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10万人に1人だけど一人じゃない。Part.2

希少がんの宣告を受けて、妻の笑顔が消えた。

5年生存率が低い、10万人に一人の病。
なんで私が…。
婦人科の執刀医に、2種類の抗がん剤を勧められた。
「早い方がいいです。いつ始めますか?」
次回の通院日から。
その場で決めたけど、家で調べる。
国立がんセンターは、抗がん剤の効果を認めていなかった。

セカンドオピニオンを申し出て、生きるための情報を探す。
やっと、専門医を見つけた。
「経過観察しましょう。転移なく10年経った人もいますよ。頑張りましょう。」
嬉しい。涙が出てくる。
「PET-CTで足の根元が光ってるけど、転移じゃないと思います。様子を見ましょう。」
3カ月に1度の検査。
大学病院と連携して、診てもらえることになった。
ありがとうございました。
深く頭を下げて帰ろうとする僕らに、先生が声をかけてくれた。
「これから、治療に良さそうな話をたくさん聞くと思いますが、信用しないで下さい。全く効きませんからね。」

実家のご両親が、妻を温泉に誘ってくれた。
ラジウム温泉。万病に効くらしい。
久しぶりに、親子3人水いらず。
ゆったり休めるなら、それでいい。

妻からのLINE。温泉宿からだ。
「お父さんが、青汁がいいぞって。」
そっか。
少し楽になれた。

妻がいない部屋で、沖縄旅行を予約する。
「医者半分、ユタ半分。」
沖縄では、医者に診てもらっても良くならない時は、ユタに診てもらう。
それで良くなることもあるらしい。
昔テレビで観た、ユタを探す。
電話が繋がらない。予約が取れないことで有名な、沖縄最強のユタ。
朝8時。ダメ元でかけた電話が、一回で繋がった。

伝えるのは、名前、生年月日、町名だけ。
相談内容は言わなくてもわかるって、
そんなこと、本当にあるのかな。
名前を呼ばれて、席に座る。

「奥さん、婦人系弱いね。でも大丈夫。命取られたりはしない。助かるよ。長生きするよ。」
ビックリした。
嬉しくて、涙が出る。
信じる信じないは、僕ら次第なんだろう。
でも、信じたい。信じてみよう。
心の支えになるなら、それでいい。

沖縄から帰っても、検索は続く。
次の検査までの間に、何かできること。
毎日夜遅くまで、二人で別々のPCに向かう。

西洋医学で治療できないなら、東洋医学かな。
漢方、サプリ、東洋医学、気功、遠隔治療、免疫力UP。
「全く効きませんからね。」
先生の言葉を思い出す。
そうだよな。

「鹿児島の遠隔治療。受けてみようかな。」
いくらなの?
「1回500円。」
いいんじゃない?
止めなかった。
700km先から飛んで来る気功が効くとは思わないけど、
少しでも気が休まるなら、それでいい。

詐欺なら、もっと高いはず。
この前電話した気功治療院は「とりあえず50万円」だったしな。

鹿児島からの遠隔治療は、先生の体調が悪化して1ヶ月で終わった。

「明日、広島へ行ってくるね。」
新しいとこ見つけたの?
「うん。」
いってらっしゃい。気をつけて。

会社から帰ると、妻が歌いながら夕食を作っていた。
「お帰りなさい。」
声が明るい。
どうだった?広島。
「大丈夫だって。邪気を感じないって言われた。」
女性の気功師。病気なら出てるはずの気が、妻からは出ていないらしい。
「PETで光ってるとこからも、出てないって。話を聴いてもらったら涙が出て来てね、自分でもびっくりするくらい泣いたら、心が軽くなった。スッキリしたの。」
久々の笑顔。
よかったな。

広島の先生の遠隔治療が始まった。
1カ月5.000円。
毎週月曜日。23時から30分。気を送ってくれる。
止めなかった。
少しでも気が休まるなら、それでいい。

妻が、市内に東洋医学の治療院を見つけた。1回3,800円。
「行ってみてもいい?」
いいよ。

仕事から帰ると、妻が指を廻している。
「お帰りなさい。この指を廻すとね、気が整うんだって。」
ただいま。そうなんだ。
全身に流れる気を測って、整えてくれたらしい。
「PET-CTで光ったとこもね、消してあげるって言われたの。
すごく普通に言ってもらって嬉しかったから、言われた通りにしてみようと思って、廻してるの。」

指定された指を、ぐりぐりと廻す。
テレビを見ながら、車の助手席で、ベッドでも、いつも廻してる。
僕もやってみたけど、けっこう痛い。
1日3,000回 ×4本。
そんなに、廻さなきゃいけないの?
「自分でやれることがあると、安心できるから。」
止めなかった。
少しでも、気が休まればいい。
それで笑えるなら、やればいいよ。

朝の散歩を再開した。
開腹手術の痛みが和らいできて、歩けるようになったから。
早朝、日の出前に起きる。
歩き出すと、朝日が昇ってくる。
今日一番の光。
元気で歩けることに感謝する。
このまま、生きられますように。

いつもなら折り返すコンビニで、妻が言った。
「あそこの神社まで、行っていい?」
いいよ。行ってみよう。
神社のベンチ。
正面の拝殿から歌が聞こえる。
こんな朝早くから、集まってる人がいる。
どんな人達なんだろう。

1週間後。神社の人に声をかけられた。
「よろしければ拝殿へお上がり下さい。宮司も是非と言っています。」
歌っていた皆さんが、優しい笑顔で迎え入れてくれた。
「いつも奥さんが下を向いていて、辛そうで、気になっていました。」
毎朝30分。朝日に向かって祈る。
祝詞奏上。深呼吸。瞑想。歌って、神様のご開運を祈る。
また、できることが増えた。
家から2.5kmの神社へ、毎朝通った。

3カ月後の検査。
やっぱり、同じ場所が光っている。
手術すれば、神経が切断されて、歩けなくなるかも知れない。
それでも、転移なら切除しなきゃならない。
検査入院。生体検査。
結果を聞くのが怖い。

問題なし。
転移じゃなかった。
涙が溢れる。
また3か月、生きられる。

休日も、神社にお参り。
病気を治すご神水が沸くという神社を見つければ、他県でも向かう。
鳥居をくぐると、空気が変わる。
狛犬さん、狛狐さん、御神木が迎えてくれる。
祝詞を上げれば、心が落ち着く。

お寺にも行く。
仏像の前で手を合わせて真言を唱えると、心が静かになる。
お守りと御朱印帳が、増えていく。

次の検査も、問題なし。
転移の危険が高い2年が過ぎた。
3カ月に一度の検査が、半年に一度でよくなった。

告知から8年半、妻は生きている。
転移もない。
検査は、1年毎になった。

ありがたい。

ラジウム温泉、気功、遠隔治療、ユタ、神社、寺、瞑想。指廻し。
「信用しないで下さい。全く効きませんからね。」
ご忠告ありがとうございます。
その通りだと思います。
西洋医学的には、ただの気休め。
でも僕らには、その気休めが必要でした。
薬も飲まず、何もせずに検査日を迎えるのが怖い妻が欲しかったのは、
「何か、自分でできること。」
気休めでいい。気が休まる何かが欲しかったんです。

声をかけてくれた人。
一緒に祈ってくれた人。
心の支えになってくれた言葉、優しい眼差し。
たくさん、助けてもらいました。
今日を生きられることに感謝します。

病気と闘っている皆さんの回復を、心から祈ります。
どうか、良くなりますように。
心穏やかに、過ごせますように。


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