心のかけら売りシーネス 2ピース
かけらうりからジグソーパズルのピースのような物を渡された後、未色は自分の住んでいるマンションへ帰りそのパズルのピースのようなものを見つめていた。
「一体何なんだろう、これは」
目の前のパズルピースは特に仕掛けがあるわけではなく、こいつが今の自分の悩みを解決するといってもそのビジョンがまるで見えてこない。
しかし、未色はこのパズルピースから何か大きな魅力のようなものを感じており、こうしてパズルピースと向き合っているのだ。
そんな時間を過ごしていると未色の身体から腹を空かせる音が聞こえてくる。
「そう言えば飯食べてなかったな」
未色はそう言って、部屋に散らかっているごみを避けながら台所へ足を運ぶ。
「そういや、今日は米を炊いてないな……まぁいいや、適当に飯作って食べよう」
未色が何か一つ取り柄が欲しいと思って大学に入ってから毎日続けていた料理も最近ではおざなりになっていた。
それどころか、料理をするたびに台所が汚くなるばかりだった。
冷蔵庫に入っていた野菜と肉を適当に切ってフライパンに入れて焼いて塩コショウを振っただけの料理を皿に入れて一人それを口に運んだ。
「食欲でねーな」
バイトの失敗、見るだけで嫌になるゴミだらけの自分の部屋。そして目の前のご飯は味も薄い手抜きの料理だけ。
そんな状況ではどれだけ体が空腹を訴えても心理的に食欲なんてものはわかず、そんな言葉をこぼすのだった。
「じゃあ私が食べよっかな」
「え?」
その時、誰もいないはずのその部屋に高い、女の子の声が聞こえる。
未色は近くに誰かいないか自分の部屋をきょろきょろ見渡すが人影は一つも見えない。
「一体どこから声が……」
未色がそこまで言ったところで、突然部屋が光出す。
その光源は、心のかけらうりからもらったパズルピースからだった。
そして、そのパズルピースから出る光はやがて人のような形になって……
「じゃあ、いただきます!!」
目の前には元気そうなピンク色の髪のツインテールの少女が現れるのであった。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
突然現れたその少女は未色の作った料理を一気に平らげる。
余りにいきなりのことで未色は反応できず、その少女が料理を自分の作った料理を食べるところをただ眺めていた。
「檀さんが料理をする人で本当に良かった~。別に食事をとらないと死ぬってわけではないけど気持ち的にはやっぱり美味しいもの食べたいし~」
目の前の少女はそう言いながら未色の手を握る。
「明日の朝ごはんは何ですか!」
目をキラキラさせながら目の前の少女は未色に迫る。
「えっと、あんたはまず誰なの」
いきなり目の前の少女に未色はそう尋ねる。
そういうと、目の前の少女は首をかしげる。
「あれ?シーネスから聞いてないの。もしかして、これから私たちみたいな存在が生み出されることシーネスいてないのかな」
目の前の少女はそう言いながら自分の耳のピアスを見せつける。
そこには、未色が今日かけら売りから受け取ったジグソーパズルのピースのようなものとまったく同じものが付いてあった。
「もしかして、そいつからあんたが?」
「そう!私はあなたの心とこのピースが共鳴して生まれた存在。あなたの欠けた心を埋める心のかけらの一部。これからよろしくね、壇さん」
「お、おう。よろしく」
目の前の少女に圧倒されながらも未色は何とか返事を返す。
{それはいかなる時もこの子の“存在”を受け入れること}
未色は目の前の少女を見ながらかけら売りが言っていた言葉を思い出す。
(存在を受け入れるってのはこう言うことか)
最初は驚いたが、未色は段々この状況を理解する。
(かけら売りからもらったパズルピースのような物から現れたこの少女の存在を俺は否定したらいけない。ただし、認め続ければ俺の悩みを解決する手助けをしてくれるって話だったな……なんとなく、この状況は理解したんだが……その)
未色は思い切って目の前の少女に質問する。
「あんたがどんな存在かは理解した……だけどどうしてそんな恰好してるんだよ!」
目の前の少女はチアガールのような恰好をしていて、その服には「MIIRO DAN」とローマ字でびっしり自分の名前が書かれていた。
「あっ!そう言うことですか、大丈夫ですよ」
何を大丈夫だと思ったのか、目の前の少女は得意げな顔をして腰のあたりに手を伸ばし何かを取り出す。
「ポンポンもあります!」
そうして目の前の少女は、天高らかにポンポンを上げた。
「違う!そうじゃない!」
余りに自信満々な顔でポンポンを出すものなので、未色は思わずその行動にツッコミを入れた。
その様子をみるなり目の前の少女は少し笑顔になる。
「良かった、檀さんまだ元気みたいですね」
そういって、その少女は未色に近づいていく。
「それでも、今日は色んなことがあってすっごく疲れてるはずなので今日はもう寝て休んでください。ベッドまでは私が送りますので」
少女がそう言うと、未色は強烈な睡魔に襲われる。
目の前の少女は未色が倒れてしまわないよう、優しく未色の身体を支えた。
「ゆっくり休んでくださいね。それと明日の朝ごはん、檀さんがまだ元気ならみそ汁を作ってくれると私は嬉しいです」
くすっと笑いながら少女は未色の身体をベットのあるところまで支え、未色をベットに寝かせた。
「おやすみなさい。いい夢を」
少女がそう言うと未色の意識は一気に夢の中へ落ちるのだった。