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最終講義2 私のIPE

私のIPEは、マルクス主義や帝国の問題提起と開発経済学がぶつかるところから始まったわけです。その交差する点は、経済成長(の波及)とガバナンスの問題(その革新)です。

1979年オイル・ショック、1985年プラザ合意、1989年「ベルリンの壁」崩壊が20歳代に起きました。
経済学者の多くが人生の30歳代に経験したことを理解するために思索し続ける、と読んだように思います。
私にとってそれ(1989-99)は、バブル景気とその後の不良債権問題・長期停滞、ソ連邦解体と冷戦後の《グローバリゼーション》を推進する思想、各地の政治経済秩序でした。
特に、1997年のアジア通貨危機は、国際秩序の変化を強く意識する危機でした。アメリカの姿勢、内外における日本の能力が問われたと思います。

本山美彦先生とゼミ生たちの雰囲気は、私のすべての研究、そして、生き方に根源的な影響を与えました。
本山先生のゼミは、大阪市立大学の本多健吉先生(途上国工業化、国家資本主義、世界システム)、東京大学の森田桐郎先生(古典派貿易論、新しい国際分業、国際労働力移動)のゼミと交流がありました。
ゼミや合同ゼミ合宿は、しばしば深夜の酒席まで議論が続き、下戸の私は隅で聴いていましたが、学問が大きく展開する熱気を感じました。
先生方は、人類の歴史的な抑圧とその解放を求める思想を、私たちに伝えたのです。

どうすれば経済危機を抑えられるか。国際収支不均衡と工業力の国際移転、石油資源の地理的不均衡とドル建債務危機の関係、を私は考えていました。

大学の研究室の本棚はまだからっぽで、引き出しには洗面器とタオルを入れてました。道後温泉にいくためです。
四国の松山に住んで、子供たちを育てたのは楽しかったです。

重要な転機は、いくつかの本と出会ったことでした。
若い研究者のためにいくつか紹介します。

◆C. ライト・ミルズ『社会学的想像力』
学部生の頃に読んだ、もっとも印象的な本でした。
◆Jeffry A. Frieden, Banking on the World.(『国際金融の政治学』)
隣の安倍先生の研究室で見つけて、貸してもらいました。
とてもおもしろい、感嘆した本です。安倍先生と一緒に翻訳しました。
ここからつながる諸研究と学者たちを、私は探し求めました。
◆D. ハーヴェイ『都市と社会的不平等』
古本屋でたまたま見つけました。ハーヴェイ自身が計量的な地理学からマルクス主義に転換した初期の名著です。
◆Robert Gilpin, War & Change in World Politics.(近年、訳されました)
◆ロバート・ギルピン『多国籍企業没落論 : アメリカの世紀は終わったか』、『世界システムの政治経済学 : 国際関係の新段階』
◆チャールズ・P. キンドルバーガー『インターナショナル・マネー』、『パワー・アンド・マネー―権力の国際政治経済の構造』、『大不況下の世界 : 1929-1939』
ギルピンとキンドルバーガーの《覇権安定論》はIPEの議論を集約する焦点です。国際秩序とその誕生に至る政治経済学の探求が、どのように一つになるのか、彼らの本を私は感動して読みました。
◆W. アーサー・ルイス『世界経済論』
これも古本屋で見つけました。かつて難波にあった古書街です。
簡潔な文章の中に、経済学の優れたセンスが平易に説かれています。
ルイス・モデルに示されたルイスの発想(開発経済学)を、グローバルな視点につなぎました

ウォーラーステインの描く世界システム論が展開する歴史・社会学?の詳細な論証に、私は倦んでいました。
その頃、マルクス主義地理学に出会います。
D. ハーヴェイの《資本の空間編成》に、ゴジラが火を噴きながら都市を破壊するような、資本のグローバリゼーションをみつけました。
M. デイビスの名著『アメリカン・ドリームの囚人たち』を読み、ラディカルな精神を学びました。
今も、《資本のロジック》が現実を作り変えています。

1997年のアジア通貨危機とは何か?
1999-2000年、在外研究として、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のコーエンに学び、イギリスにも暮らしました。

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