。(かく言う私も。)セミエビ、なんだか韻を踏んでいるかのような響きの名前だ。
水槽の中のどこにいるのだろうかと探し、見つけたときには、思わずぎゃっと言ってしまった。エビだから、虫っぽさがあるのはこの子だけではない……わかっているけれど……。
見た目の通り(?)プリッとしていておいしいらしい。そんな説明を読んでいると、おなかが空いてきてしまった。(実際、この日のお昼にはエビフライ定食を食べた。)
さて、どちらがウナギでどちらがアナゴでしょう。
目が小さくて下あごが出ているのがニホンウナギで、目が大きくて上あごが出ているのがマアナゴらしい。
イラストを見てから探し出すまでもなく、こうして二匹揃ってで並んで見比べさせてくれるとは、来館者への対応も素晴らしいお魚さんたち……! 彼らもプロ意識が高いぞ……!
砂の上でうねうねとのたうっている白いおなかのにょろにょろがいた。じっと見ていると、砂に頭を突っ込もうとしているようにも見えた。
小さくてももう形はウナギ、でもちいさいので、おとなのウナギよりずいぶんかわいく見えた。
いよいよタッチングプールで実際に触れ合わせてもらおう。
その前に、メインの大きなタッチングプールだけでなく、水槽の並ぶスペースにも、袖をまくりさえすれば生き物たちに触れられる小さなおさわりコーナーがあった。
ここには、ナマコやヒトデやウニなど、水族館のタッチングプールの定番メンバーに加え、ヤドカリもいた。
ナマコやヒトデやウニは、水槽の壁や床に張りついて、決して離れるものかとしがみついたまま頑なに動こうとはしないが、その固さと柔らかさを実際に触って確かめるのはとても楽しいはず。
ヤドカリは、はじめは警戒して殻に頭を引っ込めたりしていたが、しばらく水を揺らして手を水につけていたら、はさみに触らせてくれた。
彼らも接客に慣れているのかもしれない。
ヒトデたちも、色や形が様々だ。私は特に紫色の模様の美しいマヒトデがお気に入りだ。
この紫色のマヒトデ、私が別の場所でアメフラシを触っていると、小さな無数の足を使って(管足というらしい)、私の足にひっつき、よじのぼってきた。
おかげで、歩いている最中のヒトデの足を、生で、間近に見て、肌に感じることまでできた。
面白いもので、引きはがそうとすると、一つ一つが吸盤のようにしっかりと張りついていて、離れてもらうのに少し苦労した。
ちいさな生き物の力強さを感じると、人間の非力さを思い知る。(自分の非力を人間というくくりに転嫁しつつ……。)
アメフラシは、なかなかに度肝を抜かれる姿だった。陸上でこれほど大きなナメクジが雨降りや雨上がりの道端などを這っていた日には、外出することもできない人が多く出てきてしまうだろう。
私も、まったく抵抗なく一目見た瞬間からこの姿を受け止められたわけではなかったが、これは貴重な経験だと、嬉々として触らせてもらった。
感想としては、「猫」だった。正確に言うと、猫のおなかのようなやわらかさだった。
ナマコなどはぬるぬる柔らかそうに見えて、案外、食感と同じだろうと思われるこりこりした手触りなのだが、アメフラシの体はたぷたぷしている。なめらかな肌から、背中のひだや触角など、どこを触っても、文句のつけようのない心地よい手触りだった。
なでなでしていると、ナメクジをつついたときと同じように、縮こまっていく姿も面白かった。
ぜひ、機会のある方は、猫のおなかとアメフラシを触り比べてみてほしい。
一つ奥のもう少し深いプールへ行けば、脛まで水に浸かりながら、ちいさなサメや、ヒレやウロコのある魚を触ることもできる。
まだまだ水温が低いので、我慢できずに長居はできなかったのだが、あそこでおとなしく岩に腰かけていれば、もっと魚たちが傍まで来てくれていたはず……。
体も大きいので少し気持ちにゆとりがあるのか、他の魚たちが急いで私から逃げていく中、通りざまに何度も体を撫でさせてくれたドチザメには感謝している。
お昼になっておなかも空き、来館者も少し増えてきたところで、もう一周、館内を歩き回ってから、すぐそばの陸奥記念館の野外展示場から、海を見下ろした。
緑と青のグラデーションとときおり見える白い波のうつくしい、周防大島からの瀬戸内海。水族館までの道のりの途中でも、始終、海の景色に心奪われるところだ。
帰りの道で、道路の真ん中を横切っている鳥の影が見えて、やけに尾の長い大きなカラスだと思ったら、オスのキジだった。
海の生き物にも山の生き物にも一度に出会える周防大島、またいずれ出かけたいと思う。
(2020.2.24に別ブログで掲載した内容を少し手直しして写真を増やしています。)