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ワインソムリエ講座14/チリワイン

1. チリワインの概要

チリは南米の西海岸に位置し、太平洋とアンデス山脈に挟まれた細長い地形を持つ国です。南北に約4300kmにわたって伸びる国土は、気候と地理の多様性が特徴であり、ブドウ栽培に理想的な条件が揃っています。

チリワインは高品質でコストパフォーマンスが優れていることで有名です。ヨーロッパやアメリカに比べて土地や労働コストが低く、害虫被害も少ないため、比較的低価格で高品質なワインを提供できます。日本でも非常に人気があり、輸入量は年々増加しています。

2. チリワインの歴史

植民地時代と起源(16世紀~)

チリのワイン生産の歴史は16世紀に遡ります。スペイン人の征服者が持ち込んだブドウが起源です。1548年頃には、修道士たちがキリスト教の儀式用のワインを造り始めました。特にパイス種(スペインではリスタン・プリエト)というブドウが広がり、当時の主力品種として定着しました。

フランス系品種の導入(19世紀)

19世紀になると、フランスからの移民が増えたことを契機に、フランス系品種がチリに導入されます。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネといった有名品種が植えられ、チリワインの基盤が築かれました。この時期に、ボルドースタイルのワイン造りがチリに根付いたのです。

フィロキセラ禍とチリの強み

19世紀後半、ヨーロッパのブドウ畑はフィロキセラ(ブドウ根の害虫)に壊滅的な被害を受けました。しかし、チリは自然の地理的障壁(アンデス山脈、太平洋、砂漠)によって害虫の侵入を免れました。その結果、チリのブドウの樹は現在でも多くが接ぎ木されていない自根で育てられており、これは世界的にも貴重な資産です。

現代の躍進(20世紀後半~)

1980年代から、チリワイン産業は飛躍的に成長しました。技術革新と国際市場への進出が進み、ワインの品質向上が図られました。海外から著名なワインコンサルタントが招かれ、最新の醸造設備が導入されるようになりました。

3. チリワインの主要産地

チリは大きく分けて以下のような主要ワイン産地を持っています。

① マイポ・ヴァレー

首都サンティアゴ近郊に広がる伝統的なワイン産地で、チリワインの中心地とされています。特にカベルネ・ソーヴィニヨンが有名で、力強くエレガントな赤ワインが生産されます。ボルドーの影響を受けたワインが多く、チリの「クラシック」と言われるスタイルです。

② カサブランカ・ヴァレー

太平洋に近く、冷涼な気候が特徴です。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランといった白ワイン用ブドウの栽培が盛んで、爽やかで果実味のある白ワインが造られます。冷涼な気候は、ピノ・ノワールの栽培にも適しています。

③ コルチャグア・ヴァレー

近年急成長している産地で、カベルネ・ソーヴィニヨン、カルメネール、シラーなどの赤ワインが有名です。豊かな果実味と滑らかなタンニンが特徴的です。

④ アコンカグア・ヴァレー

アンデス山脈に近い内陸の産地で、暑い気候を活かしてリッチで濃厚な赤ワインが造られます。特にシラーとカベルネ・ソーヴィニヨンが高評価を得ています。

⑤ リマリ・ヴァレーとエルキ・ヴァレー

北部に位置し、非常に乾燥した気候が特徴です。灌漑を活用してブドウ栽培が行われ、白ワインが注目されています。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランが代表品種です。

⑥ 南部のビオビオ・ヴァレー、イタタ・ヴァレー

冷涼な気候のため、繊細で酸味が豊かなワインが造られます。伝統的なパイス種やピノ・ノワール、シャルドネが注目されています。

4. チリワインの主要品種

赤ワイン品種
• カベルネ・ソーヴィニヨン:力強く骨格のあるスタイルが特徴。チリワインを代表する品種。
• カルメネール:チリ固有の品種とも言われる存在。プラムやスパイスの風味があり、滑らかなタンニンが特徴。
• メルロー:果実味が豊かでソフトな口当たりが魅力。
• シラー:近年注目の品種で、力強い果実味とスパイシーな風味がある。

白ワイン品種
• シャルドネ:フレッシュなものから樽熟成のリッチなものまで幅広いスタイルが造られる。
• ソーヴィニヨン・ブラン:爽やかな酸味とハーブの香りが特徴。カサブランカ・ヴァレーが特に有名。

5. チリワインの特徴

チリワインの最大の特徴は「コストパフォーマンスの高さ」です。世界基準の品質を持ちながら、手頃な価格帯で入手できる点が世界中で評価されています。

また、チリのブドウ畑はフィロキセラ禍を逃れた「自根」が多く、純粋な品種特性を表現しやすいとされています。これに加え、農薬使用が少ないため、環境にも優しい「サステナブルなワイン造り」が進んでいます。

6. 近年の動向と未来

近年のチリワインは、単なる「安くて美味しい」から脱却し、プレミアムワインとしての地位を確立しつつあります。アンデス山脈の高地や冷涼な海岸地帯でのテロワールを意識したワイン造りが注目され、単一畑や小規模生産の高品質なワインが増えています。

また、オーガニックやビオディナミ農法を採用する生産者も増加し、環境に配慮したワインが求められる時代に対応しています。

7. まとめ

チリワインは長い歴史と豊かな自然環境に支えられ、世界的に評価される存在となっています。伝統と革新を融合させながら成長を続けるチリワインは、今後ますます魅力的なワインを生み出すでしょう。

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