心のかけら売りシーネス 1ピース

ここは組絵町。
日本を歩いていれば、どこにでもあるようなありふれた町。
そんなこの町にも一つだけありふれていない噂話があった。
それは「心のかけら売り」の話
シルクハットに赤いジャケット、黒いズボン、髪の毛は水色で毛先を紫色にグラデーションされている長い髪の女性の話。
日々を過ごしていく中で擦り切れていくように削れてしまった心を持つ人に現れては、その心を埋める欠かけらを渡すのだという……


「未色、またミスしたのか。これで何回目だ」
「すみません……」
未色壇はバイト先であるコンビニで店長から説教を受けていた。
「ハァ、全く。お前もう大学生何だろ。こんな事ぐらい言わないでも出来るだろ」
自分に向けられる失望と諦めの視線。
未色はその視線を向けられるたび、「俺は今まで何をやっていたんだ」と自分に問いかけ自分を責めていく。
何とかそれを挽回しようとほかの仕事に取り掛かるも、またその仕事でちょっとしたミスを犯してしまい、そのたびに信用を失い、叱られ、また自分を責めるというループを繰り返していた。
そんな憂鬱なバイトの時間を終え、未色は帰路をたどる。
「ちょっとここで休んでいくか」
バイトの失敗がよほど響いたのか、家に帰るまでの気力もわかなかった未色はその帰路の間にある公園に寄り、自動販売機で飲み物を買いベンチに座る。
「どうして俺はこんなにもダメ人間になんだろうな」
夜空を見上げながら未色はそんな言葉をこぼしながら自分の人生を振り返る。
未色は小学生から高校生までいわゆる優等生のような生活をしていた。
少し手先が不器用で、覚えが悪いところがあったが、真面目に授業を聞いて苦手な勉強も寝る間も惜しんで頑張った。
真面目に生きてさえすれば、きっといいことがやってくると信じて。
しかし、そんな期待は一瞬で裏切られる。
未色は大学受験で第一志望と第二志望の大学に落ち、今は滑り止めで受けていた大学に通っている。
すこしスマホを開けば、宿題をさぼっていたクラスメイトや、趣味にぼっとうしていた友人などが第一志望の大学で人生を謳歌している様子が映る。
そんなものを見るたびに、未色は今までの自分のすべてを否定するのであった。
「きっとこれから何やっても上手くいかないだろうなー。ほんと、何のために生まれてきたんだろ俺」
「生まれてくるのに理由なんて別にいらないと思うけどなー。それに、これからうまくいくかどうかなんて誰にだって分からないんだからそんなに悲観することないよ。」
自分の独り言に返事が返ってきたことに未色は驚愕し、慌てて声のした方に視線を向ける。
そこには、シルクハットをかぶっている赤い服を着た女性が立っていた。
「うーん、でもそんなことを考えちゃうぐらい追い込まれてるのか。結構重症だねこりゃ」
目の前の女性は未色の顔を観察しながらそんな言葉を口にした。
その時、未色には目の前の女性が見知らぬ自分のことを本気で心配しているように見えた。
「あんたには関係ないだろ。というかあんた誰なの」
「おっと、私としたことが。大事なお客さんに対して自己紹介するのを忘れるなんて」
そう言うと目の前の女性はシルクハットを手に取りペコリと頭を下げた。
「私の名前はシーネス・サウザ。心のかけら売りって言ったらわかるかな?」
心のかけら売り……その名称に未色は聞き覚えがあった。
この町ではそこそこ有名な噂話。
良く目の前の女性をよく観察すれば、確かにその格好は話の中に出てくる心のかけら売りと同じものであるとわかる。
「うんうん、その顔を見る限り私のことは知ってるみたいだね。それじゃあ話は早い」
かけら売りは笑顔でそう言うと、ジャケットのポケットから何かを取り出した。
それはガラスで作られたジグソーパズルのピースのような形をしていた。
「私はこの子達を使ってあなたの悩みをなくしてあげたい、できればあなたがこれから幸せに生きていられるようにしてあげたいの」
かけら売りはそう言いながらそのパズルピースのようなものを未色に渡した。
「これで、俺の悩みを?」
未色自身この話が凄く怪しいものではないかと疑っていた。
でも、それ以上に自分の悩みを解決させたいという思いの方が大きかった。
「俺は何をしたらいい?何かあんたに支払えばいいのか」
「いいのいいの。ボランティアみたいなもんだし」
かけら売りはそう言うと、未色がパズルピースのようなものを持っている手を優しく握りこんだ。
「この子はあなたの欠けた心を埋める架空のピース。あなたの悩みを解決させてくれる相棒。あなたがこの子のためにやってあげないといけないことはたった一つ……それはいかなる時もこの子の“存在”を受け入れること」
「存在を……受け入れる?」
「まぁ時間が経てばわかるよ」
困惑する未色を置き去りにしながらかけら売りはそんなことを言い出す。
そして飛び切りの笑顔で未色のことを見つめ、
「あなたの人生に幸がありますように!」
そう言って、夜の闇に消えていった。

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