春日井 建『未青年』より
短歌新聞社, 2000. 底本は作品社, 1960.
学友のかたれる恋はみな淡し遠く春雷の鳴る空のした
太陽が欲しくて父を怒らせし日よりむなしきものばかり恋ふ
童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり
海草の花芽ふふみて恋ひやすき胸に沁みゐる舟唄を聴く
肋のなか潮騒は日日昂まれりしろき泡沫の愛育ちきて
白猫の眼にうつされし灯が揺れて父の胸奥(むなど)にねむる軍港
舌根が塩に傷つく沖にまで泳ぐともわれはけだものくさく
掠奪婚を足首あつく恋ふ夜の寝棺に臥せるごときひとり寝
抱きしめてそれより淋し冷やかに鼻孔を君の吐息がかよふ
旅にきて魅かれてやまぬ青年もうつくしければ悪霊の弟子
電飾のけむれる街をさまよへり無垢なる日日の記憶は消えよ
いらいらとふる雪かぶり白髪となれば久遠に子を生むなかれ
千の嘘告げしつめたき愛のため少女の雨の日の夢遊病
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