テイスティング実録 現代ワインを産地だけで語るべきか 2
こんばんは、じんわりです。
先回の投稿で「現代ワインを産地だけで語るべきか」というテーマをぶち上げてブラインドテイスティングに持ち込んでみたものの、試験設計の雑さにより滑らかなスベりを見せたこの企画ですが、実は初回の投稿前に第二弾のワインも仕込んでしまっていました。「何度かやってみて見えてくるものもあるだろう、やると決めたらやりきろう」という信念のもと、愚かにも同じ緩さの試験設計でブラインドテイスティングした結果を綴っていきますね。
前回はシャルドネでしたが、今回はピノノワールを「ブラインドでブルゴーニュかどうか利き分けれられるか」にチャレンジしました。とは言ってもただの好奇心から来るお遊び実験ですので、比較対象としたワイン2本の選択は正しかったのか、1組だけの比較試飲で産地云々を語れるのか、といった至極真っ当なツッコミはこの際お心の中にしまって頂いて、緩く軽く楽しんで頂ければと思います。
先回の投稿でも綴ったように、この企画の背景には「現代の進歩した栽培・醸造技術は昔以上にワインの酒質に大きな影響を与えている可能性があり、結果として産地がワインの品質や特徴に与えうる影響は昔に比べて小さくなっているのではないか」という個人的な仮説があるのですね。現代のワイン造りにおいて、「酒質をデザインする」ことは一定程度可能になってきているというのが私の実感です。
映画「モンドヴィーノ」でマイケル・ブロードベント氏がミシェル・ロラン氏監修のワインはメドックであってもマルゴーであってもポムロル化されることを語るシーンや、いわゆる「Parkerization」と呼ばれる現象などはまさにその好例ですね。そしてそれはボルドースタイルの酒質対比にとどまらず、世界中のいたるところで、特定の有名人気な産地や酒質をベンチマークとしてワインをデザインするという試みが行われているように思います。
例えば
「(産地はブルゴーニュではないのに)まるでブルゴーニュのようなピノノワール!」といった具合ですね。
「現代ワイン」の“現代”をどのように定義するかは、どのイベントを起点に“現代”と“それ以前”に分けるかという点でかなり難しいですね。例えば「パリの審判」を境にするのか、「乾燥酵母が商用化され始めた時期」とするのかなど、いろいろな切り口があるように思います。とは言え便宜的に定義付けをしておかないと始まりませんので、温度管理など醸造におけるより科学的なアプローチが根付き始めたとされる1960年代以降を本稿の文脈での“現代”としておきましょうか(この点にお詳しい方がいらっしゃったらご助言頂けると嬉しいですね)。
ルール
できるだけ近似した価格帯のブルゴーニュ産ピノノワールとカリフォルニア産ピノノワールを3点仲間外れ試験で利き分けれられるか、どちらがブルゴーニュ産かの利き分けにチャレンジ
比較対象ワイン選択の経緯
前回同様「一般的常識的な予算の範囲内でカリフォルニアだけれどもブルゴーニュと利き違えるような酒質(例えば、Alc.12%台、酸味がやや強めなど)の赤を選んで頂きたい」という無茶振りをとあるプロの方にお願いしました。例えば北イタリアのピノから選んで頂くよりカリフォルニアから選んで頂く方が気候的には難しいと考え、気候が大きく異なるカリフォルニアでブルゴーニュと利き違えるなら先述した自身の仮説にリアリティが出てくると考えたことが理由です。
お見立て頂いたのは¥2,500/750ml, Alc. 12.7%ピノノワール。積算温度(*)がブルゴーニュより高いはずのカリフォルニアで甘口でないAlc.12.7%のピノをお見立て頂きました。(無茶振りしてスミマセンでした)
(*)温暖寒冷の度合を数値化・分類したクラシックな指標です。詳細ご興味ある方はグーグル教授に聞いてみてください。積算温度が高い(=温暖な気候)ほど収穫時のぶどうの糖度は高くなる(=ワインになったときのアルコール度数が高くなる)、酸度は低くなる、ということですね。
お勧め頂いたカリフォルニアの赤に対するベンチマークとして選んだのは以下のワインです。
AOC ブルゴーニュ ¥3,600/750ml、Alc.13%
比較試飲当日に手に入るワインの中で、1本¥2,500のブルゴーニュは流石に見当たらず、最も近い価格帯が¥3,000台のワインでした。その中で飲み覚えがあり、比較対照として一番安定しているだろうと思われたのがこのワインでした。
その他
調べるのが大変になってくるので両産地の当該ヴィンテージの気象データを比較検証するのは止めることにしました。ヘタレですみません。
また、ワインを購入しているのが私であるため、比較ワイン2本の産地がブルゴーニュとカリフォルニアであること、ワインの銘柄や事前情報を私が知ってしまっています。その意味で完全なブラインドテイスティングではなく、お遊びの域を全く超えません。
比較試飲の流れ
両ワインのブラインドテイスティングを開始する直前の品温は10.5℃でした。試飲中の品温は約11~12℃であったと思われます。
Duo-trio testとも呼ばれ官能評価法(平たく言うとテイスティングです)における国際標準(ISO)のひとつとして利用されている方法をベースに行いました。
2つの異なるワインに対してINAOグラスを3脚用意して2脚に一方を1脚にもう片方を同量注ぎ、それぞれに乱数表で提示された3桁の番号をラベリングします。乱数を自動生成してくれるwebサイトから876、100、338という3ラベルを拾いました。
これら3脚のグラスそれぞれを利き、仲間外れを識別できるかどうかで2つのワインに違いを感じられるかを確認します。その後、各識別番号のグラスのワイン産地についても答えます。
