アメリカ大統領選挙TV討論会の結果をめぐるマスコミ報道の偏りに関して
上のイラストは自分で描いたものですが、あまり似ていなくてすみません。また以下の記事はなるべくニュートラルな立場で書こうと思ったのですが、個人的な意見も混じっているので、どちらかの勝利を確信している方には不快な点もあろうかと思いますので、それをご了承の上お読みいただければと思います。
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「ハリス圧勝」という日本のメディア報道
2024年9月10日、民主党のカマラ・ハリス副大統領と、ドナルド・トランプ前大統領の間で、アメリカ大統領選挙TV討論会が行われました。これは世界中で注目されましたが、日本での報道は圧倒的に「ハリス圧勝」でした。
前回の第一回目のTV討論会(6月27日)で評判を落としたジョー・バイデンの代わりとして、急遽民主党の大統領候補になったカマラ・ハリスは、徹底的に事前準備をしてこれに臨みました。彼女にとっては、こういう場で、原稿なしに話すのは初めてだったので、どうなるか不安でしたが、途中で詰まることなく話し、主導権を取ったように見える場面もありました。
事前にはかなり心配をしていた民主党は、カマラ・ハリスが無難にこの討論会を乗り切ったばかりか、民主党の失策に対するトランプの攻撃を巧妙に防ぐことに成功したので、民主党は大喜びだったのではないかと思います。
しかし、果たしてこの討論会は、日本のメディアが言うように、本当にカマラ・ハリスが勝利したのでしょうか?この討論会を見終わった後、私はどうもカマラ・ハリスの論法や、話し方、態度などに違和感を感じていたし、日本のメディアや専門家の評価の仕方、またこの討論会を主催したABCの仕切りにも疑問を感じていました。また、「トランプ圧勝」と発言する識者の存在もありました。この討論会について再度検証してみようと思いました。
TV討論会直後に発表されたCNNの調査
まず、日本のメディアが取り上げたのがCNNの事後調査でした。全体の印象としてどちらの候補者がよいパフォーマンスをしたかという質問に対して、CNNの調査ではハリスが63%、トランプが37%という結果が報道されました。この数字を見る限り、ハリスの圧倒的な勝利です。
しかし、この数字を信じるのは少し問題があります。
CNNは、民主党系のメディアなので、ハリス寄りの結果になるのは当然です。日本で有名なアメリカのメディアは民主党系が多いので、日本のメディアも民主党寄りになる傾向が強いです。
この調査の母数は605人です。調査対象としてどのような属性の人をサンプリングしたのか不明ですが、テキストメッセージで解答を得たそうです。これって調査のサンプル数としては少なすぎですよね?
アメリカのメディアも、日本のメディアも民主党系に偏っているので、トランプおよび共和党には厳しい態度で報道する傾向があります。
日本の9月12日の日経新聞に、同じCNNの調査のブレークダウンが出ていました。
同じく605人が母数の調査で、いくつかの切り口でどちらがよかったかを聞いています。これを見ると、移民、経済、米軍の指揮能力、民主主義、中絶の5つの項目のうち3つでトランプが勝っているではありませんか?それも、移民、経済、米軍というアメリカ大統領には最も必要な資質です。これを見ると、総合点との違いに疑問が残ります。
この調査のオリジナルのCNNの元データも一応貼っておきます。
どこかの調査では、大統領選挙で最も重視する項目は「経済」ということだったので、この数値を見ただけでも、トランプが大統領選で勝つ可能性が高いというのがわかります。
ハリス寄りのCNNの調査結果ですらこの状況なので、共和党寄りのメディアだったらどんなことになっているでしょう?この状況を冷静に見ると、ハリス側が焦りを感じているのが想像できます。だからこの討論会の直後に「もう一度討論会をしてくれ」と願い出たのではないかと思われます。
トランプ側にとっては不公平だったABC側の対応
そもそもこの討論会には、様々な問題点がありました。ドナルド・トランプも指摘している通り、司会の二人が最初からハリス寄りでした。「この討論会は1対1ではなく、3対1だった」とトランプは言っていますが、質問の仕方はトランプには厳しく、ハリスには優しく、ファクトチェックもトランプにだけ行うという不公平なものでした。
最初の質問で「経済の質問です。四年前と比べて人々の暮らしぶりはどのようになったでしょうか」と問われたのに、ハリスは、「私は中間層の家庭に生まれて…」と質問とは異なる内容の答えをします。どこかで経済状況の話になるのかと思いきや、未来の話ばかりでした。国民の暮らしが苦しくなったことを語ると、その責任が民主党政権にかかってくるので、意図的に論点をずらすという戦略になったのだと思います。
