雨の日の彼
日記)
カレーを食べにきた。
テレビでは全国で台風並みの大雨だとかニュースキャスターがしゃべっている。雨風は昼がピークだと言っている通り、家から数分のカレー屋にくるまでに足元はひんやり濡れた。不快感、吹き飛ばそうと辛口にした。帰り際、辛さ大丈夫だった?とニコニコされた。美味しかったですと返したけれど、ラッシーのおかわりが欲しくなったくらいには辛かった。
今日はずっと雨予報。
本当は彼氏と銀杏を見に行く予定だったが、天気を理由にリスケした。雨の日が嫌いで、外に出るのが億劫だと言う彼に、私も雨の日は家にこもっちゃうななんて嘘をついた。
昔好きだった人(元彼と呼べ)は、雨の日が好きだった。
土砂降りのなか車を走らせて、マックのドライブスルーに寄って、センスのいい音楽をかけながら、よく車を走らせた。忙しそうなワイパーと濡れたマックの紙袋の匂いとよく分からない歌詞を歌う雰囲気のいい音楽が、記憶から抜けない。
あの頃の彼と、どこへでも行ける気がしていた。
心地いいサウンドを響かせる流行りじゃない曲がかかる車内も、受け取ったばかりの紙袋からポテトだけを先に食べさせるための助手席も、やけに忙しなく動くワイパーからちらちらと覗く景色も、今はもうない。
それらを懐かしんでしまうのは未練ではない。(実際、1年ぶりに再会した彼には何の魅力も感じられず、全然楽しくなかったなとそそくさと帰ってきた。それ以来会ってもいないし、連絡もしていない。)
あの頃の幸せな私は取り戻せないが、あの頃から今までの私は連続しているのは確からしい。
もう今の私は新しい幸せを手に入れているはずで、新しい恋人がいるのに、記憶から抜けない彼との青春の記憶が私を揺らがす。眠剤と精神安定剤の小さな粒程度で支えられる軽い自我なのに、そんな軽い自我だからなのか、雨の日の私は(未だに)いつもただ揺らめいている。
今日の朝は、いつも飲み忘れがちな朝服用ぶんの薬をきちんと飲んだ。
リスケした彼氏との銀杏デートは来週だ。
楽しみだな。
以上