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心に沁みる医師の随筆

あなたの本棚の中に
お医者さんが書いた小説や詩集はありますか。
医学に関する教科書でも 論文集でもなく
日々の思いを綴ったエッセイや
病む人の苦しみや生の歓びを描いた
「文学」と呼びたい本を

片目を失明し、
失明の恐怖におびえていた母が
生前繰り返し読んでいた本は
伊豆の修善寺で「桃太郎先生」の愛称で
親しまれてきた藤野是常先生の
『医者という小さな窓から』という本でした。

本を読むのもやっとだった母が
藤野先生に長文の手紙を書いていたことを
知ったのは母を見送って
しばらく経ってからのことでした。

古い広告紙の裏には
原爆投下の1週間後、
疎開先の五日市から市内に入り、
すでに灰燼と化した立町の実家と
亡骸になった両親と弟をみたときの
心情が12枚にもわたって
下書きされていました。

家族の誰にも
話していなかった想い。

お医者さんが書いた文章には
時に、読者をして誰にも明かすことのできなかった
想いを打ち明けたい、そう思わせる力があります。

学会関係の仕事でご縁をいただいた
浦部晶夫先生もそのような先生のお一人です。
東大病院の第3内科に入局後
血液学研究に打ち込まれ、
スローン・ケタリング癌研究所への留学から
帰国した後、東大病院で初めての骨髄移植を
手がけられました。

先生がこれまでに書かれたエッセイ集
『医者の独り言』『医者のたわごと』(いずれもインターメディカ刊)
には、

東洋医学の世界ともご縁の深い
髙久史麿先生とのご親交、

東宮侍医として天皇皇后両陛下(現上皇上皇后陛下)
に仕えられたときの思い出をはじめ、

趣味の音楽やカメラのこと
医者としての心の持ち方
中国の古典のこと
キャバレーの楽しみ方(!?)まで

様々な話題がわかりやすく、
そして心に沁みるタッチで書かれています。

その多くを取り上げることはできませんが、
ふと拾い読みして心に響いたものを。

「悪性貧血を解明したことで有名なW.B. キャッスル先生は、
ボストンで内科医として研究、教育、診療に生涯をささげた方であるが
『自分は医療がビジネスになる以前に医療の世界にいて幸せであった』
と言われたことがある。」

『医の歌』(柊書房)からはこのような歌を

「能面の   壁に掛かりて静けさの  ただよふ中に 優しさは満つ」

「昨日見てし 夢恐ろしや病室の  患者縊りてもがきておりぬ」

日本の血液内科学を最先端で牽引されながら
いつもやさしい面立ちで迎えてくださる
浦部先生のやさしさに触れてみませんか?


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