総合原価計算の勉強は最後にしよう 〜8回目で合格を目指す簿記2級〜
簿記については、以前に『5回目でうかる!簿記2級』という、自分を奮い立たせるための記事を書いたのだけど、1年経ち7回目の受験を終えた現在も、実はまだ受かっていない。ここにきて自分が苦手にしているのは、あろうことか、できて当然の第1問の仕訳問題だ。ここが安定していれば合格は目の前なのだが、なかなかどうして、うまくいかない。
こんな状況ではあるのだが、しかし「工業簿記」については満点を十分に狙えるくらい出来上がっていると思うので、頭の整理を兼ねて、思ったことを書いていきたい。
単純、個別、総合、標準、直接・・・? 全部・・・?
手もとにある工業簿記のテキストを先頭から順に見ていくと、工業簿記とは何か、から始まり、材料費、労務費、経費、製造間接費が続き、個別原価計算、総合原価計算、標準原価計算、直接原価計算という順で、いろいろな原価計算の方法を学ぶ。簿記2級を始める人は、ほとんどがテキストの流れどおり学習を進めると思う。
でも、製造間接費までは無理なく進むのだけど、中途半端に読んでいると、後半で数ある原価計算の仕組みの違いがわからず苦戦してしまう。それでも単純個別原価計算であれば前半のまとめのようなものだから、まだ飲み込める。だが総合原価計算で進捗度や仕損が出てくると、どの金額に反映させればいいのかわからないし、標準原価計算の「標準」や、直接原価計算の「直接」の意味がまるでわからない。何よりも、なぜ原価計算というものにそんなに種類があるのかというのが理解できずに停滞してしまうのだ。
最初に学習するべきなのは直接原価計算
工業簿記の目的はなにかと考えたとき、ひとつは営業利益の計算であるというのは理解しやすい。売上高から原価を引いて営業利益を出す。そのために原価計算を行う。原価計算というのは結局のところ、営業利益を出すための手段であって、それ自体が目的なのではない。
営業利益を出す方法という観点では、直接原価計算と全部原価計算でなぜ結果が変わるのかは最初につまづくポイントだろう(ちなみに、ぼくとしては計算結果よりも、なぜその違いが許されるのかという方が疑問だったのだが…)。しかも、よく聞いてみると、どうやら直接原価計算で算出される営業利益というのは、正式な報告書類では使えないものなのだそうだ。そうすると、じゃあなんでまたそんな計算を行うんだと、さらなる疑問が生まれたりする。簿記2級を独学で、合格ギリギリのラインで学習している人にとって、説明されてもいない財務会計と管理会計の違いなどわかるはずがない。
でも、いろいろやっていって、そのうち計算の意味を理解し始める。ある段階でふと、いろんなピースがしっかりはまってきて、それぞれの違いも含めて、きちんと理解できる状態になってきた。簿記2級の工業簿記はひねった問題をそうそう出してこないから、実はマスターしやすかったらしいというのは後から知ったことだ。さて、このあたりでぼくは、真っ先に直接原価計算を、とりわけCVP分析の学習を最初にやった方が、実は理解が圧倒的に早かったのではないかと思うようになった。
直接原価計算を最初に学ぶメリットとしては、
1. 違いを通して「全部原価計算」が理解できる
2. 独立した分野として、はやく全体が理解できる
というのがあると思う。
1. 「全部原価計算」が理解できる
直接原価計算を最初に学ぶと何がいいかというと、いちばん最初に「全部原価計算」との違いが理解できるのだ。直接原価計算とは、あくまで利益予測のための「べんりツール」だ。なぜ便利なのかというと、変動費と固定費を分けて計算しているからだ。ただし、最終的に作成されなければいけない報告書は、全部原価計算で計算された原価を使う。直接原価計算を用いたのでは固定費を除いた分、利益が小さく出てしまい問題がある。
変動費と固定費を分けることは、全部原価計算では行わない。総合原価計算では材料費と加工費が出てきて、加工費は進捗度に応じて投入、という事例が出題される。標準原価計算と個別原価計算はともに製造間接費の「配賦」が求められる。これらの過程で、固定費と変動費の違いを意識することはない。だが、営業利益は販売量に応じて変化するから、生産から販売までの過程の変動費の流れを追わないと、きちんと利益を出せているのかが数値からは読めない。
営業利益という言葉に最も近い感覚で手をつけられるのは直接原価計算だろう。だから、直接原価計算はいちばん最初に覚えてしまうのがいい。そして、何が直接原価計算と違うのかという視点を持ってから、他の分野に手をのばすべきなのだ。
2. はやく全体が理解できる
簿記2級としての直接原価計算の特徴は、他の単元との関連が薄いことだ。直接原価計算とCVP分析は、他のところがわからなくても単独で理解できる。
工業簿記の損益計算書は商業簿記の損益計算書の問題と違って、決算整理事項があるわけでもないので、参考書の内容を一巡しておく必要がない。直接原価計算の損益計算では貢献利益を出して営業利益を求めることができればよく、前半の材料費や労務費の細かい知識も要求されない。一旦最初から最後まで学習しなければいけない全部原価計算と違って、直接原価計算は満点を狙えるようになるまでの期間が圧倒的に短い。つまり、早期に得意分野を作ることができるのだ。
もっと言えば、最悪の場合、簿記の受験を諦めざるを得なくなったとき、中途半端な知識だと使いどころがない。直接原価計算のいいところは、固変分解という考え方を包括的に身につけられるところにある。
直接原価計算の「次」は…
「工業簿記というよくわからないもの」から、まず「直接原価計算」「CVP分析」という塊を取り出す。それができると、このカオスにもぼんやりと輪郭が見えてくる。「固変分解」の概念が理解できたら、次のステージは「製造間接費の配賦」だ。ここは標準原価計算と実際原価計算で考え方は変わらない。「実際配賦」「標準配賦」「予定配賦」の違いがわかることと、勘定連絡図が頭に入るようになればここもクリアできる。直接原価計算の次は標準原価計算と個別原価計算をセットで勉強するのがいいだろう。
こうして、ぼくたちは最後に目にすることになる。これまで「工業簿記というよくわからないもの」の最深部に潜んでいた怪物の正体、総合原価計算という名の幽霊を。
ぼくたちの戦いは、ここからが本番になるのだ。