第七回:私情より国益を「エンリケ航海王子」 [大望の航路・ポルトガル篇]
コインブラ公ペドロとブラガンサ公アフォンソ、2人の王子の衝突によりポルトガル王国に大きな緊張が走ります。
そんな中、経済顧問のエンリケはようやく軌道に乗り始めたポルトガルの経済成長を止めないためにも、自身の立場を明確にしてその投資体制を整えていきます。
アルファロベイラの戦い、コンスタンティノープル陥落などの事件を経て、ポルトガル王国の運命は大きく動き始めます。
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ポルトガルを世界帝国へと押し上げ大航海時代を切り開いたきっかけを作ったエンリケ航海王子の生き様を描く「大望の航路・ポルトガル篇」(全8回)、第7回をどうぞ!
▼歴史発想源「大望の航路・ポルトガル篇」〜エンリケ航海王子の章〜
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【第七回】私情より国益を「エンリケ航海王子」
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■ 走狗煮られる、「アルファロベイラの戦い」
アヴィス王朝の創始者ジョアン1世の庶子であるブラガンサ公アフォンソ1世は、異母弟ペドロを摂政の座から引きずり落とした挙句、ポルトガル北方のブラガンサから軍勢を率い、ペドロの領土であるコインブラへと進軍します。
アフォンソ1世は若き国王から前もって、首都リスボンへ向かうのであれば他の者の領土も許可なく通ってもいい、という特例ちゃっかりともらっていたからです。
ペドロはアフォンソ1世が領内でどのような行動をしでかすか分からないので、領地であるコインブラで有事に備えて軍勢を整えていました。
このまま両軍が激突するようなことがあってはポルトガル国内にまた混乱が起きてしまうので、経済顧問のエンリケは兄ペドロに対して何度も「アフォンソ1世の挑発に乗ってはいけない」と諌める手紙を送り、また国王アフォンソ5世に仲裁を求めました。
事態を重く見た国王アフォンソ5世は、ペドロにもアフォンソ1世にも退却を命じます。
この時、挑発を仕掛けた側のブラガンサ公アフォンソ1世はコインブラでの衝突を避け、迂回して王宮へと辿り着いたので、危惧されていた両者の武力衝突はありませんでした。
しかし、宮廷へ来たアフォンソ1世は
「自分は国王の命令通りにブラガンサから馳せ参じ、国王の命令通りにペドロとの衝突は避けたが、ペドロは国王の命令に反して軍勢を用意して待ち構えていた。これは反逆罪だ」
と、王侯会議でペドロを貶めていくのです。
エンリケは兄ペドロの無実を強く主張するのですが、他にペドロを守ろうとする王族はおらず、何よりも国王アフォンソ5世がブラガンサ公アフォンソ1世を深く信用してしまい、ペドロを反逆者として討伐する決意を表明します。
この国王の決定は絶対であり、エンリケにはこの決定を覆すことはできません。
エンリケにはもう、ペドロを救う術はありませんでした。
国王アフォンソ5世と結婚している王妃のイザベルはペドロの娘だったので、イザベルもなんとか父親ペドロの命を助けようと、夫であるアフォンソ5世に必死で助命を懇願しました。
ペドロは国王に疑われていることは誤解であり、自分は潔白であることを娘に手紙で知らせていました。
父は国王に対して反逆の心などない、と王妃イザベルは父ペドロからのその手紙を国王に見せます。
その内容が、かえって国王アフォンソ5世の逆鱗に触れます。
そこには「愛する娘イザベルのために、国王陛下に許しを乞うつもりだ」と書かれており、
「ペドロは心の底では自分が正しくて王が間違っていると思っており、娘がかわいそうだから仕方なく、自分が間違っていましたと本心と逆のことを言おうとしているだけではないか!」
と解釈してしまったのです。
国王アフォンソ5世は、ついにペドロを大罪人に指定し、ペドロ討伐のための兵を挙げるのです。
ペドロは王室に反抗する意思は全くないのですが、せめて暗躍する異母兄アフォンソ1世から国王をお守りしたいと、5000人の部隊を連れて首都リスボンへと進軍しました。
国王に目通りが叶うならば、すぐに恭順を誓ってこの軍勢も全てお渡ししよう、と考えたのです。
国王アフォンソ5世は、このペドロの軍勢を反乱軍とみなして、自ら3万の兵を率いて待ち構えました。
1449年5月19日。
両軍は、首都リスボンの北方の郊外にあるアルファロベイラという地で対峙します。
ペドロは国王に対して面会の交渉をしようとしただけなので、国王軍に対して歯向かうことはありませんでした。
しかし、…
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