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エンタメ討論会<後編> IPとテクノロジーの未来

前編では、 IPとテクノロジーの進化(仮)過去と現在について語っていただきました。後編では、日本のIPを取り巻く環境や今後どうIPと向き合い成長させていくのか。引き続き、W ventures 高津が、テレビ東京コミュニケーションズの遠藤 哲也 氏、CyberAgent capitalの片岡 芳明 氏、ANOBAKAの中 縁嗣 氏、OLMベンチャーズの横田 秀和 氏(50音順)にお話を伺いました。

日本のエンタメのコンテンツは飽和しているのか?


——新たなプラットフォームや体験の中で、今までと違う角度から新しいコンテンツ・IPを創出していくという点で、今の日本の状況をどう見られてますでしょうか?

遠藤:IP、キャラクター「メディアミックス」総収益の世界ランキングを見てみると依然日本は強いですよね。1位の『ポケモン』、2位の『ハローキティ』を筆頭にトップ25の中に10個ランクインしている。しかし、10年前からほぼ上位層が変わっていないんですよ。ここから読み解くと、日本のエンタメコンテンツは飽和状態なのかもしれない。いかにああいった不動の人気であるコンテンツやIPを出すのが今の時代難しくなっていることを実感しますよ。

横田:テレビ局の編成方針も関係しているのかもしれませんね。昔は長く放送を続けることが多かったと思いますが、今は1クールで終わってしまう作品がほとんど。すると、なかなか多くの人達に染み渡っていくような息の長い作品を生み出すことが難しいのかもしれない。

遠藤:今はNetflixのようなプラットフォーマーがコンテンツ供給の中心におり、デジタルコンテンツの消費スピードがとてつもなく早いので、会社はイチかバチかではなくコンスタントに売上が立つものを求めてしまう。するとなかなかコンテンツ育成に時間をかけられない。成長の定義がどこまでかという話もありますが、個人的にはグローバル規模の大ヒットを日本が新しく生む必要があるのかどうかさえ、判断に悩むところですね。
結局、収益に効くのは超ヒット作よりもヒット作をコンスタントに出すこと、それをオペレーション上で吸収できること。SNSも発達している中、ビジネスモデルや戦い方それ自体が変わってきているのかもしれないですね。

片岡:すでに国際的な人気があるようなもの、親から子どもまで幅広い年齢層に届いているコンテンツやIPが今後もずっと強いまま続いていくのか。先行者優位じゃないですけど、ポケモンのような最初に圧倒的な認知を奪ったIPが引き続き強さを維持する可能性もあるかもしれないですね。

——カードゲーム市場なんかもまさにそうですよね。カードの流通自体がビジネスになるほど市場が非常に大きくなってきている中、結局、市場を牽引しているIPは未だに『ポケモン』『遊戯王』『デュエル・マスターズ』。
昔のIPがどんどん膨らみ続けているというところを見ると、子供のころに楽しんだ人が大人になってリバイバルしても楽しめる作品、そして、そういう時間軸まで頑張り切れるコンテンツが巨大IPと成り得るのかなと。今流行っているものの中にそういった成長を遂げるのか、全く違う戦い方の中で大きく収益をあげるコンテンツプレイヤーが現れるのか。非常に興味深いです。

閑話休題・・・高津「ウマ娘」を語ってもいいですか?

