無言バーミヤン2時間耐久(事実編)
日記)
好きか分からなくなった、と言ってきた彼から会って話せない?とLINEがきた。もうその頃には、すでに友達伝に別れを告げられることは分かっていた。(よくないことかもしれないけど、友達がスパイ的なムーブをしてくれて、彼の出した結論を予習させてくれた)
いつも通り私の家の最寄りまで来るという彼、もう家にはあがらないだろうに。(家に来てくれるかもしれないという一抹の希望を残してくれたのか、ただ他の場所で会うという考えがなかったのか、別れたいと思ってる相手のために近くまで会いに行く優しさはあるのか、私にこの最寄駅での嫌な思い出を植え付けたかったのか、真相は闇の中だけれど)久しぶりに見る彼は今までと同じように、久しぶりとにこやかに改札を抜けてきたから驚いて、真顔で久しぶりと返してしまった。会えない2週間ですでに考え尽くした上に彼との結末を知ってしまった私には、これから別れを告げてくる相手に笑顔をつくる余裕も、振りまく愛想も微塵もなかったのだ。天気が悪いね、雨が降ってるね、など二言目で終わる会話をぼそぼそ続ける。お昼ごはんを食べていないとこのことだったので、(これから別れ話が始まると分かっていた)私はファミレスに行こうと言った。いつもなら絶対に行くことのない、駅前のバーミヤン。中華料理で脂っこいものを食べる食欲なんてなかったけれど、この前距離をおこうと話をしたときに行ったサイゼにはもう近寄りたくなかったのだ。
席についてからご飯が届くまで、私はスマホをいじり続けた。前述のスパイ活動をしてくれた友達とリアルタイムでLINEをし続けていた。さながら実況中継だった。絶対に彼の前で泣くなと励まされ、彼の悪いところを、嫌いになるべきところを、何度も繰り返してくれた。お陰で機嫌の悪そうに話しかける隙を与えず、いかにもやる気のない服を着てきたという最後の私を演出できていたはずだ。そんな強がりをしながらも、結局頼んだチャーハンは半分も食べられなかった。一方で彼は何を思っていたのだろう、しっかり餃子までセットにして完食していた。元気でよろしい。
ご飯が届いてから食べ終わるまで、気づけば1時間半くらい経っていた。彼とは頼んだドリンクバーを取りに行く時とお手洗いに席を立つ時しか、会話がない。最後にしようと思ったコーヒーを飲み終えた頃、彼からそろそろ出ようかと言われた。え、まだ何も話してないんですけど。頭はハテナでいっぱいだったけど、そこを突っ込んであげたらこちらの負けかと思って、黙って店をでる。このまま帰るのかと思って駅まで戻ったら、改札前で立ち止まった。気まずいなとぼんやり人の往来を眺めていたら、彼からどこか座って話がしたいと言われた。(さっきまで2時間無言で座ってましたが?とは言わなかった優しい)カラオケとか行こう、とのこと。
私は別れ話をし始めたら泣き喚くと思われているのか。人目のつかないところは殴られたり怒鳴られたりするかもとモラハラ被害者の私はトラウマがよぎったけれど、カラオケという個室で防音のチョイスはそれしか理由が見つからなかったので、彼のために彼の要望をのむことにした。カラオケの受付で、何時間にしますか?と店員に尋ねられて、彼は1時間でと言っていた。ああ、私への別れ話は1時間で済むと思っているのか、と謎の安堵と怒りと寂しさがあった。きっと、その日の私はここで踏ん切りがついた。
この人は、私と話し合う気はないのだと。
その予測通り、彼は部屋に入ってしばらくの沈黙を破ったと思えば、(私はすでに予習済みの)別れ話をしてきた。1週間考えたけれど、やっぱり仕事のせいとかではなく、そもそも好きな気持ちがなくなったとのこと。友達から送られてきたLINEのスクショの文面と全く同じ文章を話すもんだから、笑いそうになった、コピペ野郎。
もう今はほとんど思い出せないが、とにかく俺が悪いのだと謝られていた気がする。これは別れ話じゃなくてただのお前のオナニーお気持ち表明だろとか。やけに気持ちの悪い謝罪会見を眺めながら、最後までこの人は自分の気持ちのよさだけを考えていて、私がどんな顔して聞いているかなんて興味がないんだろうな、と諦めがついた。あなたは自分のことばっかりで、私が何をしたとか何を考えたとか、興味がないんだね、そんな人だと思わなかったとか言った気がする。このまま同じ空間にいたら殴ってしまいそうだと思った頃に、ちょうど予定の1時間が経ちそうだったので、先に部屋を出た。
これが別れまでの事実。
つづく