問:1tの麦芽から何リットルのウイスキーができるか計算しなさい
ウイスキーの蒸留所見学におじゃますると、1トンの麦芽が入ったフレコンバックを見かけることがあります。
はてさて、この1トンの麦芽から、いったいどれだけのウイスキーが作れるでしょうか??
興味深いnoteやブログの記事に触発されて、オマージュとして私もまとめてみます!
先行記事〜ウイスキーづくりに必要な麦芽量の計算式〜がおもしろい!
noteで見つけた興味深い記事は、なんといっても“A Whisky Student”さんのものです!ウイスキーボトル1本分に必要な麦芽量を、直感的に分かりやすい状態でどのくらいになるか計算されています。
そして“K.67”さんのブログ『酒は人生の妙薬』では、ボトル1本分に必要な大麦が、どのくらいの面積の畑から収穫されたものか計算されています。さらにはシングル1杯分に必要な畑の面積まで分かります。
これはウイスキーを飲みながら思い出しては、ぐっと楽しくなりそうな知識ですよね!
そしてnoteに戻って、“チャーリー / ウイスキー日記”さんは、ウイスキー1樽分をつくるのに必要な麦芽量をまとめていらっしゃいます。
試験対策にもなる製造工程メモ〜1t仕込みで必要なスチルの大きさ〜
先行記事へのオマージュも込めて、私が知りたいことをまとめます。
\\フレコンバッグ1個分の麦芽から、いったいどのくらいのニューポットが得られ、樽熟成後いったいどのくらいのウイスキーが得られるのでしょうか?//
\\ワンバッジ仕込量をフレコンバッグ1個分の麦芽とする場合、いったいどのくらいの容量のマッシュタンやポットスチルが必要となるでしょうか?//
計算式は苦手なので、ざっくりフローにしてみます。ウイスキープロフェッショナルの試験対策で勉強した気がするのですが、ちょっと復習してみます。
①麦芽(粉砕後のグリスト)に加える水−ドラフに吸収されて残る水→約5,000リットル
仕込み(粉砕・糖化・濾過)工程について、ものすごくわかりやすくかつ詳しくまとめている老子製作所のホームページの数字を用いると、まず1番麦汁を得るために加えるお湯は「仕込む麦芽の4倍量」の4,000リットルです。静置・糖化後、2番麦汁を得るためにさらにお湯を加え(注∶おそらく2倍量の2,000リットル)、ドラフに吸収されて残る分を除いて「1番麦汁と2番麦汁をあわせ1トンのモルトに対して5000リットル~5500リットルの麦汁」を得るとのこと。
糖化工程でのマッシュレイシオが1:4ではなく1:6であったり、濾過方法であったり、蒸留所によって作りが異なる場合もありますが、1t仕込みで得る麦汁は概ね5,000リットル前後が多いようです。
ワンバッチ麦芽仕込量1トンのウイスキー蒸留所における麦汁量比較
②2回の蒸留で10.5%まで凝縮+樽詰度数まで加水→ニューポット約600リットル
『ウイスキーコニサー資格認定試験教本2018【上巻】』70ページの「マスバランス例」によると、1回目の蒸留でモロミ全量の35%分の初留液を採取(例∶5,000リットルのウォッシュ→1,750リットルのローワイン)し、2回目の蒸留で10.5%分の本留液を確保(例∶5,000リットルのウォッシュ→525リットルのニュースピリッツ)するとのこと。
その後、2回蒸留した本留液のままだと、樽詰めするにはアルコール度数が高く、樽材から溶出しやすいような熟成に適した度数まで下げるよう加水します。仮にアルコール度数70%の525リットル分をアルコール度数63%まで下げるとすると、約83リットルの水を加える必要があり、約608リットルのニューポットになるはずです。
確かに、既出の老子製作所のホームページによると、1トン仕込のワンバッチのニューポット量は「600-660L」とのことなので、本留液の確保量や加水量は蒸留所によって前後するかと思いますが、大体この位でしょうか。
〔参考〕年間生産量比較
