「技術広報」の特性
「技術広報 Advent Calendar 2023」のDay 16の記事です。
https://qiita.com/advent-calendar/2023/tech_pr
技術広報の「今の」お仕事については、他の方々が書いてくださると思うので、私はちょっと毛色の違う話をば。
なお、以下に書いた内容は、現在私がお仕事で関わっているところとは関係ありませんので。念のため。
以前、技術広報担当者の「成長支援」というお仕事をさせていただいたことがあります。技術広報にまつわるアレコレでお仕事をいただくことはよくありますが、「成長支援」を明示した依頼は珍しい。曰く、技術広報という役回りに未経験の方をアサインすることになったので、技術広報担当として独り立ちできるまでの道筋を示してほしい、とのこと。
このときは、他にもいろいろ制約があって、ヒアリングに基づいたフィードバックという形で対応させていただきました。その「成長支援」の内容は、その会社と新しく担当される方にフォーカスしたものなので、一般化はちょっと難しそう。ということで、ここでは、技術広報担当者の成長支援について考える際の土台となる、技術広報の特性について書いてみます。
技術広報というお仕事の特性
まったく初めてという人が技術広報の担当になったとき、何をどのように学んでいけば良いのか、という道筋に「一般的な解はない」というのが正直なところです。その理由は、技術広報というお仕事にある、以下のような特性にあります。
① 仕事内容が多様で、必要とされるスキルが多岐に渡る(何でも屋)
② 人員を潤沢に手当てすることが難しい(常に工数不足)
③ 効果が分かりづらい(数値の難しさ)
何でも屋
①は、少しでも「技術広報」を経験したことがある人なら、大きく頷いていただけることでしょう。「技術広報」と一口に言っても仕事の内容は非常に幅広く、必要とされるスキルも多岐に渡ります。
ブログやSNSでの情報発信、イベントブース出展、自社イベント開催、チラシやノベルティの制作、勉強会の開催支援、オンライン配信、動画制作──などなど。そのどれもが、「究めよう」と思ったら数年はゆうにかかりそうな奥深さ、複雑さを持っています。
たとえばブログ記事を公開前に「確認する」という、一見、単純そうに見えるケースをとってみても、日本語能力(分かりやすい文章を自分が書けるだけでなく、他者が書いた文章の改善点を指摘し、かつ、その理由を納得してもらえるように説明する、など)、技術理解(内容が分かるだけでなく、内容に則した表現になっているか、など)、さらには、コンプライアンス(著作権、商標権などの知的財産権のみならず、業務独占資格に該当しないか、など)──等々の知識や経験を総動員することになります。もちろん、個々の分野の深いところは、それぞれの専門家に頼ることにはなるでしょう。しかし、何でもかんでも丸投げしていては現実の業務は回らないので、「これは、念のため専門家に確認したほうが良いかも」といった「嗅覚」を養うことが、技術広報担当者としては重要になります。
常に工数不足
②は、そもそも現状では、専任の技術広報担当者を抱えている企業のほうが少ないのではないでしょうか。多くの場合、広報(コーポレート広報だったり、製品広報だったり)や人事(エンジニア採用担当とか)の担当者が、「技術広報」も兼務している例が多いように見受けられます。
エンジニア採用に強い危機感を抱いている企業などは、技術広報を専任にしたり、技術広報に割く時間を増やしたりしていますが、そういう企業は、まだまだ少数派でしょう。経営的な観点からも、技術広報だけに何人もの人的リソースを割くのは、なかなか勇気がいります。
すなわち、多くの場合、技術広報担当者は「常に工数不足」気味。ブログ記事などは、工数が足りなければ遅らせたりすることもできるでしょう。しかし、イベント協賛の制作物などは締め切りが厳密に決まっていて、泣いても笑ってもとにかく指定日に納品しなければなりません。結果、年にいくつもの協賛イベントを抱える技術広報担当者は、常に締め切りに追われ、時間も心の余裕もない……という状況に陥りがちです。
それはつまり、成長支援という観点でいえば、「学び」のために時間を割くことが難しいということでもあります。結果、仕事もスキルも、やりながら覚える、やりながら学ぶ(OJTと言えば聞こえは良いですが……)となってしまいます。
技術広報担当になって数年経った人が抱きがちな「このままで大丈夫かしら?」という不安は、このような状況(構造)によって引き起こされます。自分自身の確かな学びとするためには、ときには立ち止まってじっくり考えることが必要です。それができないと、日々、仕事はこなしていても、学べているという実感(=成長しているという実感)が得られにくくなります。
「成長支援」を考えるときは、この問題に、しっかり向き合う必要があります。
数値の難しさ
③も、なかなか難しい問題です。
「技術広報」は、大きく分けて、エンジニア採用を目的とする場合と、自社サービスの開発者(SDKやAPIの利用者)を増やすことを目的とする場合があります(もちろん、両方とも目指す場合もあります)。それぞれゴールが決まっているので、「ゴールに到達した人」(前者なら採用されたエンジニアの数、後者ならSDKやAPIの利用者数)を数えれば、究極的な目標の達成度合いを知ることはできるでしょう。
しかし、技術広報としての業務で行った「どの活動」が「どれぐらい」その結果に関与したかは、なかなか明確にはなりません。
「配付したチラシから申し込みがあった」のように、(やろうと思えば)比較的簡単に計測できる数値もあるでしょう。しかし、採用目的の場合、情報伝達したすぐのタイミングで(ターゲットに望んでいる)行動が喚起されるのは稀で、何度も情報に接している(SNSに流れた記事を目にした、など)うちに記憶され、共感が増え、いざ転職を思い立ったときに「そういえば、あの会社はどうだろう?」と思い起こすことになったりするわけです。
あるいは、面接では「xxと○○を見て」と語っていた人が、入社後の雑談で「そういえば、もっと前に△△で知りました」みたいに、後から思い出すようなことも珍しくありません。
技術広報が「情報を伝達して、ターゲットの心を動かす」という活動である以上、人間が本質的に持っている「曖昧さ」や「タイムラグ」から逃れることはできないのです。
さらに技術広報は、ターゲットとなるエンジニアたちに対する「ブランディング」という側面もあるので、自社利益中心の行動が強すぎると(=勧誘がしつこいと)、かえってマイナスイメージが広がってしまうという難しさもあります。
つまり、数値化しづらいうえに、数字を追い求める行為はマイナスになりかねない……それが技術広報なのです。
技術広報担当者自身も、1年前と比べて成長できたかどうか明確に実感することは難しいですし、それをサポートする側としても、成長度合いを数字で分かりやすく示すことは難しい──技術広報の成長支援を考えるとき、この問題にも向き合うことになります。
長くなったので、今回はここまで。
続きは、気長にお待ちくださいませ。