中:『ウマ娘 プリティーダービー』(以下、『ウマ娘』)はどうですか? 今の日本を代表する新規の大型IPかと思いますが。

——そうですね‼ 少し語ってもいいですか? 前回、リアルなものがコンテンツになる、という話が出ましたが、個人的にその最新版が『ウマ娘』だと思っているんです。ウマ娘はオンラインとオフライン。言い換えれば、現実とフィクションの接続のセンスが圧倒的に素晴らしいのです。
『ウマ娘』は全て実在している引退馬、過去の伝説の競争馬たちを美少女化したコンテンツなわけですが。伝説を作り切った馬だからこそ、そのエピソードには光と影があり、そして終わりがある。リアルな競馬は起承転結が求められるコンテンツそのものだと思います。また史実がありますが、人間ではないので、感情移入しやすい。
そして、アニメの『ウマ娘』は過度なアニメナイズをしていないのです。競馬ファンがどんな風に競馬を見るのか、という体験を念頭に非常に丁寧にアニメに落とし込んでいる。かつ美少女化・アイドル化という現実とフィクションを繋げる要素が入っていることで競馬ファンのみならずアニメファンに届いた。実際、今まで競馬にしたことがなかった人が『ウマ娘』を経由して競馬場を訪れる人が増えたんですよね。それも単なる聖地巡礼ではなく馬券を買う形で(笑)。アニメだけの興味にとどまらない広がりにはモチーフの力を感じます。そして『ウマ娘』の特筆すべき点は、全体的なクオリティへの徹底的なこだわり。単にバズらせればいい、話題になればいいではなく、2018年に1回リリースしようとしていたところを中止して、さらにもう2年間ブラッシュアップし2020年にリリースした。これで本当にいいものに仕上げきった。いいものをちゃんと作れば、そのIPは必ずヒットする、ということをもう1回証明してくれた。僕は日本の底力をもう1回見せてもらった、と感激したんですよね。権利関係なども複雑な中、それらを全部やり遂げたことがとにかくすごい。

片岡:確かに『ウマ娘』は究極のOMOかもしれないですね。『ウマ娘』は今のIPですが、個人的には昔のIP、すごく大好きな作品だったら20年に1回ぐらいリバイバルするというような流れも今後、定期的に盛り上がるのではないかと思っています。僕は『宇宙戦艦ヤマト』がめちゃくちゃ好きなんですが、最近リバイバル作品が作られていて、以前のエッセンスは残しつつ考証もしっかり作りなおされていて結構良かったんですよね。
出来の良し悪しを含めてリバイバルですし、そういう元々IP持っているところが合従連衡もしくは1社で永遠にシリーズ化していく、みたいなことになるかもしれません。レジェンダリーの「モンスターバース」やマーベルの「マルチバース作品」等のシリーズ化のトレンドが出てきて久しいですが、特にマーベルシリーズなんかは、まだまだ終わる気配がありませんよね。

エンタメ業界のスタートアップ、どこに注目していますか?

——話を戻しまして、エンタメの土壌は確実に変わってきていますよね。今までの議論を踏まえて、「こんなサービスを見てみたい」「こんな世界観作ろうとしている企業に会いたい」など教えてください。

片岡:やはり本当にこだわりがあるチームをしっかりプラットフォームとして束ねる、そしてマネタイズや認知拡大のお手伝いをしっかりしていきたいですね。そういったプロダクト、プラットフォームは個人的にかなり面白いなと思っています。
今一番気になっているのは、IPを生み出すプラットフォームの在り方。新しい共感やストーリーを生む可能性のある人たちを束ねるプラットフォームですね。広義のエンタメでスポーツも娯楽エンタメになると思うのですが、アメリカの分散型動画メディアタイプのプラットフォーム『Overtime』がその筆頭かなと。Overtimeにはアマチュアのみんなが体育館などで撮ったバスケ動画がどんどん上がってくる。そこから新しい高校バスケのスターが生まれるんですよね。そのトップの高校生たちを集めて新しいリーグを作ってそれをIPにしてしまう。日本でも同様の動きが出てくるんじゃないかなと思って期待しています。

中:IPを作る会社は面白いなと思いつつ、新しくクリエイターになりたい人を後押しするようなサービスが気になっていますね。
ネット上で何かを流行させる公式の一つには“コラボレーション”があります。例えば、TikTokなどSNSを始めたばかりの人の知名度を上げるために、有名人とのコラボ機会を提供するといったサービスが今後すごく盛り上がってくると思うので、その領域のスタートアップに投資したいなと思っています。あとweb2.0だけではなくてweb3.0的なNFT的なもの。「コンテンツが伸びるとファンも徳をする」という世界観が非常にエンタメと相性がいいです。例えば、最近『アクシー・インフィニティ』というゲーミングプラットフォームが流行っていますが、トークンを使ってそのゲーム内で稼げるような世界感です。ゲーム自体が盛り上がるとトークン価格が上がり、三方良しの仕組みになっています。ゲーム以外でもこういった流れば加速するのではないでしょうか。

