「急性」と「慢性」という病気の切り口②
「体内を快適にする宿命」ホメオスタシス
前回、ホメオスタシスについて話しました。
正直、みなさんが毛嫌いするワードなのでできるだけ使わずにいこうと心がけていましたが、ついに使わざるを得なくなってしまいました(笑)
とはいえ、ざっくり理解すればOKです。
わたしたちは身体中の細胞たちに元気よく働いてもらうために、体内の環境を快適にする「宿命」がある、ということ。そして、ほとんどの場合、その宿命は無意識に達成されています(すごいですよね)。
経過の「急さ」は代償機構が効くかどうか?に関わる
生体には、同様の考え方で、「生命維持を最優先にする仕組み」が備わっています。
失われた機能をサポート、もしくはカバーする「代償機構」というものがあります。では、「突然、ある機能が失われた場合」はどうでしょうか?
急性疾患は、割とシンプル
そう、代償機構やホメオスタシスが「間に合わない」ことが多いです。つまり、損なわれた機能そのものによる症状が出てきます。逆にいうと、「病気を理解する側からするとシンプル」なのです。
たとえば、心筋梗塞による心機能の低下。心筋梗塞は「急性心筋梗塞」と呼ぶくらいですから、「急性疾患」です。急激に心機能が低下してしまうため、(きつい心筋梗塞の場合は特に)全身の循環が悪くなります。もちろん、死なないように交感神経(闘う自律神経)が頑張りますが、それだけでは不十分です。治療は、「落ちた心機能をサポートする治療」になりますね。
また、喘息発作はどうでしょう。喘息発作も急激に発症する傾向がありますね。すると呼吸器の仕事の要である「換気」がうまくいかなくなります。純粋に「低酸素」が起こりますね。換気がうまくいくようにして、また酸素を吸わせてあげることが治療になります。
急激に甲状腺機能が亢進してしまったらどうでしょうか?甲状腺ホルモンが過剰だと、いわゆる交感神経が過剰に活性化してしまいます。すると心拍数が上がり、血圧も上がり、熱も出て、下痢になったりと、いわゆる交感神経が活発すぎることによる弊害が起こります。これも、交感神経を鎮める治療が必要ですね。
ざっくりすぎると怒られることは承知ですが、これらの急性疾患というのは、理屈はわりとシンプルです。
慢性疾患は、ちょっと複雑
慢性疾患は、代償機構、あるいはホメオスタシスが効く「時間的余裕がある」ため、少々複雑になります。徐々に失われた機能をカバーしようと、身体中のいろんなシステムが活発になるからです。
しかも、代償機構のために「無症状」の期間があり、「いつから発症したのか?」がよく分からないことも多い。
失われた機能をカバーしきれなくなってくると、ついに症状が出てきます。が、その前に、「カバーしようとして『無理をしている』所見・症状」が出てきます。
そうです。慢性疾患は、「徐々に損なわれた機能を維持しようとして『頑張っている』『無理をしている』所見に注目することがミソになります。
いくつか例を見てみましょう
さきほど挙げた「心機能の低下」。心機能が急激に低下するような急性心不全では、「循環不全」がメインのことがあります。
一方、慢性的に心機能が低下することで生じる慢性心不全はどうでしょうか。これは、「徐々に低下していく心機能をサポート・カバーしようとする」所見がメインになります。それが「うっ血」という所見です(理屈は今は知らなくても構いません)。心臓は「全身を『うっ血』させることでなんとか機能を維持しようとする」のです。ですから、慢性心不全の患者では「循環不全」よりも「うっ血」が症状の主役になります。
どうでしょうか、急性疾患に比べてシンプルには理解できませんよね。これが慢性疾患の難しさ、複雑さです。「慢性疾患は病態の理解が複雑なんだな」ということが伝わったらOKです。
同様に、慢性的な呼吸器疾患であるCOPDでは、低酸素血症が出てくる前に、「呼吸筋」が発達します。また、場合によってはヘモグロビンという酸素を運ぶ物質の量が増えたりします。さらには、多少酸素の数値が悪くても息苦しさを感じなくなったりします。
甲状腺機能亢進もそうです。徐々に機能が亢進する場合、交感神経が活発になる症状が出るよりも先に、「甲状腺刺激ホルモン」というホルモンが減少します。つまり、甲状腺に対し「活動しろ」と命じるホルモンが減少するのです。これは、ごく初期の頃であれば「採血でホルモンを調べてみるまで分からない」ということもありえます。
こうして、慢性疾患というのは、「疾患による影響をカバーしようとしている所見・症状に注目する」必要があるので複雑なんですね。