米津玄師2023ライブツアー「空想」横アリ6/29 こってり濃厚レポ【前編】
開演前、スモークが立ち込めた会場の奥に三角形のステージがある。何かセットが組まれている様子はない。センターに大型の、左右にやや縦長のLEDビジョンが設置されており、一段下がったところにある剣先型の花道は短い。
このシンプルなステージが、米津玄師とともにめくるめく空想世界を自在に創り出し、横浜アリーナを埋め尽くしたオーディエンスを熱狂させることになる。
オープニング〜カムパネルラ
古いアップライトピアノのような温かい音色で、ファイナルファンタジーのオープニングテーマを彷彿させるメロディが流れ始める。そこにシンセベスやボコーダーを通したスペーシーなクワイアが重なる。青く細いダウンライトが光の柱となって降りてくる。
メロディは@Nomungochさんが耳コピしたこちらが限りなく近いと思う
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ステージ奥からバンドメンバーが登場。最後に、ミントグリーンのつなぎに身を包んだ米津玄師がゆっくりとスタンドマイクの前に立つ。前ツアー「変身」のトップスとほぼ同色の衣装を選んだのは「空想」が「変身」と地続きであることを示唆しているのかもしれない。
花道の両サイドのライトがレールのごとく明滅し、バックスクリーンには白いチョークで描いたような”銀河鉄道”が星空へと登って行く。遠ざかる汽車の音に「シュシュシュシュッシュッ」と重なるカムパネルラのイントロ。
次の瞬間、あの印象的な旋律に強い照明が当たるとどよめきのような歓声があがった。
この流れは米津玄師に影響を与えてきた”ファイナルファンタジー”、”宮沢賢治”へのオマージュだろうか?開演からほんの数分でこのライブが米津にとって、ひとつの集大成なのだと感じた。
カムパネルラはライブ初披露。その歌声はパワフルで豊潤、それでいて繊細だった。Cメロ2回目の”輝くクリスタル”は音源では絞り出すようなシャウトだが、この日はまさにクリスタルのように透明感のあるファルセット。
下から上へと移動する白いバックライトが黒い背景に映え、逆光に浮かび上がる米津の美しいシルエットが現実味を奪ってゆく。満員の観客が一斉に銀河鉄道に乗り込んだというのに、私のメモには「髪切った?」と書いてあった…
迷える羊
間髪入れず「迷える羊」へ。赤〜紫系のバックスクリーンに羊の髑髏が現れた。
初っ端から畳みかけてくる。両膝を曲げ前屈みで激しく頭を降りまくる米津の熱量が総立ちの観客に伝播していく。
重低音がズシズシ響く骨太なサウンドに声が全く負けていない。それどころか余裕すら感じさせる。特に”千年後の〜”からの安定感と豊かな声量は、長い両腕を広げる雄々しい姿と相まって威風堂々といった佇まいだ。
2020年、FORTNITEのバーチャルライブで使用されたのと同じ、巨大な歯車が荒廃した街のあちこちで回り続ける映像を背負って歌う。人気ゲーム内でのライブも志半ばで倒れたHYPEの代わりにはなれなかったのだろう。だが、これでやっとHYPEも成仏できるような気がした。
ラスサビでは映像が前方からステージの演者に向かって投影され、全員が後方のLEDビジョンと一体化。まるで空想の街に溶け込んでしまったかのように見えた。
米津はアウトロの間、前屈姿勢で半身をゆらゆらと揺らしていた。STRAY SHEEPを象徴する”シリアス”な2曲をオープニングにした意味は、このライブのプロローグというよりも、止まってしまった2020年のエピローグだったのかもしれない。
感電
暗転からパッと照明が上がると同時に、いつの間にかステージ下手側
にスタンバイしていたMELRAW HORNSの4人が高らかにあの特徴的なイントロを鳴らすとダンサーたちが勢いよく飛び出してくる。
「こんにちはーーーーっ!!ヨコハマーーーーッ!!!!!!」
踊りながら絶叫する米津が両サイドのビジョンに大きく映し出され会場の熱量が一気にブチ上がる。暴れまくるムービングライト。膝、腰、胸、頭が滑らかに横にウェーブするような動きでダンサーたちと軽快に歌い踊る。
ホーン隊のグルービーな生音がカッコいい。
”誰にも知られないまま”では小さくうんうんとうなずき、”返事はいらない”では投げやりに手を振るなど、歌詞と連動した細かなジェスチャーが楽しい。そして、”それは心臓を刹那に揺らすもの”で各会場でも話題になっていた横ピース。顔はニコリともせず無表情のまま。女性ファンがキャーキャー悲鳴を上げる。ちょっと意味不明…笑
ラストで痙攣のような細かいヘドバンをかますと、「うわっやっばーい!」「凄すぎるッ!!!」と、場内は早くもクライマックスみたいな盛り上がりだ。
MC1
「どーぅもよねずけんしでしたぁよろしくっ!」
ドラムがドドドっどん!と合いの手を入れる。一気にまくし立ててたが、うっかり”でした”って言ってたのに結構みんな気付いていたんじゃないだろうか?
