ポラプレジンクとレボチロキシンナトリウム併用による TSH 上昇【ケースレポート】

⌘ 私的背景(症例は modify しています)

数年前より甲状腺外科の処方レボチロキシンナトリウム(商品名:チラーヂン)を服用中の 50 代女性。胃炎および逆流性食道炎により他院の内科を受診し約 6 ヶ月前よりエソメプラゾール(商品名:ネキシウム)20 mg とポラプレジンク(商品名:プロマック)OD 錠 75 mg を服用中。

今年に入り久々に来局した際『薬のおかげで胃腸の調子は大分良くなったんだけど、ここのところ甲状腺の数値が悪いみたい。そういえば疲れやすかったりして体調は良くないかも。結局、甲状腺の薬が増えちゃったんだよね。なんか可能性は低いんだけど飲み合わせが悪いかもしれないから、服用するタイミングをズラすように言われたんだけど、これって頻繁に起こるの?』


さっそく Pubmed を用い MEDLINE を検索(いわゆる "Pubる")した。

レボチロキシンナトリウムの吸収低下にカルシウム(PMID: 9508149)や、アルミニウムを含有するスクラルファート(商品名:アルサルミン、PMID: 1503346)の関与が過去に報告されており、推測されているメカニズムは何れもキレート形成である。以上の結果から、鉄製剤や亜鉛を含むポラプレジンクも同様にレボチロキシンナトリウム吸収低下を引き起こす可能性が考えられる。しかし関連する医学論文を見つけることが出来なかった。


⌘ 目的

別のアプローチで本問題を解決する。


⌘ 方法

添付文書およびインタビューフォームを見る。

メーカーに問い合わせる。


⌘ 結果

2017 年 2 月時点のレボチロキシンナトリウムの添付文書には、併用禁忌や併用注意の項にポラプレジンクの記載は無かった。

一方、ポラプレジンクの添付文書には、併用注意の項にペニシラミン製剤およびレボチロキシンナトリウムの記載があった。

しかし患者背景や頻度等については記載が見当たらなかったためメーカーへ問い合わせたところ、症例報告があることを知り詳細を文書にて提供してもらえるよう依頼。内容は以下の通り。


【症例】40 代女性 数年前に悪性甲状腺腫が見つかり甲状腺を全摘出。その後レボチロキシンナトリウム、アルファカルシドール、乳酸カルシウムを投与。

胃潰瘍のためファモチジンおよびポラプレジンクを他院にて投与開始。

甲状腺機能検査にて TSH 値の上昇(5.36)を認める。再検査にて TSH 値更に上昇(7.34)を認める。

キレート形成疑いのためポラプレジンク中止。

甲状腺機能検査にて TSH 値がポラプレジンク投与前の値まで回復(0.07)。


ポラプレジンク服用開始前後の各検査値は次の通り。

                        表:提供文書より作成

⌘ 結論・考察

ポラプレジンクは Zn を含有しており、レボチロキシンナトリウムとのキレート形成、これに伴うレボチロキシンナトリウムの吸収低下、作用減弱により TSH 値の上昇が引き起こされたものと考えられる。しかし、ポラプレジンクとレボチロキシンナトリウムを同時に服用している患者もおり、甲状腺の値もコントロールされているため、メーカーより提供された 1 症例のみの結果だけを目の前の患者に適応できる可能性は低い。何にせよ添付文書の改訂早よ!


⌘ 結局どうしたのか?

そうは言っても不安要素は取り除きたいと考え、患者と相談し、患者も処方変更を希望したため、以下の処方提案を内科担当医師へ行った。

消化器症状は安定しているため①ポラプレジンクの中止、あるいは②金属を含まない防御因子増強薬への変更を提案。結果、ポラプレジンクからレバミピドへ変更となった。

レボチロキシンナトリウムの効果が強く出る(甲状腺機能亢進症のような症状が認められる)場合はすぐに受診するよう促した。


実はメーカーから口頭で『ポラプレジンク服用後、数日間レボチロキシンナトリウムの吸収低下が認められた症例もあったようです』と聞いていたため処方を変更した方が良いだろうと考えたからです(なぜ、こちらについては文書でくれないのかな。誰か論文見つけたら教えて下さい!!)。


(例えば酸化マグネシウムとレボフロキサシンの服用が重なった際、服用タイミングを約 2 時間ズラせばレボフロキサシンの吸収低下はほぼ起こらないとされており、投薬の際は上記のように患者にも説明しているが、この方法で本件を解決できる可能性は低いのではないでしょうか?)


⌘ 患者はどうなったのか?

血液検査は数ヶ月先のため、本介入の評価は出来ていない。

分かり次第追記します。


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