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父と葡萄 (2019.05.02)

10連休を利用して実家に帰った。実家も一応東京なので電車でサクッと1時間程で帰れる。渋滞が何Km・・・という話をニュースで聞くと、東京に実家があるというのは実に便利だと思う。家庭料理が待っているし、大自然が待っていることはないが、一応庭もある。

父は家庭菜園が趣味で、その狭い庭に所狭しと花や野菜を植えている。庭だけじゃ納まり切らず、プランターも所狭しと並んでいる。そんな庭の一角にタナーTannat)が植わっている。

このタナー、自分が5年程前に植原葡萄研究所で購入し、実家に送ったものだ。タナーはフランス南西地方原産の品種だが、最近ではウルグアイの主要品種としてメジャーな存在になりつつある。

実は私も最初マンションのベランダでタナーをプランター栽培していたのだが、全く育たなかった。私の腕が悪いのは勿論だが、西日しか当たらない環境では厳しかったようだ。そこで、同じ都内ではあるが、日当たりもマシで地植え可能な環境で、父に栽培して貰うことにしたのだ。

父は当初栽培自体嫌がっていて、植えてもプランターだと言っていたが、結局片隅ではあるが庭に植えてくれた。そして、父の献身的な世話の甲斐もあってか、ここ2、3年は毎年実を付けている。酸っぱくて(糖度12度程度)、決してワインに使えるような代物ではないが、父も母も毎年収穫を楽しみにしているし、全く自分勝手な動機で始めた訳だが、結果的には良かったと思っている(笑)

この流れだと晩酌はタナーと言いたいところだが、実際には甲州の泡にした。この間「本当にうまい甲州ワイン100」という本を読み、内容自体には特に感銘を受けなかったが、甲州モードにだけはなっていたのだ。

父は大の日本酒好きで、ワインを否定することはないが、最後には「やっぱり、日本酒が一番」という人だ。この日も、「一ノ蔵」を持って待ち構えていたが、「甲州は日本の葡萄だから」と、無理やり日本繋がりを強調し、ワインを飲むことに成功した。

数ある甲州ワインの中から選んだのはフジッコワイナリーの「クラノオト」。手頃な値段なうえ、何よりもボトルデザインが気に入ったのだ。青いボトルにオレンジのエチケット、私好みの配色だ。

「濁ってる!」父は初めギョッとしたが、こういう製法だからと言って落ち着かせる。そんな父も1口飲むと、2口3口とクイクイ飲んでいる。

桃をかじっているようだ。

父がテイスティングコメントを述べたのは初めてではないか。私はかなり驚いた。家飲みでテイスティングコメントを披露することはないが、たまに自分が「オレンジみたい」とか「イチゴのようだ」と呟くと、「オレンジというよりも・・・(無言)」と、こういう表現を好まない空気を醸しだしていた。「ワインはワインに決まっているだろ」という無言のメッセージを感じていたのだ。

確かに酵母と桃のフレーバーを強く感じるワインだ。私も父の意見に賛成だ。しかし、コメントを頂戴できるとは想像だにしていなかった。「これは桃だ!」と母にも力説していたので、よほど自信があったのだろう(笑)。実に愉快な晩酌だった。

ちなみに「クラノオト」はシリーズもので、他に「ナイアガラ」、「巨峰」、「デラウェア」、そして本物の「桃」がある。「桃」はアルコール度数が4%程度ということなので、お酒が強くない人にもお勧めだ。

一泊で実家を後にしたが、次に帰るのはお盆辺りか。その頃には葡萄も実を付けているし、今年の出来栄えを確認できるだろう。晩酌では父のテイスティングコメントを再び拝聴したいものだ。



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