法務人材養成Note  ~ビジネスの理解~

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 「経営法務人材スキルマップ」による法務人材養成に関するNote 第2弾

  ・対  象:スタッフ

  ・能力分類:企業人としての基本的能力―ビジネスの理解

 のスキル習得のためのアドバイスを記載するもの


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1.要求レベル及び要件

自社の事業の収益構造や法的構造を理解し、その強み、弱みを理解している。


2.趣旨

法務人材は、「法務のプロフェッショナル」であるべきなのはもちろん、「法務部門に所属するビジネスパーソン」でもある。

★「法務部門に所属するビジネスパーソン」であるため

①「ビジネスパーソン」として、自社がいかなる事業を展開して何を源泉に収益を上げているのか?【収益構造】

②「法務部門のビジネスパーソン」として、自社の展開する事業の法的枠組みはどのようになっているのか?【法的構造】

ということに対する理解が必要であるとともに、


★持続可能な事業の展開が求められる現代の営利企業における事業に関わるため

③収益構造や法的構造の(伸ばすべき)強みと(改善すべき)弱みはなにか?【将来予測の基礎事情】

を適切に把握することが必要となる。


本スキルは、上記の3つの観点から自らの所属企業を立体的に分析をし、適切な法的助言や行動をとることができるようにするために必要なものである。


3.スキル習得のためのアドバイス

(1)収益構造の理解

収益構造は、いわゆる「財務諸表(※)分析」を行うことにより、その全体像を把握できる。

※「財務諸表」は、会社法になじみのある者であれば『計算書類』(会社法435条2項)といった方がイメージしやすいかもしれない。

貸借対照表(B/S)や損益計算書(PL)、そのほかにキャッシュフロー計算書などを用いて、会社を財務面から定量的に分析するのが「財務諸表分析」である。

本格的な「財務諸表分析」を行うのであれば、財務諸表を作成するために日々日々行われている会計帳簿への記帳(いわゆる簿記)に関する知識が必要となるが、その詳細な知識までをフォローアップしようとすると、それだけで相応の時間を要してしまい、合理的ではない。

そこで、初心者向けの書籍を読んでみたり、信用調査会社(T〇B等)が行っているセミナーを受講してみるとよい。

財務諸表分析に関する初心者向け書籍としては、次の2冊をお勧めする。

①「100分でわかる 決算書分析超入門2023」

まさに入門書といった内容で、初心者でも財務諸表分析の基礎が学べる。題名に違わず、100分程度で効率的に学ぶことができる書籍としてお勧め。

②「ビジネス会計検定試験公式テキスト3級」

『どうせ新しいことを学ぶのなら資格も併せて取得したい』という方にお勧め。財務諸表分析の基本を学びつつ、”ビジネス会計検定試験”にチャレンジできる書籍。


(2)法的構造の理解

「法的構造」とは、現実にある事実を”法というメガネ”をかけて覗いたときに見える風景をいう。

企業において「法的構造」を理解する必要があるのは、主に”取引関係”である。

それは、事業による収益の源泉は取引をすることに求められ、”取引関係”の法的構造を理解することにより、自社の強み・弱みの大要を把握することができるためである。

そこで、”取引関係”の法的構造を理解するのに有用な『当事者関係図による俯瞰』という方法を紹介してみたい。

★当事者関係図とは?

当事者関係図とは、取引に関連する当事者(ステークホルダ)を抽象化した上で、権利義務関係(主にモノ・カネ・情報)を時系列順に整理した図のことをいう。


例えば、メーカーであるA社は、卸であるB社に、B社は小売であるC社にそれぞれXという商品を売る、というスキームを想像してみてほしい。

このとき、まず初めに、モノであるXははじめにAからBに渡される。また、Xを渡してもらうためにBはAにカネを支払う。これを抽象化すると、

こんな感じの図になるであろう。

次に、BはモノであるXをCに渡し、CはカネをBに支払う。これを抽象化すると、

となる。

ヒトが変わっただけである。そして、この2つの図にはBという蝶番が存在しているので蝶番で連結してみると、

という形に整理することができる。


ただ、このままだと、「時系列」が判然としない。

ここで、追加の情報として、

①BはCからの発注を基に、AからモノであるXを購入する

②AはBからの発注に基づいてBが指定する先(Cを指定するのが通常)にXを納入する

③Cは納入されたXに対して検査を行って検収をする

④Cは「ある月に検収したX」についてその代金をBに支払う

⑤Bは「ある月にCが検収したX」についてその代金をAに支払う

といった取り決めがあったとする。これを、上の図に落とし込むと、

のような図となる。

このように、図でまとめてみることにより、取引関係が明らかとなり、取引関係が明らかになることで、権利義務関係(法的構造)を理解することができるようになる。

上記の図を権利義務関係に引き直すと、

となり、これで法的構造を理解するための前提である当事者関係図が完成する。


(3)将来予測の基礎事情の理解

収益構造と法的構造が理解できると、おのずと「利点」「欠点」が浮かび上がってくる。

例えば、(2)の例で、当社がBの位置づけの会社であった場合、

「利点」としては、

Ⅰ.商品XはAから直送してもらう(①)スキームであるため自社在庫しなくてもよい

→法的な利点:在庫リスクを負わない。

※なお、B/S上「棚卸資産」として計上されるが経費とはならないことから節税効果はない。

といった点が挙げられ、


「欠点」としては

Ⅰ.欠品時のCに対する一次的な損害賠償責任を負わなければならない

→収益の欠点:損害賠償は雑損失となりPL上営業外費用が増加し経常利益率の悪化要因となる


Ⅱ.売り先であるCから代金の支払い(④)が滞っても買い先であるAの支払い(⑤)はしなければならない

→収益の欠点:売掛となるが履行不能状態(典型は倒産)となると貸倒処理           をすることになり販管費(販売費および一般管理費)が増加し営業利益率の悪化要因となる

といった点が挙げられよう。

(4)まとめ

財務諸表分析は、ビジネスマンとしての基本的なスキルであるともいえるため、「法務だから」とか「数字は苦手だから」として学ぶことに消極的になるべきではない。むしろ、「法務一辺倒」よりも「財務諸表分析もできる法務」の方が、現代の社会においては高価値となるといえるため、ぜひとも基礎的な財務諸表分析ができるようになってもらいたい。

法的構造の理解については、法務の基本的なスキルである。当社の概略的な構造理解にとどまらず、契約審査やM&A(法務DD)、機関法務のような多数のステークホルダが出てくる業務に発展応用でき、かつ、思考をシンプル化することで業務の効率化にもつながるため、身に付けるべきスキルであることは間違いない。

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