あんドーナツ

「あんドーナツ買ったらね、これもらったの。」

短い髪の少女がわたしに言った。

スーパーの帰り道でぼーっとしていたのと、
少女の視線があさっての方を向いていたので、
自分が話し相手に選ばれたことに、一瞬気がつかなかった。

「それ、もらったんだ?」

遅れて返すと、

「うん、もらった。」

少女はやっぱりこちらを見ないで答えた。

「よかったね。今日はラッキーだね。」

うわ、つまらないことを言ってしまった、と思った瞬間。


「あなたの家は、どっちですか?」


不意に、少女がまっすぐ目をみて尋ねてきた。

「・・・うちはね、信号の向こうの、レンガのマンションだよ。」

急に大人びたことばで話す彼女に驚きながら、自宅を指す。

「・・・わたしはね、 お店にかえるの。」

言うと同時に、彼女はわたしに背を向けて走り出した。

そして信号のところで振り返り、

「気をつけてね!」と言って見えなくなった。


不思議な子。
でも、どこか小さい頃の自分と似ていた。夕方。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?