軽いオラオラ口調で手短かに挨拶をするとギターを受け取り次の曲へ。
vivi
21歳の米津がたった1人、すべてを打ち込みで作り上げた「vivi」が、今宵バンドサウンドして蘇った。5人のメンバーがギリ収まるサイズの白く光るパネルが降下し低い天井の狭い空間を作り出す。まさにdiorama(箱庭)だ。
カスカスで不安定なサウンドにナイーブな少年性を帯びた歌声が魅力だった「vivi」。最後にライブで歌った2015年のツアー「花ゆり落ちる」以来8年の時を経て、当時の10倍以上の観客を前に歌うのは感慨深いものがあるに違いない。
ミキシングのせいかわからないが不協和音がかなり強調されていたような気がする。薄いスモークの中、目を閉じ時折眉をしかめて歌い、最後の”それでも何も言えない僕だ”の”言えない”はメロディがアレンジされていた。
ラスサビの前に2回フラッシュライトが点滅すると、少しずつ天井のライトが上昇し、最後にMVで主人公が書いていた”手紙”と同じタッチの線画が移し出された。
5人が合わせる血の通ったサウンドは太く、音源よりキーが低いのではないか?と感じるほど米津の声には確かな成熟の証があった。それは10余年間で積み上げ、獲得してきたもののと当時に、さよならしてきたもう取り戻すことのできない何かをも浮き彫りにしていた。
Décolleté
「Décolleté」の怪しげなイントロが始まると、さっきまでの箱庭がサイドビジョンまでをフルに使った大空間へと変わる。心理テストで有名な「ルビンの壺」のような騙し絵で女性の脚やトルソーを描いたモノトーン映像が洗練された大人のムードを醸し出す。
サイドスクリーンには気怠げにフラフラと歌うモノクロの米津が映し出される。左手にマイクをぞんざいに持ち、右手を腰に当て、顎を上げ気味にして”しゃなり”と揺れる。
視覚はアンニュイ、妖艶、デカダンを見てるのに、聴覚は会場内に響き渡る「あ、よいしょっ」とばかりの手拍子をキャッチしてしまい、ちょっと笑ってしまった。
”どこに消えたの”で痰が絡んだように声がつまってしまい、若干ピッチが乱れたり高音がキツそうなところがいくつもあったが、それさえも崩れかけの色気を放出。右手で髪をクシャっとかきむしるような仕草を何度か見せていたが、それもまた投げやりな苛立ちの表現のようで悩ましい。
キーボードの宮川純が哀愁を帯びた音色で奏でるアコーディオンパートが効いている。バックスクリーンには脚や腕のイラストが放射状に回りアールデコ模様にも万華鏡のようにも見える。
曲終わり、後方にむかってフラフラと歩きながら裏声で「ありがと〜ぅおおおお〜」と叫ぶ。少し声が掠れていた。
※「Décolleté」についての過去記事はこちら
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優しい人
暗紅色のステージに1本のピンスポットが射す。じっと目を閉じ静かに歌いしたのは「優しい人」。
ああ、この曲も歌うのか・・・STRY SHEEPの中でもひっそりと身を隠すようにしていた曲。正直ライブ映えしないだろうと勝手に思っていた「優しい人」を歌うことによって、ライブツアーが行えなかったSTRAY SHEEPは全曲コンプリートとなった。
前言の”ライブ映えしない”と思った無礼を深く謝りたい。泣き出しそうな表情で、ひとつひとつの言葉をかみしめるように丁寧に歌う「優しい人」はライブ映えしないどころか音源を遥か上回る情感に溢れていた。
特筆すべきはサビの”あなたみたいに”の冒頭の”あ”の手前に発する小さな溜めの”ぇ”とか、随所で揺らぐ超微細な母音だ。”ぇあなたみーたぁいにぃやーさぁしくぅ”のような。
極限までシンプルな演出のおかげで、ボーカリスト米津玄師の細かいテクニックを駆使した歌唱力を存分に味わうことができた。
※「優しい人」についての過去記事はこちら
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Lemon
音源にはないがライブではお馴染みの静かなイントロが流れる。「優しい人」の後に「Lemon」。泣いてくださいコーナーでしょうか?そのままスタンドマイクでしっとりと歌い出す。
「vivi」の時に天井となっていたパネルの四辺から白い光が紗幕のように米津を取り囲んでいる。花道の先端ではTEAM TSUJIMOTOのダンサーが1人、魂を震わせるように踊っている。
”受け止めきれないものと出会うたび”の部分にはアレンジというよりも全く新しいメロディに変わっており、大きな広がりを感じさせる展開になっていた。うろ覚えだがこんな感じの旋律。
バックスクリーンには地面からせり上がってきた教会のような建物が崩れ落ち、満天の星空に変化するCGアニメーションが流れていたが、これもFORTNITEと同じ映像であったことがファイナル公演後に明らかになった。
下手側のポットライトに照らされ、上手側の壁面と客席に巨大な米津の影が浮かぶ。
Cメロの”とても忘れられない/それだけが確か”に続くストリングス、一瞬の静寂・・・・そして白く強いライトがステージから客席に向かってゆっくりと回転しながら放たれる。
米津たちの頭上のLEDパネルに現れたクリスタルが割れ、全体に飛び散ってゆくと、ステージが深いブルーに染まっていった。
M八七
「Lemon」のアウトロを引き継ぐように、力強く「M八七」が始まる。この曲に関してはもう、”LT-Katokichiライティングショー”と言っても過言ではない。いや、ライティングとLEDが融合したイリュージョンだ。
青い空間に弾けたクリスタルが銀河に吸い込まれてゆく。細いブルーのライトが流星のように降り注ぐ。ステージとそれを取り囲む大小のLEDビジョンからはみ出し無限に広がる宇宙。無数の星々。それが壮大なサウンドに乗ってゆっくりと上昇してゆくと重力さえ消え、米津も自分が浮いていくような錯覚に陥る。
Cメロラスサビ前”彼方の方へーーーーーーーー”のド迫力ロングトーンのクレッシェンドからフワっと消える歌唱は、本当に見事としか言いようがなく、熱気が充満した会場にいながら背筋がゾワ〜っと粟だっていくのがわかった。
アウトロで客席後方からライトが少しずつ収斂してゆく。最後まで一流と一流の相乗効果でしか生み出すことのできない圧倒的なステージに酔いしれた。
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