「女性が活躍する社会」が実現すると、生涯未婚の女性が増え続けるという罰ゲーム
職業別の生涯未婚率については、以下の記事などで既にご存知の方も多いかと思います。
「女医さんが結婚できない」などと話題になりました。
ただ、このデータはあくまで正規職員だけのものです。生涯未婚率対象年齢は45-54歳です。その年齢で正規・非正規の比率を出すと、男は9対1、女は4対6になります。つまり、男の場合の生涯未婚率は大体この通りと考えていいですが、女性の場合むしろ非正規人口の方が多いし、さらには無業者もいる。なので、この比較はあくまで「正規職員の女性限定」ということで見てもらった方がよいです。
同じ就業構造基本調査の「産業別」のデータを使用して作りました。男女の差だけではなく、正規・非正規職員別の差分もあわせて見てみます。
これだけを見てしまうと、いろいろと誤解を招きそうです。決して「非正規男性は結婚できない」という証明でもないし、「女性は非正規の方が結婚しやすい」ということではありませんので、念のため。
個別の産業別にみてみましょう。
赤字にしてあるのは、男女の平均の生涯未婚率(男性20%、女性10%)を上回っているものです。
男女及び正規・非正規の4つの指標すべてで全体の生涯未婚率を上回っているのは、「新聞・出版・映像制作・広告制作業」になります。特に、正規女性の50%が生涯未婚だというのはある意味衝撃です。続いて「広告業」や「法律事務所・会計事務所・デザイン業・著述家」も高い。
一方、生涯未婚率が低いのは、男性では「金融・保険業」「教育関連業」、女性では、「宿泊業,飲食サービス業」「社会保険・福祉、介護事業」のようです。
いわゆるメーカーなどの「製造業」は、男性は平均以下ですが女性が倍以上。「金融・保険業」も正規男性は低いのに正規女性は高い。男女比率的に女性の方が多いと思われる「小売業」においても正規女性の数値は高い。
面白いのは、正規男女および非正規男性も高い「広告業」ですが、非正規の女性が0%という結果に。これはN数の問題もあると思いますが、広告会社に派遣等で勤めている女性はさっさと結婚してしまうということでしょうか。
正規職員としてバリバリ働いている女性は生涯結婚しない可能性が高いという傾向がありますが、それも、映像や文字、文章や絵を使いこなし、専門的な資格や知識を持つ人たちの生涯未婚率が高いようです。
確かに、僕の肌感覚でも、新聞や出版などのマスコミ業界のライターさんは未婚率が高いような気がします。デザイナーの女性も多い気がします。
何が要因なんでしょうか?
単純に、仕事が忙しく、かつ楽しいというのはあるでしょう。いわゆるメーカーや小売店と違って、何時~何時までという時間労働の考え方ではないという点も特徴です。
もうひとつバリバリ仕事をする女性であれば、自ら稼ぐ。女性には「自分より年収の高い男性と結婚したい」という上方婚の考え方もありますので、自分の年収が高くなると相手の選択肢が狭くなるという点もあるでしょう。600万円の年収を稼ぐ女性は、300万円の年収の男とは結婚できないんです。
なぜ女性は、自分より年収の高い相手を希望するのか。
それは、女性だけの問題じゃないし、社会制度や企業側だけの問題でもない。男性側にも責任の一端があります。この年代(生涯未婚率対象年齢の45-54歳)の男性には、逆に下方婚志向があるからです。自分より低い年収の女性を求めます。また、「男は外で働き、女は家を守る」というガラパゴスな価値観の人たちも多い。「結婚したら女性は専業主婦になるものだ」という高度経済成長期の考え方が根強く残っている人も多いんです。事実、そういう考えの男の方が結婚できている。つまり、正規で働いていたとしても、結婚や子育てに際して女性は離職を余儀なくされるケースが生まれる。
極論を言えば、それをよしとした女性は結婚した。だからこそ、結果的に正規の男と非正規の女の未婚率が低いのでしょう。もちろん中には互いに理解のあるカップルが、共稼ぎのまま結婚するパターンもある。しかし、子どもが生まれると、いずれにせよ子育てに対して女性が負担をすることが大多数でした。
女性からしたら、「はあ?とんでもない。なんで私が仕事を諦めなければいけないの?そんなことなら結婚なんてしない方がましよ」と思うかもしれません。そう思う女性たちが未婚のまま50代を迎えているんです。
であれば、正規で稼ぐ女性が非正規で年収の低い男性と結婚して、彼を主夫として結婚するという考え方もあったはずですが、男女ともこのマッチングを否定しがちです。
ヒモかよ…と。
なんで女性が家庭に入ると主婦なのに、男性はヒモとdisられるんでしょうか。
そもそも女性側に「結婚しなくても経済的に一人で生きていける」という前提もあります。忙しい仕事をほっぽり出してまで婚活にいそしむ必要性がない。
漠然と「結婚したい」とは思っているとしても、結婚というものにどん欲に突き進む人たちではない可能性があります。
…となると安倍さんが掲げる「女性が活躍する社会」が実現すればするほど、生涯未婚の女性が増え続けることになるんじゃないかと思ってしまいます。一所懸命勉強して、いい会社に就職して、仕事でも成果を出せば出すほど、女性が結婚から遠のいていく。
何の罰ゲームでしょうか?
2014年の国民生活基礎調査におもしろいデータがありました。末子の年齢階級別にみた母の仕事の状況。
これによると、末子が0歳時点で6割の母親が無業。子どもが大きくなるに従って仕事をするようになりますが、そのほとんどが非正規雇用です。子どもを生んでも正規のままでいられるのは20%程度。
無業の専業主婦で十分な収入のある旦那ばかりじゃありませんので、これはつまり、妊娠出産のタイミングで仕事を諦めた女性が多くいるわけです。逆にいえば、出産に際して正規のままでいられる企業が2割しかないということにもなる。ちなみに、30-34歳時点の女性の正規雇用率は30%ですから、それで見ても10%は正規職を辞しているということ。
企業だけの責任でもないし、保育園があれば解決するという問題でもない。夫婦の価値観の問題もあるし、男側のガラパゴス脳や当事者である働く女性の意識やスタンスを変える話でもあります。
ただどうなんでしょう。一生懸命働く女性が、その働く意欲のために、結婚という道を閉ざされてしまうんだとしたら残念ではないでしょうか。