「ミラベルと魔法だらけの家」 ブルーノと多様性、ともちろんBTS
先日9歳の息子と鑑賞したディズニー映画「ミラベルと魔法だらけの家」がすごく良かった。ストーリーは「愛が奇跡を起こす」系王道ディズニーなのですが、裏テーマのひとつがいわゆる「みんなちがってみんないい」、SDGsでいうところのダイバーシティ。主人公は魔法一家で一人だけ無能力者だし、話の鍵を握るキャラクターは一家から存在を消されたはみ出しもの。しかもこのはみ出しもの「ブルーノ」のテーマソング "We don't talk about Bruno" は公開後2ヶ月を経てBillboardストリーミングチャート、Spotify、YouTube Musicで軒並み一位を獲得し、なんとアナ雪の "Let It Go"越えの記録を樹立。これには〜正直鳥肌でした。それは、この映画が全面に裏テーマを主張しすぎず、キャラクターの個性やシーン展開などのディテイルでうま〜く演出しているので、「私が読み取った」感が凄いからです。それってまるで上質なドキュメンタリー映画。共感というのは、相手に読み取らせるものであって、自分の意見を押し付けるものではないのですよね。
さて、話がどっかへいっちゃいそうなので戻します。「ミラベル」は南米コロンビアが舞台のお話で、魔法の力がある家「カシータ」で暮らすマドリガル一家でひとりひとりが異なるギフト(魔法の力)を授かる中、唯一ギフトを授からなかったメガネの冴えない女の子、ミラベルがヒロイン。自分だけが魔法の力がないことがコンプレックスだけれど、それを乗り越え家族の力になろうととにかく必死。
マドリガル一家は自由に花を咲かせたり、天気をコントロールしたり、動物と話せたり、なんでも持ち上げられたり、形態模写できたりさまざまな能力を持っているのだけど、その中で忌み嫌われ存在を消されたのが、ミラベルの叔父さん、予知能力者のブルーノ。"We don't talk about Bruno"はヒップホップとコロンビアの民族音楽、ダンスミュージックを融合させたナンバー。家族のメンバーたちがそれぞれ、ブルーノが予言してきた「ネガティブ」なことが現実になり、それがあたかもブルーノの責任かのように歌う。ブルーノは一家の暗い未来を予言してしまったことにより一家から追い出されてしまいます。彼の存在を消すことはつまり「臭い物に蓋をする」ことで実際の問題には触れようとしない、旧体制のマドリガル一家の象徴。蓋をしても臭いの元は残るわけで、能力のないミラベルがその勢いで臭いの元(家族の暗い未来)をなんとかしようと奮闘するのです。日本も助けてよ、ミラベル。臭いの元を探っていく中、ミラベルは能力を持つ家族たちもそれぞれのコンプレックスや悩みを抱えていることを知っていきます。明るい部分だけを見ず、暗い部分にも光を当てていこう、そういうメッセージが、もうビシっと刺さっちゃいました。Look on the dark side, not just the bright side.
SNSなどの普及で、多くの人からのいいね(承認)が求められるというプレッシャーの中、自分には何も能力(長所)がないんじゃないかと悩む若い女の子は多いはず。そして深く潜む問題に向き合い、ネガティブを乗り越えていこうと必死になるヒロインに多くの人が自らもそうありたいと、願ったはず。マイノリティやコンプレックスに寄り添う、というのが今の時代にしっくりくるヒーロー/ヒロイン像なのかもしれない。
そして、マイノリティのアンダードッグといえばBTS。2017年くらいに初めてJimmy Fallon ShowでパフォーマンスをするBTSを観て違和感を感じたことを思い出します。TVに映るのはアジア系アフリカ系がメインのアーミーたちの熱狂とそれを冷めた目で見る白人オーディエンス。その頃の自分には「作られた」「不自然な」アイドル像にしか映らなかったけれど、実は白人至上主義のハリウッドやビルボードチャートが不自然に作り上げられたもので、それにどっぷり浸かってしまっていた自分が違和感を感じてしまったのはBTSが今の時代、多様性を象徴するアイコンだったからなのです。90年代のカリフォルニアで自ら人種差別を経験した、のにもかかわらず私はアジア人が白人より優位に立つステージに違和感を覚えていた、なんて愚かな!それに気付いた時「こんな大人になってもまだ新しい世代に柔軟的に順応できる自分」をすこぉし、誇らしくも思ったほどです。その経験は、半生をすぎようとする私の今後の人生のトラウマにもなっています。
地球環境が失われつつある(ていうかもう失ってる?)この時代に、最も求められるのは現状を打破し当たり前を変えていく力。利便性を失ってでも、諦めちゃいけないものってたくさんある。
私はまずまず、少しずつ、前進しています。
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