ファンタスティック・フーとアパートの取り壊し
春の某日、夜も9時を過ぎてから、突然知らない人が家にやってきた。
「すみません、退居してもらえませんか?このアパート取り壊したいんで(笑)」
「ヒヒ(笑)」って声が出た。ほんとに。
マジでびっくりすると、変な笑いが出ることがあるよね。
私は元来「家なんか屋根と空調があればいい」と思っている節があり、23区のまあまあいい位置にありながらも家賃が5.2万円というオンボロアパートに10年住んでいた。
何しろ所謂民度も最悪で、最初の隣人は普通に夜中にべランダで「殺してやる~っ!」とか叫んでいたし最終的には何らかの罪状でしょっぴかれていた。その辺は本題ではないので割愛しますが。まぁそういうノリのとこに10年住んでいた私も大概おかしい。それはそう。
とにかく、大家さんがNew大家さんにアパートを売却し、そのNew大家さんはさっさと取り壊したいので、2ヶ月と少しで出ていくところまでいってくれとのことだった。げえ!!とは思ったものの、マジのオンボロなのでそりゃそうか、潮時ですねという感じで頷いた。立退料もくださるというし。
10年ぶりに引っ越ししたら割と右往左往したので、次回の参考になるよう備忘録として諸々書いておく。
ざっくりと、いつごろ何をどうやっていたか書いておくので、突然オンボロのアパートから退去を命じられた人にはもしかしたら参考になるかもしれません。いないことはないやろ。もしくは、ま、暇つぶしに。
火星のスラム
まず、最初の半月は現実逃避に使う。
「これもやんなきゃいけない」「あれも考えなきゃいけない」「ヤダ~~~~」「来月くらいでよくない?!」
この期間がとても大事。大事か?
とにかく、色々リストアップしていた。ToDoとか、新居の条件とか。
ミドルネームが❝下調べ❞なので、考えるだけなら楽しくないこともない。
しかし、物が多い。多すぎる。この世のすべてがここに置いてある。海賊王の宝の置き場所じゃないんだからさ…
荷造り、の前に荷捨てが必要。
私はとにかく物を捨てるということに心理的抵抗がバカデカく、しかもある程度雑然としていても何も気にならない性質なので、気を抜くと家が物で溢れかえってしまう。
服とか10年以上着ているものが全然珍しくない。
何かの明細とか説明書とか全部捨てない、前々々回の職場の研修資料とか全部ある。
紙袋の量が店。タオルの量も店。あと、なんか、綺麗なリボンとか全部とってある。
(余談だけれど、これまで片づけられない仲間の人と出会う度に全員に尋ねたところ、全員例外なく、綺麗なリボンをたくさん持っているとのことです。)
火星のスラム街みたいな暮らし。
絶対に要らないものを捨てつつ、本や比較的新しい衣料品など誰かに使ってもらえるものは売る。
この作業はここから最後までやっていた。荷造り始まっても並行していた。
YouTubeで、観たことないミニマリストさんの動画とか流しながら無の表情でやっていました。
今のところ完全に【懲りた】と感じているので、願わくば次回の引っ越しではいきなり荷造りに取りかかれるくらい、普段から不用品に囲まれていない生活を心がけたい。
住む前から都
退居期限まで、2ヶ月をきった。ギリギリまで住むつもりなのでまだ家探しには少し早いか。
新居の決定は引っ越しの1ヶ月くらい前だと準備的にはいいらしい。そりゃ大家さんだって2ヶ月後に入居します!とか言われたくないよね。何回か休日を使う可能性は考えても、1ヶ月半前くらいで着手すればよいでしょう。
このミッションが始まる数ヶ月に転職したばかりだ。今の家でも全然通勤は苦ではなかった。ので、次も同じ沿線で探す。
