Goldsmithとは何者か
金細工師の預かり証書が銀行券の始まりであるとする俗説がある。貨幣論に一家言ある人でもこの説に疑問を呈している例をあまりみない。
職人と付き合いのある人はよく観察してみるといい。一般的な傾向として、ものづくりに励む職人は日当や出来高払いなどについては極めて敏感だが、金融に対する知識や興味はほとんどない。材料出しや原価計算などを瞬時に行えることと、通貨や金融商品、銀行業などについて知識を深め、実践することは別なのである。
金細工師が顧客から直接金銀を預かり、その預かり証書を顧客に手渡す。この「金細工師」が本当に職人であるならば、預かっている品物以上の預かり証など発行することはしないだろう。このような悪知恵をつける者がいたとしたら、それは顧客と職人である金細工師の間を仲介する問屋、卸売、小売などの類いであったと考えて間違いない。つまり、職人ではなく商人なのである。新たな金融の仕組みを考案するのは決まってこの手の連中なのであって、末端で働く職人であるわけがない。世界中どこであれ事情は同じであろう。
Goldsmithなる名称は金細工師に由来すると言われているが、かなり怪しい。金細工師が知恵をつけて両替商や貸金業に鞍替えしたのではなく、最初から金融を生業とする連中であったとする方が実態により近いと私は考える。Goldsmithがユダヤ系に多くみられる氏名であるならば、これを裏付ける証拠にもなるだろう。
「名工赤貧多し」という格言がある。名工かどうかはともかく、職人に裕福な人は滅多にいない。現代の金細工師や日本の刀鍛冶、スイスの高級時計職人、イタリアの楽器や皮革職人などで裕福な人はどれほどいるだろうか?彼等のどこから金儲けのスキームや金融商品が生まれてくるのだろう?
Goldsmithを名のる人々はそもそも金細工師ではなかった。彼等はもともと職人ではなく金融を生業とする商人であった。この人たちがやがて「寄託」や「消費貸借」の概念を発展させ、現代の金融システムの根幹を構築してゆく。
金細工師はいつまで経っても金細工師のままである。Goldsmithとは別の人たちであろう。
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