映画「Tove」ームーミンを描いたトーベヤンソンの愛


ISO会議でフィンランドのクオピオという
湖水が美しい街に出張した時のこと。
自分が提案した情報規格のプレゼンを終えて、
ヴァンター空港で
「なにかムーミングッズを買って帰ろう」と
お土産売り場を物色しました。
物価が高い北欧のこと、調子に乗って
買いものすると目の飛び出るような請求書が
来るので、小物を中心に。

物色するなかで
スナフキンとムーミンが対話している
マグネットパネルに目がとまりました。

買うのはこれだけに。

スナフキンはムーミンにこう語ります。
Oh, just fun.
Have you never wanted to run away from home? Even parents need a change sometimes..
(それは傑作だね。君は家から逃げ出したいと思ったことは一度もないかい?君のご両親だって変化が必要なときくらいあるさ)

子供の頃、アニメ「ムーミン」が
大人気でした
そこで描かれていたのは、
やさしいムーミンママと
包容力のあるムーミンパパに
包まれるような暮らしをする
ムーミンの姿でした。

原作のムーミンを読むと、
アニメ「ムーミン」が日本だけの
作り物であることが分かります。

私は熱心なムーミンファンでは
ありませんでしたが、白黒で描かれる、
得体の知れない森の生き物であふれた
トーベ・ヤンソンの原画が好きでした。

横浜ジャック&ベティで観た映画「Tove」

芸術家気質を持つ父親に否定されながら、
空想の動物が登場する物語を描くTove。
父に抗いながら、
画家としてなかなか評価されない自分を
自分でも許すことができません。

そんな彼女に作品発表の機会を提供したのは、
舞台演出家のヴィヴィカでした。

ヴィヴィカは自身が主催する
ホームパーティーの招待状の挿絵を依頼したのを皮切りに、
ムーミンの舞台化など、
斬新な企画を立てては
これを成功に導きます。

トーベは
作品への愛を語りながら、
唇を寄せるヴィヴィカに、
戸惑いながら自らの唇を重ねます。

同性愛が犯罪であった当時のフィンランドで。

トーベは、後にスナフキンのモデルとなる、
哲学者にして左派の政治家だったアトスとも
恋人関係にありました。

この映画は、
一人の芸術家の女性の「自立」の物語であると同時に、

「愛とは家族や友人といった関係を超え、生涯を通じて表現されるものである」

ことを教えてくれます。

パンフレットに載る伝記によれば、
トーベはトゥーリッキという、
女性美術家と寄り添いながら、
ヴィヴィカ、アトスとも生涯にわたり
友人であり続けたそうです

愛しながら友人であり続けることは
勇気と孤独を必要とするものだったはずです。

冒頭のスナフキンの言葉は、
おそらく両親が姿を消したことを
ムーミンが相談してきた場面で
発せられたのでしょう。

理由が分からずに戸惑うムーミンに、
「君だって家を出たいときはあるだろう?大人も同じさ」
と諭しているのです。

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