パシッと聞こえたのはたった一瞬、繋がる音
「順番にいくよ~~!! はい、あか~!」
やばいやばい。近づいてくる。たったったった、と小気味いい音が遠くから、いくつも聞こえた。
「次、きいろっ! その次は、みどり~~! あ、こら並んで!! こっちこっち!!」
ああ心臓も頭も足も、なんか全部が痛くなってきた。周りはずっと、歓声なのか声援なのか怒号なのかわからないけど、うるさい。
「つぎ、あおぐみ~!!!」
「はい!」
返事をして降り立ったそこは、太陽が砂埃をきらきらとダイヤモンドダストのようにしていた。本物のダイヤモンドダストを見たことはないけど、きっとこんな感じだと思う。
等間隔に並んだ白線と白線の間が私がいる場所。
右手を後ろに出して、バトンを受け取る体勢を整える。すぐ隣では、すでに走り終えた同級生たちが、これから走る私と、今まさに私に近づいている彼に向って「がんばれー!」「はやくはやくっ!」と声を上げた。みんな同じ青いハチマキを頭に巻いている。
ああ、暑い。
ハチマキが巻かれているおでこからじわり、と汗がにじむのが体感でわかる。なんだかちょっと気持ち悪い。
「たなべっ!!!」
気づけば私に向かって青いバトンを突き出していた彼。
パシッとバトンを受け取ったその音はたった一瞬、繋がる音。私と彼、私とチーム、順位とチーム、夏と体育祭。
中学校に入って初めて「体育祭」って聞いた時は、その大人な響きが恥ずかしかった。だってこの前まで「運動会」っていっていたのに。
中学校はなんだかいろんなことが一気に大人になる。「算数」じゃなくて「数学」。「理科」じゃなくて「化学」「生物」。毎日6時限目まであるし、部活動が始まったりする。大人だ。
わかりやすく、大人の階段を登っている。
走り終わった彼に向って「うん! お疲れ!」そう言葉を出せたのは、頭は冷静だったからだろうか。それとも、無意識に用意していたからだろうか。
走り出したとき、小さく聞こえた「任せた」。
それからは何も聞こえなくなって、ただただ足を動かして、前に前にって気持ちだけで。はっと前を向くと、少し遠くの前のほうに次の人の右手が見えた。パシッと鳴った、次に繋がる音。
そして今。またその音が響こうとしている。
「書く」ことで集まった、おもしろステキメンバーのみなさんと8月からリレーしながらエッセイを書いておりまして。
すでに、第2走者まで走っていて、実は第3走者は私。パシッの音を待ってる私の右手は、8月7日(日)に走り出します。