栗木 京子『水惑星・中庭(パティオ)』より
雁書館, 1998.
底本は『水惑星』雁書館, 1984. および『中庭(パティオ)』雁書館, 1990.
『水惑星』
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生
誰彼にベル鳴らしつつ自転車で春浅き日の橋渡りゆく
スカーフの赤も暮色に鎮まれば二人の舟を岸に漕ぎ寄す
溶け合へぬ気位を君も我も持ち夜更けて街へジャズを聴きに出づ
退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都
坐す君の耳朶あたり夕暮れて背後の窓に雨垂りやまず
風の尾を捉ふるごとく手を伸べて友は