白パイス (2019.05.28)
平日の仕事帰り、久しぶりにDIVE TO WINEさんのイベントに参加した。
最近は頓に暑くなり、身体がついて行かず、毎日グッタリの日々が続いていたが、この日は参加せねばならぬ理由があった。
「カリフォルニアVS南米デイリーワイン対決」というお題目だったが、私の目的はただ1つ、チリのワイナリー、Bouchon Family Winesのパイス(Pais)を飲むことだった。
パイスとはスペイン原産の黒葡萄のことで、16世紀にチリに持ち込まれ、わりと最近まで同国で最も植えられていた葡萄だった。カリフォルニアでは宣教師が持ち込んだことから、ミッションという別名で呼ばれている。
私がこの品種の存在を知ったのはワインエキスパートの資格を取るために勉強していた頃だ。今は分からないが、当時はチリといえばCarménèreというような、馬鹿の一つ覚えみたいに結びつけて考える風潮があった。そんな中、パイスという品種は非常に魅力的に映った。実際には私がよく知らなかっただけだが、神秘に包まれていた。
そんなパイスを生産者と話をしながらテイスティングできるということで、いそいそと仕事を終わらせて現場に向かった。到着したのは19時頃だったが、店全体が良い感じに盛り上がっていた。幸い、生産者(男性)も帰らずに残っていてくれた。
この日はパイスを含め15種類のワインが用意されていた。通常は 泡☛白☛赤、軽い☛重い の順に飲んでいくが、今回は泡で仕事モードから頭を切り替えて、即パイスを試すことにした。スピトゥーンも用意されていたが、人間の感覚は直ぐに疲弊していくからだ。
ここで嬉しいサプライズがあった。パイスが2本あったのだ。赤と白...白!?「いや、待てよ。どうせピノノワールでよく作られているタイプの果肉だけを使うワインだろ...」と思ったが、実際には驚きの白パイスだったのだ。
この作り手はワイナリー周辺の野生のパイスからワインを作っている。ブドウは自然任せで樹木のように成長し、3mだか4mだかの高さにまで達している。この中に果実が赤く色付かないものがあり、それを早めに収穫し白ワインにしているとのことだ。
生産者に話を聞くと、野生ゆえ個体を識別していないため、はっきりしたことは言えないが、白パイスを付ける樹は決まっていると考えているようだ。毎年3,000本程度白パイスを出荷しているので、こうした突然変異の樹は一定数存在するが、ある年突然付ける実が赤から白に変わる訳ではないようだ。
早速期待に胸を膨らませ試飲してみたのだが、、、残念ながらこれといった特徴のないワインだった。発酵にはアンフォラ🏺を使い、ある意味手間暇をかけて作っていることは分かったが、個人的には期待したほど感銘は受けなかった。何も知らずに飲めば、ちょっとスパイスの効いた白ワインとして、美味しいと思っただろうが。
気を取り直して、通常の赤パイスを試飲してみたが、これが素晴らしかった。無濾過ゆえ見た目の濁りは強いが、ラズベリー等のベリー系の香りが中心で、軽やかでいてしかも旨味たっぷりの実にドリンカブルなワインだった。
なお、こちらはアンフォラではなく、通常のコンクリートタンクで発酵・熟成していようだ。タンニンを和らげるため、50%をカーボニックマセレーションしているとのこと。
この後で同じ作り手のカリニャンも飲んだ。こちらはパイスよりも断然肉厚で、しっとりした趣もあって個人的には好きなワインだが、今の時期に飲むならパイスだと思った。生産者も肉と合わせるならカリニャン、気軽に楽しむならパイスと言っていた。
パイスを一頻り楽しんだ後は、その他のワインも一通り全て試飲し、最後に赤パイスを購入、ボトルにサインして貰い帰路に着いた。今日の目玉はやはりパイスだった。詳しい人もそうでない人も、客は代わる代わる生産者を質問攻めにしていた。パイスには人を惹きつける魅力があるし、マーケティングも良かったのだろう。
これからジワジワ来ると思う。