一日あたりアルコール度数63%のニューポットを約600リットル作るとして、これに年間仕込日数を掛ければ、年間の生産量が計算できます。
例えば年365日のうちメンテナンス時期の2か月分を除く年300日に毎日1回仕込むとすると、600リットル✕300日で年約18万リットル…なるほど、確かにそれくらいになっていますね。
ワンバッチ麦芽仕込量1トンのウイスキー蒸留所における年間生産能力比較
③天使の分け前で減っちゃう年間約3%分×3年間→カスクストレングスで約550リットル⇒加水で約700リットル
樽熟成中のエンジェルズシェアは、気温や湿度、樽の大きさや状態、その時点でのアルコール度数などによって千差万別ですが、ここでは仮に毎年一定の3%ずつ蒸散するとして考えます。
【1年目】600リットル×0.97→約582リットル
【2年目】582リットル×0.97→約565リットル
【3年目】565リットル×0.97→約548リットル
【4年目】548リットル×0.97→約532リットル
【5年目】532リットル×0.97→約516リットル
【6年目】516リットル×0.97→約500リットル
6年間で約100リットル近くも無くなってしまうんですね…天使さん、良く飲むなあ!
この仮定のまま、3年熟成時点で樽詰め時点からアルコール度数がほぼ変わらなかった63%のウイスキー548リットルを、カスクストレングスで700mlずつボトリングするとなると、約782本になります。
あるいは、63%から48%までアルコール度数を落とすために約171リットルの加水をすると、計約719リットルになるので、700mlずつボトリングで約1,027本になります。
フレコンバッグ1個の1トン仕込みから48%の3年熟成のウイスキーをつくるとすると、ざっくりまるめて約700リットル、700mlボトルで約1,000本できるはず!
こう考えると、シングルモルト「三郎丸 Ⅰ THE MAGICIAN」は、アルコール度数48%で3,000本限定だったので、これは仕込み3回分・麦芽3トン分くらいの量といえるはずです。
まとめ
蒸留所見学に行ったときに、ワンバッジの麦芽仕込量をお聞きすれば、必要となるマッシュタンや発酵槽、初留釜の容量は、麦芽のざっくり5倍量と想定できます。
仕込量が2トンや400kgの場合、2倍にしたり2/5にすればいいので、「2トン仕込みでポットスチルサイズが1万リットル…王道だ!」とわくわくできます。
また逆に、「1トン仕込みなのにポットスチルが5,000リットルよりかなり大きい…張込量を少なめにして還流を増やしているのかな?」ですとか、「ここの初留釜は、仕込み量425kgからの想定必要容量2,000リットルの半分サイズ…だから分割して蒸留してるのか!」といったその蒸留所独自のポイントにも気づけます。
以上、ウイスキー蒸留所見学の参考になれば幸いです。間違っている点がありましたら、すぐに直しますので、なにとぞ教えてくださいm(__)m
おまけ∶ワンバッジ25kgで仕込む場合に必要な設備容量は?
以前、長濱蒸溜所体験ツアーにおいて、麦芽25kg入りの袋を17回持ち上げては、モルトミルに投入していくというヘビーな経験をさせていただきました…実に重かったです。
そんな25kg入り1袋分をワンバッジで仕込もうとすると、どのくらいの容量の設備が必要になるでしょうか?単純に5倍量で考えると125リットル、ポリバケツが120リットルなので概ねそれぐらいになります。ここから蒸留で約13リットル取り出し、アルコール度数63%まで約200ml加水しても、酒税法上の最低製造数量基準6,000リットルを満たすには、年に約461回の仕込みが必要になります…大変すぎる笑!
ちなみにこれは東京・吉祥寺のスコティッシュパブ“The Wigtown”さんのブログ『てんてこまい蒸留所巡りの旅 in スコットランド』で紹介されていた"政府公認"密造蒸留所たるロッホユー蒸留所の設備のサイズ感です。この体験記、何度読んでも笑えます!最高!!