深夜1時のバナナブレッド
私は食材を無駄にするのが大の苦手だ。お皿に少しでも何かが残っていようものなら、ご飯粒一粒までしっかり食べる。入院していた時、おそらく何百人もの患者さんを見てきただろう看護師さんに、食べ終わったお皿が綺麗だよねとわざわざ褒められたほどだ。もちろんそれは、冷蔵庫の中も同じだ。毎日料理をする前に野菜や肉の状態をチェックし、悪くなりそうなものから順に使っていく。だから私が食べ物を捨てるということは、残飯や食材を含めてほとんどない。
こちらに来て、初めて家族以外と住んでカルチャーショックだったことがある。それは食べ物が残るということだ。おそらくそれは、海外にいるとかカナダにいるとかではなく、ただ個人の感覚の違いなのだろう。とにかく、先日から真っ黒になったバナナがキッチンの隅に鎮座していた。
真っ黒なバナナはいい。バニラアイスクリームに混ぜ合わせれば、バナナアイスになるし、焼き菓子に混ぜればしっとりと美味しいバナナ味になる。そんなわけで夜10時半に、同居の友人と二人でバナナブレッドを焼き始めた。
人とお菓子を作るのは楽しい。小さかった頃からお菓子作りは大好きだが、今でも家での料理担当である弟と二人で、よく焼き菓子をつくったものだ。焼き菓子作りは簡単で、難しく、料理は難しくて、簡単だ。焼き菓子作りはレシピ通りに作れば失敗することはあまりないが、レシピを外れるといとも簡単に失敗する。料理は、綺麗に作ることは難しいが、わりと適当に作っても、美味しいものが完成する。そんなことを言いながら友人と二人で材料を混ぜていく。
家にある材料で作り始めたのでブラウンシュガーはココナツシュガーだし、アーモンドプードルはないし、というわけであんなにレシピを外れてはいけないと盛り上がっていたのに、友人は、プロテインパウダーを入れたらプロテインも摂れるね!オートミールを入れたら健康に良さそう!あ、チョコチップあと少しだし全部入れちゃえ!などと言って、レシピを逸れ始めた。私はなんとなく裏切られたような気持ちになりながら、危ない橋を渡るのが苦手というかクリエイティビティや面白みに欠けるというか、すでにレシピを外れているので、そもそも従うレシピなどないのだが、そのままのシンプルなバナナブレッドに留めた。
さて型に流し込んだ生地を温めていたオーブンに入れる。その時すでに深夜0時前。焼き時間は大きい型を想定しているからか、なんと1時間。船を漕ぎながら焼き上がりを待つ。その間にも驚くほど膨らんでいく二つのバナナブレッド。Googleが1時間のお知らせをしてくれて、オーブンから出したバナナブレッドはいい色に焼きあがっていた。
朝起きて、きちんと熱のひいたバナナブレッドを型から取り出してスライスする。家に紅茶がなく、朝10時になんとか間に合いそうだったのでコーヒーを淹れる。さあ、日曜日にふさわしい、のんびり朝ごはんだ。