これに関しては司会者は特にコメントをしませんでした。こういう箇所はこの冒頭だけでなく、他にもいくつかありました。ハリスには、インフレや、不法移民流入を止めるための対策をとってこなかったこと、環境問題を進めるためにフラッキング法を禁止してきたこと、アフガニスタン撤退時の過失、ウクライナ問題が解決できないこと、イスラエル・ガザの問題など突っ込まれたくない話題がいくつかありました。ハリスはそれらの話題にならないようにするため、質問には直接答ええず、トランプを挑発するような話題を巧妙に盛り込むという戦略を取りました。
トランプの失言を誘発させるための作戦
ハリスはトランプがくいついてきそうな話題を巧妙に盛り込み、それに作戦通りトランプがひっかかってきて、話が脱線し、失言をするように仕向けた感じがありました。「オハイオ州のスプリングフィールドでは、ハイチからの不法移民が、住民のペットの犬や猫を盗んで食べている」と言ってしまうのがその例です。ここで司会者のファクト・チェックが入り、ハリス側はトランプのイメージダウンの技ありのポイントを稼ぎます。
司会者がトランプに対して即座にファクト・チェックを入れる場面が何度かありました。しかし、ハリスに対しては、司会者のファクト・チェックは全く入っていません。間違った情報が全く無かったわけではありません。事実誤認の発言もいくつもありました。司会者が意図的に見逃しただけです。
また、失言には至らなくても、トランプがコメントするように仕向けることで、本来彼が語るべきことや、民主党攻撃に繋がるような内容を話す時間をできるだけ削ることに成功しています。トランプが防衛に追われたという印象も指摘されていますが、ハリスのほうも徹底的に防衛戦略を取っていたのですね。ハリスはそういう準備を徹底的にやっていた感じがあります。
美しいフレーズで不都合な真実を覆い隠すカマラ・ハリスの論法
カマラ・ハリスは彼女のスピーチの中で、いくつかの「美しい言葉」を使用しています。私は長いこと広告業界で、商品やブランドを売るための「美しい言葉」に接してきたので、こういう言葉を見ると、これって広告的な手法だと感じてしまいます。つまり拒否感を感じてしまいます。例えばこういう言葉です。
Let's turn the page. ページをめくりましょう!
We're not going back. 私たちは昔には戻らない!
We can chart a new way forward. 前進するための新たな道筋を描ける!
Create an opportunity economy. 機会の経済を作る!
I believe the ambition, the aspirations, the dreams of the American people アメリカ人の野心、情熱、夢を私は信じる!
広告の伝統的なコピーライティングでありがちなフレーズです。広告離れが叫ばれる昨今、いかにもゴーストライターが書いたような言語は、大衆の心にはあまり響かないばかりか、拒絶感を抱いてしまうのではないでしょうか?
また、彼女の論法として、自分の都合の悪いことのすべてを、事実であろうがなかろうが、前政権のドナルド・トランプのせいにしようとして、自分が非難されることを回避しようとしています。
インフレも、国境対策も、ロシアとの対応も、アフガニスタンの撤退も、問題の責任をドナルド・トランプに押しつけているという論法はあまり褒められたものではありません。
そして、結局は、自分の政策についてはほとんど説明ができておらず、彼女が大統領になったら具体的にどのような政策が行われるのかはわからないままになっていたかと思います。トランプが言っているように、基本的にバイデンの政策を引き継いで、多少の味付けを加えるだけということになるので、政策を論じても仕方がなかったのかもしれません。
トランプのほうもきちんと政策を述べることができず、政策を戦わせるという本来の討論会の目的を達成できませんでした。
犬と猫がトレンドワードに?
この討論会で最も話題をさらってしまったのは「オハイオ州のスプリングフィールドでは不法移民が犬や猫を食べている」というドナルド・トランプの発言でした。国境問題に関して、民主党政権は選挙の6ヶ月前になるまで何の対策もしなかった理由について問われた際、カマラ・ハリスは、やろうと思って法案を作ったが、それを潰したのがトランプだったと語り、それに続いて、トランプのラリー(演説集会)はとんでもない内容で、『羊たちの沈黙』に出てくるハンニバル・レクターという登場人物のことや、風車が癌を引き起こすというようなデタラメを話したりするので、みんな呆れて帰ってしまうという話をします。
これに挑発されて、トランプは自分のラリーのことを説明し、盛り上がった状態で不法移民の増加について語った流れで、不法移民が犬や猫さえ食べているという箇所が登場します。原文はこちらになります。
In Springfield, they're eating the dogs. The people that came in. They're eating the cats. They're eating -- they're eating the pets of the people that live there. And this is what's happening in our country.
