おいしくないワインの共通項:ワインの不快臭って?
本稿はワインビギナーの方およびワイン常習者さん向けに作成しました。
全文無料公開ですが「投げ銭」制も採用しています。
まとめ
主なワインの不快臭は以下7グループ
1. 酸化臭
2. 酢酸臭
3. 硫黄系臭
4. 薬品臭
4. 馬小屋臭
5. コルク汚染臭
5. 未熟臭
こんばんは、じんわりです。
別稿:簡単!おいしいワインの「基準」と「値頃感」にて、ワインビギナーの方にはまず「臭くない」ことをワインの良品基準と捉えて頂いては?という提言をしました。
その背景に、ワイン醸造において不快臭(味)を呈さないワインを造るというのは意外に難しいという現実があります。程度の問題ではありますが、どれだけ丁寧に醸造していてもワイン中に幾分かは不快臭(味)の成分が諸々含まれてしまうものです。または熟成中や流通過程の不具合から顕在化する不快臭(味)もあり、それらが度を超えてくるとワイン中の心地よい果実の香味を覆い隠して感じ難くするのですね。
そうすると、『「臭い」って具体的にどんな臭いなの?』と疑問が出てきます。飲み手の方があるワインを直観的に臭いと感じれば、そのワインはその方にとって何らか不快なのであって、それ以上の理屈は必要はないかもしれません。
知的好奇心が旺盛で「この臭いはどこから来るのか?」に思いを巡らせる方もいらっしゃると思います。なぜ?なに?を繰り替えすのはとてもいいことですね。
不快な臭いの種類や相対的な強弱を具体的に言語化できるようになると、ワインの味香りを定性化し、仕分けし、記憶しやすくなりますね。それを積み重ねることによってあなたの脳内に「ワインライブラリ」が出来上がっていきます。そこまで行きつくとワイン選びは自然と主体的・能動的になりますし、価格と品質や異なるワイン間の対比も容易になってきます。「この味香りでこの価格なら、先週飲んだあのワインより品質が良いね」と言った判断がある程度の確かさで主体的にできるようになり、ワインを選ぶのがもっと楽しくなるということですね。
本稿ではワインに頻発しがちな主な不快臭の種類を簡単にまとめています。ビギナーの方もお読みになることを想定して成分名ベース(例:アセトアルデヒド=酸化臭の原因物質)でまとめることを敢えてしていません。比較的マイナーと考えられる一部の不快臭グループは割愛しています。
1. 酸化臭
「酸化臭」だけだと漠然としていますので、それらの臭いを別のわかりやすいものに例えて、原因やコメントも簡単にまとめています。正常な発酵であっても微量は産生される酸化臭成分もありますが、微量の場合は少なくとも不快臭として感じられないか、ワインの良さに寄与する場合もあります。ワインの専門家であるJamie GoodeとSam Harropの報告によるとワインコンクールで100本中1本程度はこの類の不快臭に侵されたワインだったようです。
シェリー、ナッツ、青りんご
字面だけみるとワイン中にあってもいいように感じられますが、これらを過剰に含んだワインを実際に嗅いでみると、バランス感に欠け突出した不快感をお持ちになる方が多いと思います。
発酵工程管理が不適切であった可能性、酸化防止剤(亜硫酸)の添加量が少ないか効いていない可能性、汚染菌に侵された可能性があります。
2. 酢酸臭
ビネガー、除光液、セメダイン
ビネガーはあのツンとくる食用酢です。除光液とセメダインの同じ臭いを例えたものですが、マニュキアを塗る女性には除光液の小瓶から立ち上る臭い、一方子供の頃プラモデルづくりに没頭した男性にはセメダインの臭いをイメージして頂けるとわかりやすいでしょうか。
貯酒管理中に汚染菌に侵された可能性が高そうです。
3. 硫黄系臭
腐ったキャベツ、たまねぎ、にんにく、ゴム、腐った卵、ドブなど
これらのうち流石に腐った卵やドブの臭いは程度として重症で、これらの臭いを呈するワインが市場に流通することはまずないと思って頂いて良いと思いますが、キャベツ・たまねぎ・にんにく系の臭いが仄かに臭う程度のワインならある程度の頻度で遭遇するように思います。海苔、缶詰のコーンや高級なお茶から感じられる臭いと形容した方が日本人の我々にとってはわかりやすいでしょうか。先述のGoodeとHarropの報告によるとワインコンクールで100本中2本程度はこの不快臭に侵されたワインだったようです。このグループの臭いはプロからは還元臭と呼ばれることも多いですが、これら臭いの成分は共通して硫黄を含みます。幣ブログでは硫黄の文字があったほうが臭いをイメージしやすいと考え便宜的に硫黄系臭と呼んでいます。
余談ですが、特定のスタイルを狙った白ワインでは少しの硫黄系臭(火打石、マッチような臭い)は好ましい特徴=「らしさ」として受け止められるのが一般的なように思います。また、硫黄を含むワイン中の成分にもグレープフルーツやパッションフルーツのような心地よい香りを呈するものもありますので、それらは別記事でワインの好ましい香りとして書いていこうと思います。同じ硫黄系でも善玉悪玉両方が存在する、複雑ですね。
