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大学講義ワンショット12 イーロン・マスク&テイラー・スウィフト

中国の安価な製品がインターネットとコンテナ輸送を介して世界の隅々まで価格競争を強め、商店街や地域のコミュニティーは死滅する。
パソコンやスマホの画面にあふれる広告をみて、だれもが不安を感じていないでしょうか?

「SHEIN格安ワンピースの舞台裏 成功を動かす工場をBBCが取材」BBC 2025年1月14日
ローラ・ビッカーBBC中国特派員、中国・広州

20年以上前に、中国を訪れたとき*、商品の値引き広告に驚嘆したことを私は思い出します。
20%、30%・・・ という広告の意味は、割引の率ではありません。値札の20%、30%で売る、8割引き、7割引きということでした。
*拙著『グローバリゼーションを生きる』萌書房、第Ⅱ部 第2章

Thomas Friedman のコラムを読みました*。それはサプライ・チェーンをめぐる貿易戦争の話です。
世界貿易を解体する外科手術に頼るより、互いの国内における経済調整を合意する方がよい、と彼は考えます。
*Thomas L. Friedman, How Elon Musk and Taylor Swift Can Resolve U.S.-China Relations, NYT Dec. 17, 2024

・・・私はこれを「イーロン・マスク&テイラー・スウィフト・パラダイム」と呼んでいる。アメリカは中国に対する関税を引き上げることで、より多くのイーロン・マスク、つまり大きなものを作れる国内メーカーを育成する時間を稼ぐだろう。そうすれば、世界への輸出を増やし、輸入を減らすことができる。そして中国はその時間を利用して、より多くのテイラー・スウィフトを受け入れるだろう。若者が海外製の娯楽や消費財にお金を使う機会が増えるだけでなく、特に医療において、自国民が購入したい商品やサービスを増やすだろう。

トランプが中国製のEV(電気自動車)を関税で排除し、国内でどんどん石油を掘らせれば、ガソリン車が繁栄するかもしれません。
しかし、それはアメリカを偉大にすることなく、キューバにする。他方、世界市場は中国製のEVが独占します。

トランプが関税を使って中国からの工場移転を促すとしても、共和党は喜ばないだろう。なぜなら、雇用は増えないからです。
中国の担当者はフリードマンに「無人工場」を予告しました。
工場の組立ラインはすべてロボットで運営し、遠隔操作できる。

・・・鋼板や携帯電話から家庭用モーターやロケット点火装置の部品まで、中国ではより多くの事業分野が生産に人工知能を使用し、24時間中断のない無人生産能力を備えた『ダークファクトリー』を導入している。スマートファクトリーとも呼ばれるダークファクトリーは、照明を必要とせず、完全にプログラムされたロボットによって運営されている。

本当でしょうか?
そうかもしれません。AIやロボットの普及に抵抗する労働者の声を代表する、労働組合も、左派政党も、許されないからです。

・・・これほど不均衡な経済は持続可能ではない。いずれは中国に対抗するグローバルな貿易同盟が生まれるだろう。世界は中国にすべてを作らせ、大豆とジャガイモだけを輸入させることはないだろう。中国は、国内で良質な医療を提供するために看護師を増やす必要がある。そして、海外向けの自動車を設計するエンジニアを減らすべきだ。若者には、創作表現の場をもっと増やす。歌詞を書いたら刑務所行きになると心配しなくて済むように。

イーロン・マスクら、テクノ・リバタリアンとMAGAや中国共産党の「奇妙な」連合を阻むには、小さな声を代表する民主主義の改革が必要です。
20年前にも、そう思いました。*

*拙著、128-129ページ。「結び ― 私たちに何ができるのか?」149-153ページ。

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