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ワインソムリエ講座48/アリゴテ

アリゴテ(Aligoté)は、フランスのブルゴーニュ地方を中心に栽培されている白ワイン用ブドウ品種の一つで、長い歴史を持つことで知られています。ブルゴーニュの中ではシャルドネと比較すると注目度が低いものの、近年その個性が再評価され、特にナチュラルワインや地域特有の個性を生かしたワイン造りにおいて注目されています。本稿では、アリゴテの特徴、歴史、栽培と醸造の特性、代表的な生産地、そして料理とのペアリングについて、詳細に解説します。

1. アリゴテの基本的な特徴

アリゴテは、白ブドウ品種としての以下のような特徴を持っています:

(1)ブドウの外観

アリゴテの房は中程度の大きさで、ブドウ粒はやや小ぶりです。熟すと薄い緑がかった黄色の果皮となり、果汁量が比較的多い品種です。

(2)香りと味わい
• 香り
アリゴテのワインは、柑橘系(レモンやグレープフルーツ)や青リンゴ、白い花の香りが特徴的です。また、爽やかなハーブやミネラル感が感じられることもあります。若いアリゴテはフレッシュでフルーティーな香りが強く、熟成を経ると蜂蜜やナッツのニュアンスが加わります。
• 味わい
アリゴテの酸味はシャープでフレッシュな印象を与えます。軽やかでピリッとした辛口の仕上がりが一般的で、アルコール度数は比較的低め(11~12.5%)です。ミネラル感が強いワインになることが多く、これがテロワールの影響を強く反映していると言えます。

(3)用途とスタイルの幅

アリゴテは、シンプルで日常的なテーブルワインから、熟成が可能な高品質ワインまで幅広いスタイルが存在します。特に、ブルゴーニュ地方では、キールというカクテル(アリゴテとカシスリキュールを合わせたもの)のベースとしても親しまれています。

2. アリゴテの歴史と起源

アリゴテの起源は16世紀のブルゴーニュ地方にさかのぼるとされています。現在ではブルゴーニュを中心に世界各地で栽培されていますが、以下の歴史的背景が重要です:

(1)ブルゴーニュにおける地位

アリゴテは、シャルドネやピノ・ノワールと並びブルゴーニュの伝統的な品種の一つとされています。しかし、その地位はシャルドネに比べるとやや低く、特に上級畑ではなく、斜面の下部や痩せた土地に植えられることが多かったため、長らく「補助的な品種」として扱われてきました。

(2)フランス国内での普及

19世紀後半、フィロキセラ禍(ブドウの害虫被害)により多くのブドウ畑が壊滅的な打撃を受けました。この際、アリゴテは強い生命力を持つ品種として注目され、ブルゴーニュ以外の地域にも広がりました。

(3)国際的な展開

フランス国外では、特に東ヨーロッパやロシアでの栽培が盛んです。これらの地域では、アリゴテが寒冷な気候にも耐性があるため、比較的高品質な白ワインが造られています。

3. 栽培と醸造の特性

(1)栽培条件

アリゴテは寒冷地に適した品種で、霜害に対する耐性が比較的強い点が特筆されます。ただし、痩せた土壌や標高の高い場所に植えると、特有の酸味がより際立ちます。
• 土壌
石灰岩質や粘土質の土壌を好みますが、肥沃すぎる土地では香りや味わいが平坦になる傾向があります。
• 気候
冷涼な気候が最適で、熟成期間が長いほど酸味とフレーバーがバランスよくなります。

(2)醸造の工夫

アリゴテは、その高い酸味を生かした醸造法が求められます。
• 発酵
ステンレスタンクで低温発酵を行うことで、フレッシュさと果実味を最大限に引き出すことが一般的です。
• 熟成
樽熟成を行う場合もありますが、オークの使用は控えめで、主に果実味を生かすスタイルが主流です。
• ブレンド
アリゴテ単一で醸造されることが多いですが、一部では他の品種とブレンドして使用されることもあります。

4. 代表的な生産地

(1)フランス
• ブルゴーニュ地方
アリゴテの本拠地であり、特にコート・シャロネーズやマコネーで栽培が盛んです。中でも「ブーズロン(Bouzeron)」は、アリゴテのみを使用したAOCで、独特のミネラル感と繊細さで知られています。
• ジュラ地方
隣接するジュラ地方でも栽培が行われ、酸味を生かしたスパークリングワインに使われることが多いです。

(2)その他の地域
• 東ヨーロッパ
ブルガリアやルーマニアでは主要な白ブドウ品種の一つとして広く栽培されています。これらの地域では、アリゴテの酸味を活かしたすっきりとした辛口ワインが生産されています。
• その他の国
アメリカやニュージーランドなど、世界各地で小規模ながらアリゴテの栽培が行われています。

5. 料理とのペアリング

アリゴテのフレッシュな酸味とミネラル感は、さまざまな料理と相性が良いです。以下にいくつかの例を挙げます:

(1)魚介類
• 生ガキやホタテのカルパッチョ
アリゴテの酸味が魚介の旨味を引き立てます。

(2)軽い前菜
• シンプルなサラダやグリーンアスパラガス
軽やかなフレッシュ感が野菜の風味とよく調和します。

(3)地方料理
• キッシュやタルティフレット
クリーミーな料理にアリゴテの酸味がアクセントを加えます。

6. アリゴテの未来と可能性

近年、アリゴテはブルゴーニュ以外の新しいテロワールでもその可能性が模索されています。特にナチュラルワインのブームの中で、アリゴテの個性が再評価されており、今後さらに注目が高まることが期待されています。

アリゴテは、その酸味と軽快さを生かしたワインとして、日常の食卓を彩る存在から高品質なワインへと進化を遂げつつあります。これからもその多様性に注目しながら楽しみたい品種です。

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