断章: 雨のダンス、世界のリズム
ちいさい頃に住んでいた家は駅からは離れていてどこへ行くにもバスを使っていた。僕のお気に入りの席はうしろから2番目の窓際で、いつもそこに座って窓越しに流れてゆく風景を眺めていた。
その窓も雨の日には曇ってしまい風景は覆い隠されるけれど、代わりにその上にひとつまたひとつとおとずれては競い合うように滑っていく雨粒たちを見ることができた。信号を待っている間やバス停に止まっている間は息を潜めていた雨粒がバスが走り出すとともに鮮やかに線を描く様にはいつまでも飽きることがなかった。
世界がそこでいくつものリズムが響いては重なり合うひとつの大きな詩であり、僕自身もまたそれらのリズムのうちのひとつなのだと僕が気づいたのはおそらくはこのときだった。雨はひとを詩人にする。雨の日の朝に生まれた僕はこのとき再び世界に出会っていた。
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