先に街を見ておこうと思い、終業後に任意の駅で降り、ぶらぶらして、隣駅まで歩き、その駅から帰るという方式で2駅ずつ見ていった。
普段降りない駅で降りるだけで割と楽しくて、これ別に引っ越しなくてもやりたいなと思った。
ていうかあんまり住みたい駅のこだわりがないし、どこもまあそれぞれに良さがあるし、埒があかないわね…と思いながら喫茶店やパン屋やアイスクリーム屋さんなどを冷やかして回った。
家・即・決/引っ越し屋さんも決める
そして、いざ、ある週末に少し早いけど一旦相談するか…と不動産屋さんに行って、その日のうちに家を決めてしまった。
こだわりが、ないのです…。
時間がないし、休日を何回も使っていられないし。手続きの合間に親とLINEしていたら「そんなに焦って決めないで!!」と言われたけど「どこだって今の家よりは環境イイよ?」と言ったら「確かに…」となっていた。家賃あげたしね。
私の個人的な条件としては、駅から10分以内。大通りから近い。使いやすそうなスーパーとコンビニ。バストイレ別。くらい。
バストイレは別じゃなくても暮らせないことはない。でも、精神衛生的には絶対別のほうがいいなーと思う。昔アメリカに少し住んでてユニットバスにはうんざりしたからかもしれない。
家と入居日が決まったら即・引っ越し屋さんの選定へ。
ここは下調べマメ子の本領を発揮。一括見積などはしない。一括見積などしてもろくなことにはならないという調べが、先についているのです。
(結局はそれぞれの会社から鬼電がきて「もっと詳細な見積もりを…」と言う)
不動産屋の紹介で1社と、大手の中から1社、そして口コミなどを元に1社見積とって決めた。
結論から言う!!!アップル引っ越しセンターにした自分に金一封。あげたいしもらいたい。
見積もりもしやすいし、しつこい勧誘もないし、問い合わせにも迅速かつ優しい回答をいただいたし、マスコットのりんごりくんもかわいい。(ダンボール使うときイラストで荷造りを応援してくれている。ありがとねえ)
リマインドのメールから当日のご対応まで過不足もなく、終始一貫して気持ちのいいやりとりでした。料金も最安ではないかもしれないけど充分リーズナブル。
すっかりファン。次の引っ越しするときの私ちゃんも是非使ってください。
とにもかくにも、家も、引っ越し業者も決まりました。あと約1ヶ月。転職後の研修もかなり詰まってきている。毎日爆睡。部屋は、物で溢れている。
火災保険電気ガス水道ネット
退居日と入居日が決まった時点でもういつやってもOKなこと。
火災保険です。
賃貸の人はほとんどが家を決めたときに不動産屋や管理会社の肝煎りで紹介されたところに決めている。そして、ほとんどが見直しすれば安くなる。
私もこのオンボロアパート何度目かの更新のときに重い腰を上げて保険料大幅に削減した。
今回も早速代理店に連絡して今の保険の解約と新しい契約の申込書類などをつくってもらう。
これは日程さえ決まってれば早すぎて困ることあんまりないし、直前まで引っ張ってしまうと、高くても紹介されたところに決めざるをえなくなるので早めがおすすめ。
そうそう、引っ越し後のネット環境についてもこのころ手続したのだけど、そのあたりはケースバイケースになりそう。
電気ガス水道エトセトラ…についても1ヶ月切ったらやれるんじゃないかな。今回はバタバタしてしまったので備忘としては、次回このあたりのタイミングでやれるようにしたい。
そうこうしているうちに、いよいよ残り1ヶ月程度。部屋は…物で溢れている!!
