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エノログ川邉久之さんの功績を雄弁に語った偉大な菊鹿ナイト・ハーベスト2005十九年熟成

川邉久之さんと言えば、長らく山形県の高畠ワイナリーさんに在籍された印象が強く実際2009年~2019年まで取締役製造部長の肩書であられたと記憶しています。それから御自身のワインコンサルティング会社エノリューションを設立、各ワイナリーの枠組みを超えて日本のワイン産業に数々貢献、しかし惜しまれながら2022年12月2日に永眠、享年59歳。

1963年 名古屋市生まれ

1988年 東京農業大学農学部醸造学科卒業、同年渡米し、カリフォルニアワインの銘醸地、Napo Valleyにて日本人初となる醸造責任者として15年間、ワインビジネスに携わる。

この間、California大学Davis校、Napa Valley Collegeで醸造、栽培、ワイナリー経営、財務、マーケティングなど多岐の関連分野を学ぶ。


2002年 帰国後、日本各地のワイン関連製品開発、品質改善などのコンサルタントとして関与する。


2005年 東京バイオテクノロジー専門学校醸造発酵コースで酒類業界希望の学生の育成、ワイン品評会審査員等など活躍の場を広げる。

2009年 株式会社 高畠ワイナリー取締役製造部長就任後は、国内外品評会にて上位入賞ワインを設計し日本で有数の高品質ワイン生産者へ変貌させる推進役として活躍。その傍ら、国税局、独立行政法人 酒類総合研究所、各地ワイン生産者組合などからの依頼でセミナー講演の講師活動、有名ワイン誌を中心に執筆活動を行い、ワイン製造に留まらずワイン文化向上に向けた活動を推進する。


2019年 ŒNOLUTION エノリューション 設立
エノログ(ワイン醸造技術管理士)としてワインの高品質化を核とし、ワインに関わる人の知を高めるべく創作に向け新たな事業を展開。

エノリューションHPのプロフィールより

川邉さんは知識量が圧倒的で且つ論理的に雄弁、なので実際にお会いして話を伺うとつけ入る隙がない程に様々な事を所謂マシンガントークで御教授くださる記憶でして、所々でちょこちょこっとお会いしていましたけどもしっかりとお話を伺ったのは2015年の夏。
元グレイスワイン、中央葡萄酒さんの栽培長であった赤松英一さん、現在では山梨県に明野ヴィンヤードさんを立ち上げられて代表をお勤めですが、そんな赤松さん御一行によるワイン用ブドウの栽培研修を主とした東北ワイナリーツアーに御一緒させていただいた時でした。そのようなシチュエーションもあってか、普段の語り口よりも一歩踏み込んだ内容の醸造や酒質、そして栽培などのお話を川邉さんから直接お聞き出来たのは良い経験でした。

また、これは一つの時代なのでしょうけども、近年のSNSの浸透具合、元々雄弁に加えて多筆でもあった川邉さんは多くのワイン雑誌類メディアへの記事の他にもFacebookにて結構な文量の有益なテキストを残されていて、これもまた一つの財産だと思っています。ただ、知人アカウントのコメント欄にて会話を重ねてたりしているところにユニークな見識を披露してくださっていたりして。そこまで深掘っていくのは難しいでしょうけども、御興味わく御仁は探求してみては如何でしょうか。


さてその川邉さんがお亡くなりになられてから丸二年ほど経ちますけども、2024年の後半に入って唐突に自分はとっても素晴らしい体験をする事が出来ました。その時の感動を、川邉さんのワイン業界に対しての一つの大きな功績でしょう今まで発信していた主にワイン醸造時のケアの重要性を示す資料群と共に、表題のワイン「菊鹿ナイト・ハーベスト シャルドネ樽発酵2005/熊本ワイン」を通してお伝えしつつこの場において記録として残したいと思います。


ではそもそもナイトハーベストとは何なのか?

ナイトハーベストとは、1990年代頃からカリフォルニアで盛んになった深夜から未明にかけてブドウを収穫する技法です。カリフォルニアの秋は、昼夜の寒暖差は大きく夜は冷え込みます。収穫したばかりの冷たい果実をワイナリーに朝一番で運び、フレッシュな状態で仕込みます。「朝摘みのフルーツをすぐにジュースにすると最高に美味しい!」のと同じようにブドウ本来の力を最大限に引き出せる方法です。

#カリフォルニアワインを楽しもうHPの2020年10月9日の記事より

冒頭の画像のワインラベルの通り、日本語にすると夜収穫当日仕込の意味ですね。因みにこの引用記事の文責は川邉さんです。
この記事自体はキャンペーンサイト向けに書かれたものなのでそのエピデンスとしてライトな印象を受けるものかもしれません。ここではナイトハーベスト自体に醸造学的に深掘りするつもりはなく、今回取り上げたワインそのものの理解の一助になってくれれば良い、というレベルでご説明したく、よって上述の引用記事に加えますと、①真夜中はブドウの植物としての呼吸が抑えられて糖度が比較的高い状態にある、②ワインのアロマ成分を醸成する前駆体も①と同様に高い状態にある、③気温が低い=ブドウの温度が低い状態で醸造を開始すると酸化や微生物汚染などの醸造リスクが低減する、などのメリットがあるとされています。デメリットとしては、、、ナイトハーベスト未経験なので聞いた話でしか過ぎませんけども真っ暗なブドウ畑は怖いという事らしいです(笑)。まぁまぁ、上記の③は冷却コストが抑えられてエコである、という論調もある一方で、真っ暗なブドウ畑でも作業を可能とする照明コストも発生するだろうとは考えられますので、例え前者の方が大きそうだとは言えこれは切り取り方次第かと。
とにかく、①②③に加えて、いずれのナイトハーベストと称する作業を経たであろうワイン達が、高品質であったのは飲用経験としてありますのでワイナリーにおける一つのテクニックではあるのは確かです。


そんなナイトハーベストの概念を日本に持ち込んで確立させた御仁こそ川邉さんです!ワインコンサルタント時代の2003年頃から熊本ワインさんで実践されたと記憶があります。それから高畠ワイナリーさんでも実践、そのアイテム達は両社における代表作となっています。また後者においては深夜の収穫体験を企画化して、沢山のワインラヴァーズに良質な思い出をサービスしました(未経験ですが確か高畠町の資源を活かして温泉までセットした素晴らしいプランだとか)。あの伝説のワイン漫画「神の雫」でもナイトハーベストの様子も含めてワインと川邉さん御自身も紹介されていました。漫画ビジュアルで見れる川邉さんは、イメージあるエネルギッシュさとは一線を画して、しっかりと「神の雫」ナイズ(その世界線では主人公が親の七光りでちゃんと敬われていて接する人達が恐縮気味)されていて対面した事がある御仁ならきっとクスっと出来ます(笑)。
私見では、川邉さん御自身は高畠ワイナリーさん在籍時の後半は製造の最前線からは一歩距離を置いて後進に道を譲られていたので、上述もしたようにナイトハーベストの価値をモノの深化ではなくその珍しい収穫方法をワインラヴァーズともシェアするというコト体験へとストレッチさせたのが最後のリソース分配だったかと思っています。ただし、退社後のエノリューション時代に、どちらかのワイナリーさんへのコンサルタントでナイトハーベストの技法を正統に伝える事で、それによって次代に素晴らしいアイテムがリリースされるかもしれませんので、その時は再び川邉さんの偉大さを思い出したい所存です。。。


さて、ではいよいよタイトルにも掲げましたワインについてです。

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