主には発酵工程管理が不適切な可能性があります。発酵中に酵母が劣悪な住環境に苦しんだ結果、醸造家へのSOSとして、また我々消費者へのダイイングメッセージとして残していった臭いと言い換えるのも一興でしょうか。
4. 薬品臭
薬品、バンドエイド、けむり、ほこり、正露丸
このグループの臭いは赤ワインよりも白ワインに多く、特に日本のアイコン品種「甲州」は他の海外白品種に比べてこの類の臭いを感じる頻度強度は大きいでしょう。醸造家の間ではこのグループの臭いを「フェノレ」と総称します。特に甲州を使ったワインの生産者さんの一部にフェノレの極小化を必達目標とする傾向が見受けられますが、甲州から感じられるこれら燻したようニュアンスを「らしさ」としてポジティブに捉える向きもあるようです。フルーツの好ましい香りを邪魔しない程度にほんのり感じられるくらいなら受け入れられる臭いだろうな~、というのは私の個人的な嗜好であって苦手な方は受け入れられないかもしれません。
特定のぶどうと特定の代謝特性を持つ酵母によって作られた白ワインに主に感じられる臭いです。
5. 馬小屋臭
レザー、動物、馬小屋、動物園、動物のウ〇チ
このグループの臭いは白ワインよりも赤ワインに多いです。先程薬品臭として正露丸を例示しましたが、こちらのグループも正露丸の臭いと感じられる方がいらしゃるかもしれません。先程の薬品臭と馬小屋臭の臭い成分の関係は親戚のようなものと捉えて頂くと良いかと思います。先述のGoodeとHarropの報告では100本に1本あるかないか程度の遭遇頻度だったようですが、市販ワインではもう少し遭遇頻度が高いように感じます。私自身の経験を真剣に数え上げたことはありませんが、100本に5本前後と言われてもさほど違和感を感じません。
貯酒管理中に汚染菌に侵された可能性が高いです。
6. コルク汚染臭
カビ、土
一般の方に最も知れ渡っているワインの不快臭と言えばこれではないでしょうか。所謂「ブショネ」と呼ばれるものですね。
コルクに含まれる防虫剤・防黴剤がカビにより代謝された可能性があります。GoodeとHarropの10数年前の報告では100本に2本程度の遭遇率だったようですが、最近ではブショネフリーを保証するコルクが世に出回ってきていますし、スクリューキャップのワインでは理屈上発生しえない臭いです。こちらも技術の進歩とともに1近頃は減ってきているんじゃないでしょうか。
7. 未熟臭
未熟臭その1:茎、葉
植物の茎や葉を切断したときに立ち上ってくる青物系の臭いですね。未熟臭と感じるものの正体は茎臭に代表される「緑の香り」の成分のみならず、実は硫黄系臭が我々の未熟臭の感じ方を増強するという議論も耳にしたことがありますが、今のところコンセンサスとして認知されるレベルには至ってないように感じます。
未熟臭その2:ピーマン、ごぼう
ソービニヨン・ブランという白品種では唯一「らしさ」の構成要素として不快臭の謗りを免れます。未熟なカベルネやメルロといった赤品種からも感じられる臭いですが、ソービニヨン・ブラン以外は一般に不快臭としての共通認識が持たれています。
いずれのグループも主にぶどうが未熟か適熟でない場合に発生する可能性があります。諸事情があって完全な成熟ステージまでぶどうを育てられないケースがあり得るということですね。日本のようなワイン(特に赤ワイン)にとって厳しい気候条件下の生産地はその最たる例だと思います。
これらの不快臭はワインのプロであれワインビギナーの方であれ、健康な体と嗅覚をお持ちの方であれば誰にでも普通に感じとれる臭いの種類であるはずです(感じた臭いを言葉で言い表せるようになるにはある程度訓練が必要ですが)。具体的に「キャベツの臭いだ」とか「ピーマンの臭いだ」と言語化して言い当てられなくても直観的に臭いと感じられればそれだけで充分です。興味が湧けば訓練(=できるだけ多種類のワインを飲んでどんな香りがするかを考える訓練、香り成分のキットを使って遊びながらの訓練)されればよいでしょう。
臭い成分がワイン中に感じられることは即ち心地よい香りをいくらか覆い隠してしまっている状態です。臭くないワインは必然好ましい香りがする心地よいワインであるはずです。
ワインを楽しむことに余計な知識は全く不要ですが、知識があることでワインビギナーの方が不安や迷いから解消される場合や、ワインがもっと楽しくなる場合もあることと思います。本稿が少しでも皆様のワイン選びのお役に立てれば嬉しい限りです。
さんて!
じんわり
関連稿:何をもってワインを「おいしい」とするか、ワインビギナーの方に提言させて頂いています。
以降に文章はありません。
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