地域によっては、すっかり「田んぼを構成するひとつの要素」となったスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)。年々その生息域をひろげ、定植したばかりのイネやレンコンの幼葉などを食害し問題となっています。
南米原産で、1981 年に食用目的で台湾から初めて日本に輸入され、水田周辺で養殖が始められました。その後、全国で 500 ヶ所ほどの養殖場ができましたが、消費者の嗜好に合わず商品価値を失い、養殖業者の廃業等によって放置され、農業用水路や水田で野生化したのがことのはじまりです。
人間の手によって持ち込まれ、商品価値を失うと放逐され、「田んぼのやっかいもの」として扱われるという不幸な来歴をもつ貝でもあります。
被害総額は千葉県だけでも、数千万円にのぼり、地域によって強弱はありますが、全国になると数億規模の被害が予想されます。
全国に分布を広げつつあり、完全に駆除することは多大な労力を要することから、もはや難しいと考えられます。そこで、少しでも被害を軽減すべく、さまざまな防除法が各地で試されており、その方法を農水省が定期的にまとめてくれています。
苗にも産み付けられますが、田んぼ周りの波板や境界ブロック、水路の壁や畔周りの雑草などによく産み付けられているのをよくみかけます。
繁殖力は非常に高く、イネの生育と時を同じくして、スクミリンゴガイも成長します。産卵期間も同じように、イネの栽培期間と重なっています。
温暖化に伴って、茨城県より北においても生息がひろがっており、生息自体は東北や北海道でも確認されています。
人為的な生態系の攪乱状況(外来種と在来種の分布状況)
国土技術政策研究所HPより
今後、越冬個体の分布も北へ広がっていくことが予想されます。
活着の良い乳苗・幼苗が移植苗として利用されることが多いですが、同時にスクミリンゴガイに食害されやすい葉齢でもあります。育苗や活着にやや時間がかかりますが、5葉期以降の中苗で移植するのも、有効な手段となります。
熱帯に生息しているスクミリンゴガイにとって、低温には耐性が低く、厳寒期に土を起こし、貝を寒さにさらす防除法も有効となります。
日本のタニシと同じように、鳥や魚が天敵となりますが、食べきれないほど生息している地域も多く、生物的防除ではてにおえないのが現状でしょう。
秋期の石灰窒素の散布
石灰窒素は農薬としても登録されており、稲刈り後に使用した石灰窒素は稲わらの腐熟促進、ヒエの休眠覚醒にも役立つといわれています。
日本石灰窒素工業会 HPより
しかし魚毒性が高いため、漏水防止対策を行うとともに、 散布後7日間は落水、かけ流しはしないことになっています。
冬期の耕耘
食害被害の大きい貝ほど、冬期に土中に潜る能力も高くなりますが、ロータリーで破砕する確率は大きい貝のほうが高いため、有効な手段となります。
水路の泥上げ
農閑期における圃場や水利施設などの防除によって、貝の密度を減らす環境管理が重要となります。
水路からの侵入防止
落水後、冬場に乾田となるような地域では、水路を通って生き残り、水を張るころ戻ってくるどじょうのような生物もいるため、取水口・排水口にネットを設置する際は、生物多様性への配慮が必要になる地域もあるかもしれません。
参考 ドジョウの実態とその保全
移植した苗が、被害の少なくなる第5葉に育つまでしっかり侵入を防除し、その後は外すというのも1つの方法です。
浅水管理
浅水管理は、耕種的方法として最も効果が高いといわれています。
慣行では、定植後すぐは活着を促すため、深水管理をおこなうことが多いですが、食害されやすい期間でもありますので、周辺よりも低い場所にある圃場や、水のたまりやすいところにある圃場に関しては、定植時から浅水で管理することも有効な方法です。
代かきの上手な農家さんの田んぼほど、土壌面に凸凹が少なく、被害も少ないように思います。そういう意味では、「貝にトラクターの腕を鍛えられている」といえなくもないですね。
薬剤散布
薬剤によっては、有機JASに適合する資材もあります。人畜にたいしての毒性は低いですが、用法用量をしっかり守り、使用に際しては、地域や環境への配慮が必要となります。
水田内・周辺での殺卵・捕殺
「水田内を歩きながら貝を拾い取る方法では、1反当たり約9時間かかり、かつ全体の68%しか捕獲できない」「すでに定着している地域では、明瞭な防除効果は得られない」という見解となっているようですので、例えば大きな貝だけ拾う、被害の大きい圃場のみで実施する、他の方法を模索するなど、労働環境に応じた対応が必要となります。
田畑輪換
周辺が田んぼの畑では、灌水に使用するため池や、溝切り孔などに生息し、田と畑を行き来するため、田に戻してもまた元に戻ってしまうことが多いかもしれません。
防除基準(令和 5 年 3 月末現在)
これをもとに、要防除水準を県によって定めているところもあります。
減収させないためには、貝の密度を下げることが大事になります。取り除くのが難しい場合、水深の深いところに集まる貝の習性を逆手に取り、浅水にして活動性を下げる、土壌面が凸凹にならないようならし、水面の深さをできる限り圃場のどの位置でも一定に保つことが重要になります。
まとめ
スクミリンゴガイの防除には多大な労力がかかることから、地域の実情に応じた対応が必要となります。温暖な地域に生息する貝であることから、日本においては地域によって被害に強弱があります。薬剤の使用においても一長一短があり、効果をあげるためには、使用法や栽培スケジュールなど地域におけるオペレーションを整える必要がある。餌を使ったトラップや、アイガモに捕食させる方法。被害の少ない圃場の環境を真似る方法など、各地域における試行錯誤も最近ではよくニュースなどで取り上げられています。しかし現状においては、いかに被害を抑えるための「無理のない防除法」をおこなえるか。ある程度「共存」を模索するのが現実的ではないかと思われます。