映画「モンドヴィーノ」から考えるワインの“あるべき姿” 前編
まとめ
・「モンドヴィーノ」はワイン業界の知られざる内幕を記録したドキュメンタリー映画
・ドキュメンタリー映画なので好みが大きく分かれます
・「いいワイン」「おいしいワイン」とは何かを考えるきっかけを与えてくれる映画
こんばんは、じんわりです。
ワインにまつわるドキュメンタリー映画である「モンドヴィーノ」を私が初めて鑑賞したのは数年前のことでした。当時はいろいろと考えさせられましたし、今も解決はしていません。
「モンドヴィーノ」は映画作品の規模感で言うと所謂「ミニシアター系」、昔で言うところの「単館系」みたいな分類で、内容も万人ウケする大衆向けというよりはマニア向けのマイナーな作品ですね。私は映画に全く無頓着なのですが、今まで観たいくつかのワイン映画の中でも一番衝撃的だった作品がこの「モンドヴィーノ」でした。今でもたまに一人上映会をやってますが全然飽きませんね。ドキュメンタリー映画なので好みが分かれるかも知れませんが、ワインについてあれこれ考えることがお好きな方にはハマる一本かもしれません。
この映画をご覧になる前と後では皆さんにとっての「ワインの価値」や「おいしいワインの基準」が良くも悪くも変わるかもしれません。映画としての評価・評論は映画好きの方にお任せするとして、ワイン業界の中の人の立場から「モンドヴィーノ」が提起してくれた(と私は考えています)ワイン業界の潜在的(今や顕在的?)な問題、「ワインはどうあるべきか」について私見を綴ります。映画の内容詳細には極力触れないようにしていますが、気になる方はここで画面を閉じて頂き先にDVDをご鑑賞頂いてはいかがでしょうか。
本テーマは前編と後編に分けて綴ります。ご興味があれば「ワインはどうあるべきか」について一緒に考えてみましょう。
映画「モンドヴィーノ」のみどころ
・一般消費者が知り得なかったワイン業界の内幕を炙り出すあらびきドキュメンタリー
・2000年前後のワイン業界のトレンドと今を比較できる
・「いいワイン」「おいしいワイン」とは何かについて考えるきっかけを与えてくれる
とにかくあらびき。世界各国のワイナリー、醸造家、業界人に体当たりで取材していきます。世界中を取材で飛び回り各国ワイン業界の大御所たちからアポを取り付け撮影にまで漕ぎ着けてしまうバイタリティと遂行力に脱帽ですね。
この映画が初公開されたのが2004年です。登場人物に対する取材撮影は2000年から開始したとノシター監督は語っていました。この頃は良く言えばとにかく濃厚なワインが世界中の流行りだったように思います。
対して近年のワインスタイル(ワインの特徴)の流行りはどうでしょうか。低アルコール化のトレンドから見て取れるように、当時の真逆であるように感じられないでしょうか。当時のキーワードが「リッチネス」「フルネス」といったものであれば、ここ最近は「フィネス」「エレガンス」といった趣きでしょうか。
私がワイン業界でお世話になっている大ベテランの先輩は「ワインスタイルには流行があり、我々はここ数十年の間に正反対の二極を経験したように感じる。」とおっしゃっていました。
具体的に言うと20年ほど前はアルコール度数が高く果実や樽由来のバニラの香りがグイグイ来る印象の強いワイン、最近は香りや濃厚さやアルコール度数はやや控えめで比較的穏やかなワインが流行りの中心にいるように感じます。
これからはどうなっていくのでしょうか。流行りのサイクルが何年程度なのか、次なるトレンド候補がどのようなものなのか、全く想像がつきません。
本作の監督であるジョナサン・ノシター氏はもともとはソムリエでありワインに一家言ある方のようです。彼は映画の中で(彼の著書の中でも)「ワイン造りとその思想はこうあるべきだ」という一貫した軸を我々に提示してきているように私には感じられました。特定のキャラクターを持ったワインがもてはやされ世界中に溢れていく一方、旧来のワインも経済的・マーケティング的な事情で流行りに追従することを余儀なくされている。結果としてワイン全体が多様性を失っていくような事態を憂いているように感じられます。「ワインは画一的、作為的、過度に経済的であるべきではない」≒「ワインの過度なグローバリゼーションに反対」という意見表明だと私は受け取りましたが、ご本人は「ワインのグローバル化に疑問をもって本作を手掛けたわけではない、人間ドラマを撮りたかった」という旨のコメントを2006年のUNIFRANCE(フランス映画の振興団体)のインタビューに対して残しています。
以上、私が「モンドヴィーノ」に勝手にインスパイアされて私見を撒き散らす後篇に続きます。
さんて!
じんわり