大学講義ワンショット9 トランプ再選を考える
少し雨が降り始めたようです。
いつも講義の録画を公開していますが、
それでも数名の学生が、教室に来てくれます。
Zoomがつながらず困りました。そのまま話し始めます。
なぜ、ドナルド・トランプは再選されたのか?*
すべての激戦州でトランプが勝利し、総得票数でも共和党の大統領候補が20年ぶりに勝ったのです。
教室のホワイトボードの左にD. Trump、右にK. Harrisと書きました。
トランプは支持層を拡大し、ハリスは支持基盤を固めるより、削り取られました。
それでも私は納得いきませんでした。
いくらなんでも、アメリカの有権者の50%がトランプに投票するものだろうか?
大統領として、明らかにふさわしくない詐欺師。非白人や女性に対する差別的、暴力的な発言を常習的に行う人物です。
そう。だれもが知っているように。
トランプに投票した人は、彼の人格を重視して、投票したわけではないでしょう。
彼の信念やスタイル、MAGAを、心から尊重し、敬服する人たちを、トランピスト、トランプ主義者と定義します。
たとえ権力に寄生する似非信者を入れても
それは数%? もしかしたら、もっと少ないと思いました。
移民排斥、国境の壁。中国や貿易黒字国への攻撃、高関税。戦争や安全保障の嫌悪。同盟諸国の防衛負担増額。黒人、有色人種、イスラム教徒、発展途上国への暴言。自分に反対する者への復讐。体制による組織的監視・排除がある、陰謀論を広め、反撃のための暴力を容認。法の支配、選挙の正当性、平和的政権交代を拒否。議会襲撃への招待、違法行為の免責、称賛。国際条約からの離脱。・・・
トランプ支持のサークル
私はペンでいくつかの重層するサークルを描きました。
①トランプの家族と、緊密な関係者・寄付者の世界。
トランプは官僚からの報告や助言を聞かず、信頼する忠誠者に委ねました。
絶対主義時代の王朝スタイルです。
②トランプが破壊し、支配した共和党。
彼の信念とスタイルを、従来の政治家たちは嫌いました。
しかし、トランプが認める候補者しか、共和党に残れないことがはっきりします。
2020年の選挙は「盗まれた」という主張を認めなければ、トランプの支援を受けられず、共和党候補になれませんでした。
主要な幹部がトランプに膝を屈し(いわば、彼の靴の裏を舐め)、
それを嫌う者は排除されました。
③富裕層。ビジネス・エリート。
最高裁が政治献金を無制限に認めてから、富裕層は自分たちの富と地位を守るため、リベラル・進歩派の政治に対する攻撃・介入を強めました。
財政緊縮、政府支出削減を好む。
減税、規制緩和、ビジネスが自由に拡大できる環境。
ウォール街の関係者たち。ビットコインや暗号通貨の投機家たち。
④地方の伝統的な保守派。キリスト教徒。
連邦政府、課税、連邦制に反対するポピュリズムの伝統。
広大な大陸に点在する、農場、牧場。
地方の小都市や農村で暮らす、銃で自衛するしかないと信じるフロンティアの人びと。あるいは、理想化された過去と、繫栄のノスタルジー。
フラッキングなどによる新興資源採取ビジネスとその雇用。
⑤混乱し、退廃した世界の破壊者。救世主が派遣した新秩序の前ぶれ。
信仰心からか、さまざまな陰謀論によってか。
トランプは何かのシンボルでした。
キリスト教右派、福音派 Evangelical。Qアノン。白人至上主義。文化戦争。
SNSが有権者の情報源を分断し、人びとは異なる現実を観ていた、と言われます。
斎藤元彦氏の再選でも、SNSやYouTubeで判断した、と多くの人が答えています。
⑥白人貧困層、大学を出ていない底辺層。
進歩的な価値観を推進する政府や、「目覚めた人々」への不満、嫌悪感が広がる。
それでも、トランプ支持者は30%? 40%?を超えなかったのではないか?
民主党はアメリカ有権者の姿、言葉、を見失った。
都市部や中産階層、サービス部門に及ぶ、大規模な体制批判の声が、ハリスを包囲したようです。
⑦ノー、バイデン! アメリカの殺戮を止める!
アメリカ経済は好調か? インフレのせいで生活が悪化した。
バイデン政権の失敗だ。
移民たちが職を奪う。非合法、大規模に入国して低賃金で働く。公共サービスが不足している。
金融資産市場の活況。株価が高騰しても、労働者たち、マイノリティは利益を感じない。
仕事を探すにも、自分たちが購入できる住宅はない。
連邦政府を動かしているのは大学を出た都市のエリートたち。他方で、貧しい者は兵士になり、遠くの戦場で死んでいく。外国のための戦争に反対。
カマラ・ハリスの敗退
国民の統一。喜びの政治。貧困層への再分配。衰退地域への支援。イノベーションの推進。それにともなう労働者、労働組合を支援する。
しかし、工場労働者階級、都市のサービス部門の貧しい労働者、衰退地域の復活は限られる。
アメリカの進む方向は間違っている、と感じて、現状よりも変化を求めた
ヒスパニックや黒人、移民、女性、若者たち・・・彼・彼女はハリスに投票するのをやめた。
なぜガザの虐殺を止めないのか?
なぜウクライナにもっと武器を送らないのか?
ハリスがインタビューで話した一言に、支持者が凍り付いた。
あなたがバイデンに反対したことは何か? あなただったら何をするか? ・・・(私はすべての決定に参加しており)「違うことは何も思いつかない。」
バイデン=ハリスの政策は、貿易でも、移民でも、産業政策でも、トランプ化した。
左派や文化戦争より、中道を選び、リズ・チェイニーとも連携した。
民主主義を守れ。ファシストを拒否せよ!
しかし、現職候補への不満、怒りを表明するため、人びとは破壊者に投票する。
民主主義の溶解?
人口構成のトレンドが白人を各地でマイノリティーにする。移民流入に関する「大置換理論」。チャイナ・ショック。
機械による自動化・効率化、工場の海外移転、農業・製造業からサービス業への雇用のシフト。
アンチ・グローバリゼーション。成長のモデルを描けない。
極左から極右への転向。新しい党派が政権を揺るがし、政治の対立軸や枠組みが変化し続ける。
民間の武装集団。マリッシャ。暴力の政治。開票結果に介入する準備をする。政治的均衡、市民生活の平和は、急速に失われるかもしれない。
そして、私たちはここにいます。
*これは、トランプに批判的なメディアをいくつか読んだ感想です。
The Economist, Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, Project Syndicate, New York Times.