逃がしてあげるという愛
いまから「元」彼氏になろうとしている人とは、高校一年生の五月に付き合った。はやいもので気づけば、大学三年生の十月。最初のときも曖昧だったけど、今も曖昧な最期を遂げようとしている。
ちゃんとした失恋は、初めて。その人が自分の生活から死んでいく、きっとこれからそんな気分と戦うことになるんだろうな。まだ現実をのみこめなくて、泣いては平気を繰り返している。ありがたいことに支えてくれる親友がいる。でも、同性の壁なのかどこか全部は頼り切れない。Twitterで現実逃避に失恋にむけた言葉の海を泳いでみたが、他人の言葉すぎてなんか違う。結局、誰にも頼れずここで書き流している。
別れる理由なんてないのが、別れる理由に思えてきた。
大学一年生の冬に浮気されて、一度別れて復縁した。元から気が弱く自信の足りていない私を壊すのには十分だった。そもそもこの時に復縁してしまった時点で、何かがおかしかったのかもしれない。喧嘩のたびにどんなにひどいことを言われても、嫌いになれなかった。泣けば怒られ俺が悪者かとののしられ、泣き続ければ過呼吸になるまでひどいことを言われ続け、あげく突き飛ばされるくらいは普通になっている。私の涙は安いみたい。でもDVってほどでは無い、喧嘩してヒートアップしちゃったときだけ。バイトの詰まった予定の間か、嫌なイベントの前か、疲れているとき以外は、デレデレしてるのが普通で日常。私を猫か娘かみたいに愛でている。この落差の理由はわからない、なんか雲行きが怪しいなと思ったらお互いヒートアップしてヒステリック。
でも嫌いじゃない、嫌いになれない、それでも好き、別れたいと思えない。
これが別れる理由に足りることにやっと気づいたのは、初めて他人に話した、親友に相談できた昨日の話。元から自分の恋愛の話はしないほうではあったけど、自分でもどこかやばいことに気づいていたのだろう。喧嘩のときのこの仕打ち?の話は、今まで誰にも言ったことがなかった。
なんでこんなにひどいことができるんだろう。言えるんだろう。
わたしは好きな人の涙なんて見たくないけどな、ずっと不思議だった。
親友曰く、やっぱりこの扱いはおかしいらしい。そんな話をした帰りのバス、彼からのline、最近なんだか離れたがってたしそんな話の流れになったので別れようと結論付けた。もちろんそう送って別れることにあっさり決まって、バスから降りて死にたくなった。たくさん泣いて、その親友に電話していた。今はつらいけど、これからの幸せのためだという話になった。たくさんの予定をつくってくれて、死なれたら悲しいよって電話のむこうで半泣きだった。生きる理由を確かめさせてくれた。
大好きな親友、絶対に復縁はしないようにって話だった。ごめん。
しんどくて、彼にlineしちゃった。諸々ごめんなさいって。こうやって裏切られて泣いたのにうらぎっちゃうなんて、やっぱり私も頭がおかしいんだろうな。多分、彼がおかしくなったのも私のせい。
嫌いになるスイッチをもって自分軸で、自分も相手も大切に、相手を思いやって傷つけず。彼とつきあってから、そんな正しい関係の築き方してないな。真逆だ。若かったからとか言っちゃおうかな、自分のつけた傷の深さでしか、相手の思いの深さを計れなかった。相手のなかの自分の大きさを、そうやって確かめていた。お互いすり減ってたし、疲れるし、そろそろ解放してあげなきゃとは思っていた。
愛ってなんだったんだろう。ただのスーパーでも楽しくて、夜中にマックいってコンビニいって夜更かしして、どこに行っても思い出してお土産はかってくし、おいしいものは共有したいし、最後の一個は残してあげてたはずだった。
どこから狂ってたか考えて、楽しい思い出とつらい記憶を行き来して、今の自分たちがどこにいるのか分からなくなった。そういえば最後に会った時は、次はサバでも焼こうかと言ってたな。焼き魚好きでしょ、なんて弱々しい笑顔で言われて。確か、ラーメンも食べたいなって返したな。
別れ際にそんな時間があったとて、離れてみれば、私がいないほうが楽しいし会いたいと思っていないし、そんなに好きでもないと言い放つ彼。きっと、もう私を必要としていない。離れているときは、冷静になっていると言ったほうが正しいのかもしれない。
逃がしてあげなければ。
会っている時だけの幸せなんて、なんて苦しい恋なんだ。
何度これを読み返したって、私は彼の気持ちなんてわからない。縋るべき恋じゃないことなんて自分が一番わかっている。それでも彼にごめんなさいと言って電話を泣きつく私が、この世界で一番のバカ。この世界で一番かわいそうな彼。
もしこんな駄文につきあってくれた優しいひとがいたら、
逃がしてもらえないかわいそうな彼のために
どうかこの失恋を応援してほしい。
もう私は、すっかり何もかもが分からなくなっているので。