本来なら3つのグラスのうち1つが別のワインであるという前提も知らされないままに3つのグラスをテイスティングして、3つとも同じワインか、異なるワインがひとつ紛れ込んでいるかの判断から入る方が結果に対する信憑性は高まるのですが、企画者(私)が被験者(私)であることや、「ブルゴーニュらしい非ブルゴーニュを利き分けられるか/られないか」というテーマのため、それが不可能なのですね。
また両被験ワインの色調が違う可能性を事前に見越しておいて、視覚情報から生まれるバイアスをアイマスクで遮断した上でテイスティングする方が盲検性を高めるのですが、介助者が両者の色みに大差がないと判断したため恒例のペンギンさんアイマスクも使用しませんでした。
3点のテイスティングを行い、感じとった情報をひととおりメモに書き込んだ後に識別結果と産地を介助者に宣言してから、介助者から正解を言い渡してもらいます。
比較試飲の結果
仲間外れ探しの結果
グラス番号876、100、338のうち100が仲間外れであると感じました。つまり、876と338は同じワインと感じました。これらと100は上立ち(グラスから立ち上る香り)も口中の味香りも明らかに違うと感じられました。
差異の詳細比較結果
2つのワインの比較を以下一覧にまとめています。
特に決め手となったのは100に感じられた何等かの不快臭(セロリ様?厳密に言うとセロリそのものでもないのですが)でした。所謂青臭茎臭の類と判断しましたが、成分濃度が高かったからなのか、未体験の感覚で特に初めのうちは混乱しました。まずは自信なげにブショネ(トリクロロアニソール)と書き留めたものの、何度か利くうちにメモ書きした「ブショネ」を二重線で消しています。100と向き合っていくにつれ典型的なコルク汚染とは言い難い何か別の不快臭(実際、テイスティング完了後にコルク末端を嗅いだところブショネは感じられませんでした)を確信し始めた様子が伺え、テイスティングのメモは過去の自分の知覚・思考の流れを客観視できて面白いですね。ワイン業界の中の人です、とか宣っておきながら「なんでもブショネ症候群」に片足突っ込むあたり、円熟味を帯びたポンコツですね(笑)反省してます・・・。
ピーマンやゴボウ(メトキシピラジン)とやや誤認しそうな青っぽい臭いに感じられましたが、ピーマンそのものとは言い難い印象を受けました。もしかするとアルデヒドの類、例えばヘキサノールやヘキサナールなどの成分だったのかもしれませんね。よく言えば「緑の香り」「パクチー」「ハーブ」「青草」といった表現もできるでしょうが、悪く言えば・・・(自粛します)。いずれにせよ心地よいとは感じられない突出したレベルの臭いが上立ちと口中に感じられました。一般消費者さんが飲んでも違和感を感じるレベルだと思います。
この不快臭(オフフレーバー)があってもなくても、他の香りの種類、タンニンと酸味の質感から、3点仲間外れの識別はできたように思います。876と338をブルゴーニュと判断した理由ですが、これら2つのグラスの特徴をメモに起こしてみると、いかにもブルゴーニュといった味香りの方向性で酸もしっかり、このあたりが判断基準になりました。タンニンとボディは私が思う平均的なブルゴーニュにしては強く太いという印象でした。
例のオフフレーバーを意識から排除して100のワインに向き合うと、ピノノワールの典型的特徴は感じられましたが、良くも悪くもよりニューワールド的なまとまり方を感じました。感覚的なものでまともな説明になってなくてスミマセン・・・
もしかすると100のワインは876および338のワインより醸造時の介入レベルが高かった(*)のかもしれません。発酵中はもちろんのこと、例えばろ過清澄や熟成の部分ですね。
(*)誤解を招かないために書かせて頂くと、畑やセラーにおける造り手さんの介入について、私は肯定派で介入レベルが高いから美味しくないとは思っていません。むしろ人為介入がワインのティピシテ(「らしさ」とでも訳しましょうか)を最大化し保つものだと信じています。
じんわりの選好
100にオフフレーバーがなければ甲乙つけがたい、面白い比較になったように思います。
答え合わせ
最後に答え合わせを。
876 → AOC Bourgogne 2016
100 → AVA Santa Maria Valley Pinot Noir 2011
338 → AOC Bourgogne 2016
3つのグラスの酒質に大きな差がないことにより、産地の個性よりも栽培・醸造技術の方が酒質に与える影響が大きいことを暗示し、「現代ワインを産地だけで語るべきか」という問題提起をしたかったのですが、今回もフルスイングで空振りでしたね。ポンコツセンスですみません(汗)
前回同様比較ワイン2本の組み合わせを事実上無作為もしくは、中途半端な作為で選んでしまうとその2本の酒質はまず似通りませんね。前回今回の2フライトで感じた教訓は、「(一定仮説を検証するために比較試飲するなら)ワインはある程度作為で選び、テイスティングは無作為で」ということでしょうか。そうすることで本テーマの識別難度が上がり、もう少しましなお遊びになるように思います。もし次回もやるなら2本とも自分の作為で選んでみましょうか。
エピローグ
AVA Santa Maria Valley Pinot Noir 2011にオフフレーバーがなく¥2,500であれば、産地と品種の相場感も考慮すると優良コスパワインだったように思います。
ところで、¥2,000台で2011ヴィンテージって、訳あり品の処分価格ってことではないですよね?
ないない!(性善説)
お酒はハタチになってから
今夜も思い通りにならないワインたちに、さんて!
じんわり
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テロワールってなんなんですかね
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