研究室にお金を流し込むシステムを考える

概要

政府は新しい産業を求めてイノベーションを起こせる企業とイノベーションの元となる知識を生み出す大学に期待をかけています。しかし、研究室にはお金が入らず、企業にはイノベーションを起こせる地盤が整っていません。ここでは、研究室にお金が入らない理由を日本が持つ制度の欠陥と海外制度との比較から発見を試みます。そして、研究室にお金が入る仕組みを大企業による助成金制度によって解決できる可能性について検討します。

背景

一言でまとめると、会社は研究者がもっているすごい技術をビジネスに使えるようにして世界と戦えるになりたいってこと。


昨今の研究では、オープンイノベーションすなわち外部機関との委託・共同研究によって新しい技術や産業を作ることが流行となっている。このオープンイノベーションという概念自体は新しいものであるが、企業が行う部分最適的な研究や商用可能性を追求した研究先にはイノベーションのジレンマが待ち受けていることは周知されていることだろう。イノベーションのジレンマとは、日本が携帯電話や家電などでハイクオリティのものを作る能力が高まっていたものの、高すぎるクオリティが合ったとしても購買者にとって利益をもたらさないことがあることを示す。そうして、購買者の需要以上のものを作り続けている間に低クオリティであるものの違う需要を狙って現れた製品が購買者の需要を満たしてしまい、気づいた頃にはハイクオリティの製品を作っていた会社の売上が落ちているということがある。
具体例としては、三洋VSHaierの競争だろう。三洋は国内企業との競争に勝つためにハイクオリティの製品を大量に作ってきたが、安く最低限の機能と購買者が本来必要としている機能を備えた家電を市場に持ち込んだ結果三洋は買収されてしまった。

このような事例から、ある一定の範囲でのみ有効な研究をするのではなく、根本から技術を問い直すような研究が必要となっている。すなわち、商用ではないものの、一定有効性が高い基礎的な研究が求められている。

イノベーション力 ≒研究力の現在

一言でいうと、研究力が低下しているよってこと。

Global Innovation Index 2023 Innovation in the face of uncertainty

現在日本のイノベーションランキングは13位で、過去数年を遡ってみても

そこのように横ばいの動きを見せている。ここでの指標はGlobal Innovation Indexというものだったが、 World Economic Forumの指標ではそれ以前の日本のイノベーションランキングが徐々に落ちているのがわかる。

世界経済フォーラム(WEF) 国際競争力レポートにおける イノベーションランキングの 現状の分析について

このように日本が再び世界Top10に登るためには企業にイノベーションが必要である。

2022年のGlobal Innovation Indexでは日本が現在かけている点として創造的的な生産、人的資本とR&D、制度の3点をあげている。
研究者のサイドを見ると、日本の上位1割に入る論文の数が減った結果、現在13位に甘んじている。

科学研究のベンチマーキング 2023

研究者数を見ると、69万人の研究だけに従事するひとがいるとわかる(大学教員だけではなく、営利・非営利企業に所属する研究者も含まれている)。しかし、その量に対して論文の質が低下しているということは研究者一人当たりが持っている研究力についても低下していると考える事ができる。

事実、論文数に対する上位1割の数と論文数をグラフ化すると東京大学であっても上位の論文が少ないことがわかる。

ここには、言語的なバリアがあることや、研究者にとっての指標が異なることも考えられる。また、論文を出すか否かについての基準も大きく存在する可能性は否めない。
しかし、日本の研究者のうち、論文を出すのは8割が大学である。その大学でインパクトの大きい論文が少ないことは日本の研究者の研究力が低下している可能性を示唆できる。

研究における障壁

研究時間、研究資金と並んで研究能力を高める上での成約となっている。しかし、Time is Moneyと考えると、研究資金が不足しているから地道に研究をする必要があり時間がかかるともいえる。逆に研究時間が少ないから研究資金を獲得できるような科研費の探索や仕事ができないとも言える。
そのため、研究時間と資金には大きな相関があると考えられる。


研究時間が事務作業が多いことや教育負担が多いことが挙げられるが、これこそまさに研究者以外が可能な作業による負担によって生まれていると言える。

事務を他人に任せることができれば、基盤的経費の申請にかかる時間も確保のために必要な事務作業時間も削減できたはずである。しかし、そのためには資金が必要である。
ここに負の循環が生じていると言えるだろう。

GAPfandとTechnologyLicencingOfficeという現状の解決策

研究者に流れるお金が少ないという問題を解決するため、そしてアメリカが大学と連携して一気に国力を復活させるという1980年代の奇跡をみてしまった政府は大学にたいして積極的に特許を取得するように促した。より具体的にはアメリカでうまく行ったバイドール法を日本でも導入した。これは、政府が委託した研究によって生まれた特許は大学が保持してもよいというものであった。すると大学が企業からの特許使用料を獲得できることになる。こうして研究資金の不足を補おうとした。ただ、特許を取得するにもお金がかかることや、そもそも研究を特許取得可能な段階まで持っていくためにも研究資金が必要になる。
この資金を提供するために大学によっては技術移転機関、GAPファンドと呼ばれるものを設立した。技術移転機関とは大学の研究を見つけ出して、特許を取得し、企業にライセンスを売り込む機関のことである。ただ、  このGAPファンドを作っているのは全大学の一割にもみたない。これはそもそもGAPファンドを作るのに必要なお金を大学が持ち合わせていないことや、技術移転機関がないので、大学にGAPファンドを設立する意義がないところもある。つまり、一部の資金的に余裕があるトップ大学を除いて研究室にお金を流せる仕組みがないということになる。

この仕組みに拍車をかけたのが、技術移転機関の指標である。元来、この機関を発明したアメリカでは研究室に助成金を出すための機関であって利益を出すためのものでは無かった。これは、スタンフォードやMITにおいては卒業者からの寄付金等によってビジネスが成立していることもあり、利益を出す必要がないからである。しかし、日本の大学、研究成果が多い国立大学においてはし金を稼ぐ手段は少ない。そのため、技術移転機関はお金稼ぎの手段として利用される。つまり、研究室に入ったお金の量ではなく、研究室から生み出せた特許の数や特許使用料金が重要な指標となったのである。

提案

政府が堅苦しくても、大学にお金がなくても大企業にはお金がある。
R&Dの一貫として社内の人材を使わずアイデアやテーマを設定して、研究者に研究を委託することがここでは有効になると考える。
つまり、大企業が主催の科研費である。科研費やGAPFundはテーマが設定されており、そこのテーマにそっている研究者が申し込み、審査に通ればお金が受け取れるという仕組みである。研究費を得られればそのお金をつかって研究ができる。
ここでは、主催した企業に使える知財があれば特許化をTLOに委託し、優先的にライセンスを発行することで企業にとってもメリットが得られる。しかし、ここで注意しなければならない点は、これまでTLOがライセンスで失敗している理由である。場合によっては、特許の利用費用が高すぎて契約不成立となることがある点である。そのため、単に大企業が科研費のようにテーマ設定をする場所を作るだけではなく、TLOの代替組織として特許料を交渉する機関も必要となる可能性はある。
ここで重要なのは、そのプラットフォームはあくまでお金を流し込むための機関であり、金を稼ぐための機関ではないことである。
海外のTLOが成功している理由として、特許の利用料金が増えるまでに時間がかかること踏まえ、そして研究への投資が超先行投資として捉えていることである。
この点からズレてしまわぬようにこのプラットフォームを運営しなければならない。

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