生みの苦しみ
数年前あるプロジェクトに参画した。社内で卓越した製品を生み出した研究者にインタビューし、共通する考えや行動を調べるというものだった。幾つかの共通項が見出される中で興味深かったのは、アイディアは「入浴中に思いつく」というもの。オフィスでは全く思いつかなかったが、帰宅して風呂に入ってリラックスしていると思いもよらない発想が顔を出すという。緊張状態にある脳を少し置いて弛緩させることは、新たな発想を呼び起こす上で有効なのだろうか。
似たような経験が最近あった。新たな会社の社名を決めるときのこと。社名候補として私が大切にしたい価値観を思いつくままに挙げ、それを英語、フランス語、ギリシア語など7か国語に翻訳。総数400語近くにもなったのにピンとくるものは全くなかった。途方に暮れる中、入浴こそしてなかったがややリラックスしているときに何の気なしに組織開発の英語文献を眺めていると“will”と”map”の単語が目に飛び込んできた。組み合わせたときの語呂の良さと事業方針との合致を感じ「これだ!」と膝を叩いた。
最初の“翻訳作業”に1週間かかったにもかかわらず、WillMapの出現はほんの一瞬の出来事だった。この“翻訳作業”とWillMapの出現、関係がないとは思えない。偶然に予想外のものを見つける能力をセレンディピティというが、この資質も前工程で如何に脳に汗をかいてその問題に取り組んだかによって獲得できるか決まるのではと思う。
組織開発でも同じことが言える。組織開発を進める場合、まず課題を見出そうと組織サーベイを実施する。例えば、“上司・部下間のコミュニケーション”の点数が低い”とう結果が出たとする。そして、安易に今流行りの1on1を入れよう施策を決定してしまう。複雑で、様々な要因が絡む組織の問題は、そんな簡単に答えがでるものではない。大切なことは、当事者間でそのデータの背景にあるものについて様々な観点で意見を戦わせ、議論で”汗”をかくこと。その過程を経て、会社の独自のより妥当性の高い策が見えてくるのではと思う。