還暦。
郵便受けを開けると、保険会社からの通知。
何かが振り込まれるらしい。
「生存給付金」
60歳まで生きていると貰える保険金だ。
アプリを開く。
もう、振り込まれてた。
こんな日が、本当に来るんだな。
この保険に加入した時のこと、よく覚えてる。
結婚式の後、新幹線で新居に移動して入籍。
新婚旅行の前日。
駅前の郵便局へ駆け込んだんだ。
28歳。
あの日は、60歳になるなんて想像もできなかった。
32年後なんて…。
そんな遠い未来。本当に来るのかな。
それがとうとう、来たらしい(笑)。
僕はずっと、保険が嫌いだった。
子供の頃から、父や同級生が突然亡くなるのを見てきたから。
病気や怪我の話が嫌いで、生命保険の話は聴けなかったんだ。
「あのね、万が一こういうことが起こっても困らないようにね…。」
全身に走る拒絶反応。
ああ僕、そういうの興味ないんで。すみません。
立ち上がって逃げ出す。
いつもそう。
あのまま独身だったら、加入しなかったかも知れないな。
結婚することになって、会社の先輩に言われた。
「これからは、お前一人の身体じゃなくなるんだぞ。」
確かに、そうかも知れない…。
我慢して保険に向き合う。
最初はキツかったけど、
納得できる保険が見つかるまで時間がかかったけど、
あの時加入して良かった。
30代。40代。50代。
病気して、怪我して、手術した。
その度に助けてもらった。
そして、まだ生きている。
あと数分で、その50代も終わる。
お父さん、お母さん、ありがとう。
僕は、間もなく60歳になります。
まだこんなですが、ここまで生きることができました。
何かの役に立てるよう、生きて行きます。
いつかお会いできる日まで、もう少し見守っていて下さい。
ありがとうございます。
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