横田:僕は引き続き、IPをどうやって作っていくのか、世界にどのように打って出るのかという戦略を持つ会社と出会いたいという風に思っています。
あとは作品とファンを結びつけるようなファンコミュニティ的なもの。ファンが長くその作品に携わっていけるようなプラットフォームを思考しているサービスもこれからますます重要になってくると思うので、そういうチャレンジしているスタートアップのお話をぜひお聞きしたいなと思っています。

遠藤:ことエンタメ領域でどういった企業が成長するかと考えた時に、日本国内ではやはり大企業に軍配が上がる。これは構造や採用、ブランディングが関係しているので致し方ない面もあるのですが、スピード感や判断の早さ、チャレンジを何度もできるといった良さはスタートアップだからこそ。この強みを活かすとするならば、アニメやゲームのD2Cがねらい目だと思います。そういったビジネスサービスを展開されている企業を応援したいと思いますね。

——IPの未来を継いでいくヒントをたくさん頂きました。技術革新やプラットフォームの変化、そしてコンテンツの見せ方に届け方。こういったものが目まぐるしく変わる激動の20年間だったかと思います。いつもエンタメの市場を爆発的に大きくしてきたのは「そういった変化をうまく捉えて今までとは違うファン層を獲得してきたプレイヤーだった」というのが、改めて議論の中で浮き彫りになりました。2020年代、今再び投資環境としてもエンタメ分野が注目を集め始める中で、この10年の戦いを日本から輝くプレイヤーをたくさん輩出すべく皆様と一緒に、私自身も尽力できればと思います。今後とも皆様よろしくお願いいたします。

モデレーター W ventures インベストマネージャー 高津秀也

新卒時、資産運用会社に入社するもうまく馴染めずドロップアウトし、ひょんなことからVCに転向。現在キャピタリスト歴3年、アニメオタク歴15年。思えば小学校時代、父親からガンダムを教えられた時から、モビルスーツのカッコ良さよりアナハイムの悪虐非道な政治力の方が気になる変な子供だった。まともな企業に馴染む訳がない。投資先には、アンビリアルやAnique・mikaiなどのエンタメ企業が多く並ぶ。
参加メンバー(50音順)

テレビ東京コミュニケーションズ Business producer 遠藤 哲也
エヴァ世代。好きなアニメは天空のエスカフローネ、カウボーイビバップ。憧れていた女性は惣流・アスカ・ラングレー。エンタメ領域の戦略立案を最も得意とする。

CyberAgent Capital アソシエイト 片岡 芳明
大学3年時よりサイバーエージェント・キャピタルに参画し、投資実行・支援業務に携わる。5歳の時にたまたま観たゴジラvsデストロイアに衝撃を受け、それから映画・漫画・アニメ・ゲーム等のエンタメコンテンツに徐々にハマっていき、中高はニコ動に青春を捧げる。人生で大きな影響を受けた作品は「ゴジラ」「コードギアス」「Fate/Zero」「宇宙戦艦ヤマト」「信長の野望」「Civilization」「インター・ステラー」等。

ANOBAKA シニアアソシエイト 中 縁嗣
大学3年時からANOBAKA(当時KVP)へジョイン。現在7社担当しており、領域は絞っていないものの、コンシューマー領域が多め。中高6年間の男子校生活にてアニメ・ゲーム・漫画にのめり込む。「けいおん!」にハマりギターを始めるものの2ヶ月で挫折。同ギターはヤフオクにて売却済。

オー・エル・エム・ベンチャーズ代表取締役 横田 秀和
1997年よりスタートアップ投資の世界に入り、コンテンツ分野やネットサービスを中心に活動。現在のファンドはエンタメ×Techを主な投資領域として運営中。

制作・構成 株式会社TEA.M

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