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ガスライティングという支配~相手に自信を失わせ、自分の下に置く、という行為


昨年の夏ごろだったと思います。
新聞の第一面の下のほうに本の広告が掲載されていました。
その中に「ガスライティングという支配~関係性におけるトラウマとその回復」という本がありました。

ガスライティング?
聞きなれない言葉だな。
ガスライターみたい?
ヘンなの…

スルーしようと思いましたが、そこにあったキャッチコピーが、私のアンテナを激しく揺らしました。

「これだから女は!」
「で、何が言いたいわけ?」
「君には無理だと思うよ」
相手を否定し、主体性を失わせていく
支配と情緒的コントロール・・・
ガスライティングの罠に気づき、
自由になるためのガイドブック

同著の広告コピー(帯)より

これらのセリフに、聞き覚えがありました。
私の長い会社員人生の中で、度々浴びせられた冷水のような言葉たち。
そして今、ビジネスコーチとして接するクライアントとの対話の中でも登場するセリフです。

言葉を発する人物が意図しているかどうかに関わらず、言葉を投げつけられたほうは傷つき、自己否定のスパイラルに陥る。そして次第に自信や気力を奪われていく…。

そういう「呪い」のような言葉だったんだ。
この本に出合うまでは、そのことに、気づいてもいませんでした。

ガスライティング


1944年米国公開の映画「ガス燈」に由来するこの言葉は、2010年代半ばから米国で広まり、22年には同国内で「今年の流行語」に選ばれたということです。

映画では、イングリッド・バーグマン演じる妻が、夫に盗癖や物忘れをでっち上げられ、精神的に追い詰められていく様子が描かれています。

「ガスライティングという支配~関係性におけるトラウマとその回復」(日本評論社)は、米国の臨床心理士が書いた本です。
ガスライティングは恋愛関係や家族、友人、教育環境、職場など人生のあらゆる領域で生じる恐れがあり、権力(パワー)の差が存在するあらゆる関係性にその罠は潜んでいる。
支配しようとする人をガスライターと呼び、多くの場合、その原因はガスライターのパワーへの欲求で、背景には家父長制度や男尊女卑の価値観があるそうです。

職場におけるガスライティング

あなたの職場では「指導」という名の下にガスライティングが行われてはいないでしょうか。例えば「新人教育」という場面で、時には「新任管理職への指導」で…。

職場におけるガスライティングは、組織にとっても、とても深刻な問題です。精神的な苦痛や支配を受けることで、優秀な人材が流出し、頑張って残った人材も、言われたことをそつなくこなすだけの「従順な会社員」になってしまう恐れがあります。そのような組織で、果たしてイノベーティブな成果が生まれるでしょうか。

高い実績を上げているにも関わらず、自分の実力を過小評価する女性が多いのも、このあたりの「指導」の在り方や社内風土に問題があるのかも知れません。私はコーチングの現場で様々なクライアントと向き合ってきましたが、その人の個人的な気質や認識の問題だけではなく、その組織全体が解決すべき課題のように思えてなりません。
長い間、そのような企業で育てられてきた「会社員としての自我」が、その人の成長を阻む壁のようになるのです。キャリアを重ね「君もそろそろ管理職に…」と昇格させられても「私なんて…」と躊躇するようになるのではないでしょうか。

辛すぎて読めない…

私がコーチングで出会ったクライアント女性たちにこの本を紹介すると「ちょっと辛くて、読めません」といった反応が少なくありません。

「無理して読まなくてもいいですよ、もちろん。」とお伝えします。

確かに。
具体的なエピソードがたくさん書かれているので、追体験してしまうことがあるかも知れません。
それは…辛いものがありますね。

名づけられたことで、姿がハッキリ見えるようになる。


「ガスライティング」という言葉が与えられたことで、そのような関係性が顕在化します。言葉を与えられることで問題が浮き彫りになり、社会的に「それってNGだよね」という共通認識が形成されていきます。「セクハラ」「パワハラ」などがそうですよね。

罠に気づけば、陥らないように気を付けることができる。
正体が分かれば、過去の出来事から解放されることもできる。

だから、「ガスライティング」という言葉が、もっと広く知られるようになってほしいと願い、2月3日付の河北新報のコラム「ちょっとEはなし」にも書きました。
このnoteでの発信も、そういう意味で、役に立つことを切に願っています。



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