木をうえ、 花をうえ
「木をうえ、花をうえ、道をつくりなさい。
それはあなたの道。いつか愛するものが集う道となるわ。」
ある朝、花をもとめにきた客がわたしにそう告げた。
生花しか扱ったことがなかった。だから、何もかも手探りで始めた。
最初に植えた柊は苗木のときから驚くほど鋭い葉をもっていた。
周りの草を抜いてやるたびに、わたしの手には傷ができ、血が滲んだ。
次に桜を植えた。
小さな苗からは、甘い春の香りがした。
それにつられてやってくる毛虫、毛虫、毛虫。
柔らかい桜を守るために、鳥肌をさすりながら退治してまわった。
根のある植物が、こんなにも意思をもち
自由に育とうとすることを知らなかった。
枯れた苗や実をつけ終わった花は、少しずつ腐り土に還った。
死が土を肥やしていく。
春。
大きな時代のうねりを越え、わたしの背丈をとうに追いこした木々の下で、
子供たちのはしゃぐ声が響く。
初々しい親たちの笑顔。
一緒にそっと微笑んで、わたしはまた苗を植える。
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