(スプリングフィールドでは、彼らは犬を食べている。移民で来た人々のことだけど、彼らは、猫を食べている、彼らは食べているんだよ、そこの住民がかっているペットを。こんなことが我が国で起こっている)
これは司会者にファクト・チェックで注意されてしまうのですが、この発言で、オハイオ州のスプリングフィールドと、ハイチからの移民と、犬や猫が世界的な話題をさらってしまいます。
上で貼り付けた画像は、メディアで紹介されたものですが、インドの主要メディアの画像です。インドは本当にこういうネタが大好きです。この発言のおかげで、トランプは、ペットにとってのヒーローになってしまいました。トランプの発言を小馬鹿にしているのですが、彼が愛すべきキャラクターというステータスを世界的に勝ちえた結果と言えないでしょうか?
この討論会の直後に、世界的な歌手のテイラー・スウィフトがカマラ・ハリス支持を発表します。「子供のいない猫好きの女性」という副大統領候補のバンスの発言への皮肉として、猫と一緒の写真をアップします。実は、テイラー・スウィフトは数年前、映画実写版のミュージカルの『キャッツ』にも出演していたので(ボンバルリーナ役)、まさに絶対的キャット・レディですね。
トランプの発言とテイラー・スウィフトのおかげで、今年は猫が流行語となりそうです。
人道的なのはどちら?
この討論会の中で、ドナルド・トランプは戦争をとにかく終わらせて、人間が無駄に死なないようにすべきと主張しています。「ウクライナに勝ってほしいと思うか」という挑発的な司会者の質問にも、まずは戦争を止めると答えています。
これに対して、カマラ・ハリスは、ウクライナ支援を継続すると発言しました。イスラエルに関しても、イスラエルは自国を防衛する権利を持っていると発言しています。
この両者の発言を見る限り、トランプは戦争反対で、カマラ・ハリスは好戦的です。他の箇所でも、アメリカを世界最強の武装国にすると発言しています。イデオロギーを守るために、生命がどれだけ失われても気にしないという雰囲気さえしてしまいます。
討論会の中でトランプは、第三次世界大戦のリスクについて言及しています。しかし、それは誇大妄想の戯言としてカマラ・ハリスと二人の司会者に笑い飛ばされてしまっています。しかし、アメリカがウクライナやイスラエルを支援して、戦争をエスカレートさせていった場合、行き着く先が、第三次世界大戦そして核戦争となることは明白です。
恐ろしいですね。見かけは善良なふりをしていても、恐ろしい結果に繋がります。そのような事態は避けなければなりません。
アフガニスタン撤退の際、13人の米兵が亡くなり、多くの現地人が亡くなったのですが、カマラ・ハリスは民主党主導の撤退を成功だったと述べ、ドナルド・トランプは最悪の撤退だったと民主党を攻めました。ドナルド・トランプは、いろんな場所で、この撤退で亡くなった兵士たちに哀悼の意を表しているのですが、カマラ・ハリスは死者に関してはほとんど気にかけていない感じです。
不法移民の問題に関しても、犬猫の発言でトランプを笑い者にした際も、急に移民が押し寄せて大変な迷惑を被っている町の人々への同情の気落ちはカマラ・ハリスには全く感じられませんでした。そういう人たちよりも、夢に溢れて自分のビジネスを立ち上げるような恵まれた人々のほうに興味があるようです。
カマラ・ハリスは「自分は中産階級(ミドル・クラス)の出身で」と何度も発言しています。両親は大学教授や研究者なので、エリートです。いろんな発言を見ても、貧しい庶民の暮らしの実態がわからないんじゃないかとさえ思えてしまいます。
討論会の3日後、カマラ・ハリスはABC News6の単独インタビューを受けました。YouTubeで見たのですが、発言は10日の討論会とほぼ一緒でした。
インタビュアーは「先日の討論会でカマラ・ハリスさんのことがまだよくわからなかった。あなたの人物についてもう少し教えていただけますか」というような質問をします。すると何と「私は家族をとても愛しています。料理や、買い物をしたり…」という回答。そういうことを知りたいんじゃないのにとみんな思ったのではないでしょうか。
いろいろと個人的な見解を書いてしまったので、不快に思われた方も多かったかと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。アメリカ大統領戦はまだまだ紆余曲折があるでしょうが、マスコミに騙されず、冷静に動向を見定めていきたいと思います。と言っても私は専門家ではなく、この大統領制を一つのエンターテインメントとして見ているだけなので、よろしくお願いいたします。