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ワインソムリエ講座23/シェリーワインとは

シェリーワイン(Sherry)は、スペインのアンダルシア地方で生産される伝統的なフォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)です。その独自の製造方法、風味の多様性、そして長い歴史は、シェリーワインを単なるアルコール飲料以上の特別な存在にしています。以下では、シェリーワインの起源、生産地域、製造工程、種類、味わい、ペアリングの方法、保存方法、そしてその魅力について詳しく解説していきます。

1. シェリー
ワインの起源と歴史

シェリーワインの起源は古代にまでさかのぼります。フェニキア人が紀元前1100年頃、現在のスペインのカディス近郊にブドウ栽培をもたらしたのが始まりです。その後、ローマ帝国の時代にワイン生産が盛んになり、イベリア半島の重要な輸出品となりました。

「シェリー」という名称は、スペイン語で「ヘレス(Jerez)」と呼ばれる町に由来します。この地は、16世紀のスペイン黄金時代にはシェリーの一大生産地として世界的に有名でした。特にイギリスでは大変人気があり、シェイクスピアがその作品の中で「サック」という名でシェリーに言及していることでも知られています。

2. シェリーワインの生産地

シェリーワインは、スペイン南部アンダルシア地方に位置する「シェリー・トライアングル」と呼ばれる地域で生産されます。このトライアングルは以下の3つの町を結ぶエリアです:
• ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)
• エル・プエルト・デ・サンタ・マリア(El Puerto de Santa María)
• サンルーカル・デ・バラメーダ(Sanlúcar de Barrameda)

この地域は、温暖で乾燥した地中海性気候に恵まれ、シェリーワインの生産に適した環境を提供します。さらに、土壌もシェリーの品質に大きく影響します。特に重要なのは「アルバリサ」と呼ばれる白亜質土壌で、この土壌は水分を保持し、乾燥した夏の間でもブドウを健全に育てる役割を果たします。

3. シェリーワインの製造工程

シェリーワインの独自性は、その製造過程にあります。通常のワインとは異なる複雑な工程を経て、シェリーワインはその多様な味わいを生み出します。

(1) 使用されるブドウ品種

主に以下の3品種が使用されます:
• パロミノ(Palomino):辛口シェリーの主要品種。
• ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximénez, PX):甘口シェリーに使用される。
• モスカテル(Moscatel):芳香性が高く甘口ワインに適する。

(2) 発酵とアルコール強化

収穫したブドウは圧搾され、果汁を発酵させます。その後、発酵が完了したワインにブランデーを添加し、アルコール度数を15〜18%に調整します。この工程を「フォーティファイ(酒精強化)」と呼びます。

(3) 熟成方法:ソレラ・システム

シェリーの熟成には「ソレラ・システム」と呼ばれる独特の方法が用いられます。これは複数の樽を段階的に並べ、異なる熟成年数のワインをブレンドする手法です。この結果、シェリーは一貫した品質と風味を保つことができます。

4. シェリーワインの種類

シェリーワインは、熟成方法や甘さの違いによって以下の種類に分類されます:

(1) 辛口シェリー
• フィノ(Fino)
• 酵母膜(フロール)による酸化防止熟成。
• 軽快でドライ、ヘーゼルナッツや酵母の風味。
• アルコール度数:15〜16%。
• マンサニージャ(Manzanilla)
• サンルーカル・デ・バラメーダで生産。
• 塩味や海風を思わせる風味。
• アモンティリャード(Amontillado)
• フィノから酸化熟成に移行。
• ナッツやキャラメルのような香り。
• オロロソ(Oloroso)
• 酸化熟成のみ。
• 濃厚でコクがあり、スパイスやウッドの香り。

(2) 甘口シェリー
• ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximénez, PX)
• 干しブドウのような濃厚な甘さ。
• 蜂蜜やキャラメルのような味わい。
• モスカテル(Moscatel)
• フルーティで芳香性が高い。
• クリーム(Cream)
• オロロソに甘味を加えたリッチなタイプ。

5. 味わいとペアリング

シェリーワインはその多様な風味から、幅広い料理と相性が良いことで知られています。
• フィノやマンサニージャ:
生ハム(ハモン・イベリコ)、オリーブ、魚介類。軽い前菜やタパスにも最適。
• アモンティリャード:
チキンやターキー、またはスパイシーな料理と合わせると良い。
• オロロソ:
赤身肉や煮込み料理、濃厚なシチュー。
• ペドロ・ヒメネス:
デザートやブルーチーズ。バニラアイスにかけても美味しい。

6. 保存と提供方法

シェリーはフォーティファイドワインのため保存性が高いですが、開栓後は種類によって保存期間が異なります。
• フィノ、マンサニージャ:冷蔵庫で1〜2週間以内。
• アモンティリャード、オロロソ:冷暗所で1〜2か月。
• 甘口シェリー:冷暗所で数か月。

また、提供温度は種類に応じて異なります:
• フィノやマンサニージャ:8〜10℃(冷やして)。
• アモンティリャードやオロロソ:12〜14℃(やや冷やして)。
• 甘口シェリー:15℃前後。

7. シェリーワインの魅力

シェリーワインは単なる飲料ではなく、歴史、文化、技術が凝縮された芸術品とも言える存在です。辛口から極甘口まで幅広いスタイルがあり、どんなシーンにも対応する万能なワインです。また、その手頃な価格と高品質も魅力で、特にソムリエや料理愛好家の間で根強い人気を誇ります。

シェリーワインを楽しむことで、スペインの豊かな文化と伝統を身近に感じることができます。もしまだ試したことがない場合は、ぜひ一度手に取ってみてください!

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