ラストスパート
もうひたすら捨てて、捨てて、詰めて。
働いて帰ってきて夜にやるのが主、だと思った以上に時間がなかったなあ。仕事まだ慣れてないしね。部屋明るいまま寝落ちたことも何度もあった。
あと、まず、そもそも狭い部屋に暮らしてるのでダンボールの置き場がないのなんの。場所を工面するのにも一苦労。入れたり出したり捨てたり捨てなかったりしました。
どんだけ片づけても片づけても、奥から古文書がたんまり出てくる。
10年分の光熱費の領収書とか全部あって泣けた。なんで?????(涙)
あと、前のスマホとかかわいいものじゃなくて、ガラケーが出てきた。3つ。へへへ。
フォークが8本あったことを初めて知った。ちょうどサンリオショップで(フォークってたぶん1本しか持っていないよね。もう1本くらいはあった方がいいや)と買ってきた日であった。9本です。6畳だけど2家族暮らせる。フォークだけで言ったら。
食べ物の類も、普段からストックしすぎてるので食べて減らすためにも普段より自炊。
時間が全然なかった。何回も言う。遠い目をして自分の溜め込み体質と向き合いました。
己を洗脳するため、普段ほぼほぼ観ないYouTubeで断捨離とか丁寧な暮らしとか引っ越しとかの動画を流しながら、時々気晴らしに踊ったりしながら荷造り。
そのときの内容とかもうほとんど覚えてないんだけど、印象に残ったのがふたつだけある。
ひとつは「荷造りは物ごとではなくて、引っ越し後に使う場所ごとで詰める」ってこと。<キッチン>とかね。なるほどとは思ったけど、これたぶん常識なんだろうな。ちなみに印象に残りつつも私にはほぼ役立っていません。そもそも引っ越し前も後も狭い部屋なので、場所的な意味で混乱するほどの複雑さはなかったからね。ファミリー(人が多い)とか戸建て(広い・2階以上ある)とかだと役立ちそう。
もうひとつはすごく役立った。「ダンボールをひとつ完成させてから次へという思考をやめて、7割埋まったら次の箱にいく」。これは性格もあると思うんだけど、私はまさに考えすぎたりして足踏みするタイプなので、このマインドになってようやくスピードアップした。生き方を変えたね(目的語がデカい)
終盤どうしても父母が手伝いたいというので、ありがたく(というか、実際は結構固辞したんだけど聞き入れてもらえず)入居以来10年ぶりにきてもらったが、指示してもしなくても二人で揉めていた。そんで最後は仲良く手をつないで帰っていった。何なんだ。マジ日本のシド&ナンシーだよ。
あと、母は「記憶の何倍もボロくてヤバい家だった。可愛い娘がこんなみすぼらしい部屋で暮らしていたと思うと辛い」と涙ぐんでいた。失礼すぎる(笑)
ファンタスティック隣人たちの引っ越し
前述の通り、このアパートでの暮らしはのっけからヤバい隣人とエンカウントしていたため、その後の隣人たちについても私は細かいことは一切気にならなかった。麻痺していたとも言う。
最後に隣に住んでいた人、というか8年くらい隣に住んでいたと思うが、生活リズムも違いほとんど顔を合わせたこともないその人を私は「ドリブルマン」と呼んでいた。
深夜2時でも、朝の5時でも、謎のダムダムダム…という音がするのである。たぶんドリブルではないと思いますが、何の音だったのかは謎のままです。コロナ禍では友達とリモート飲みをしていても「これが例の?!」「あんたずっとこの音の中で暮らしてんのか?!」と大きな反響があった思い出。
私より少し前に退居していったドリブルマン。今もダムダムやってるのかな…と、ときどき思いを馳せてしまう。普通の人は隣から毎日デカいダムダムが聞こえてきたら文句言う気がするので、怒られていないかなぁ。まぁもし怒られていたとしても、完全に自業自得なんだけど…
逆隣の人は逆に1年くらいしか隣にいなかったけど部屋の前を通ると限りなくグレーな❝草❞のにおいがしていたので、それも今頃気を付けていてほしいと思う。アメリカに住んでいた経験からすると、あの草に近いにおいのする草は他に知らないので、もっと…こそこそしたほうがいいんじゃないかな…。
なんにせよ、元気でないよりは元気で暮らしていてほしいな。
家電を譲る
今回は取り壊し前提のため、粗大ごみは置いてっていいよと言われた。かなり助かる。
それでも私は少しでも捨てるものを減らしたかったため、荷造りの合間にジモティで家具家電の出品もした。
例えば新しい家ではオーブンレンジに変えたいため、10年がんばってくれてまだまだ現役のレンジも600円で手放した。貰い手がいるだけありがたい。
次に引っ越す時も使うかはわからないけど、ポイントだなーと思ったのはここでもふたつ。
まず、無料で出さないこと。これは業者・冷やかし・異常者などのコンタクトが増えすぎて収拾つかなくなるため。
もうひとつは、手放す理由を含めてネガティブ要素も書くこと。必要な人にもらってもらうためだから。
レンジたちは今頃まだバリバリがんばっているだろうか。お達者でと思う。
前日
なんやかやあって、前日。概ね荷造りは終了していた。
有休もたまっていたし、土日の高い日に引っ越すよりもマシだと思い、水・木の休みを取る。これは良い判断だった気がする。
どうせ荷解きにも時間がかかるので、週末はそれをやればいいです。
水曜に不動産屋で鍵を引き取り、何もない新居へ。そしてこの日に合わせて配送を指定していたNew布団と、ジョイントマットを受け取る。
またしても両親が来てくれて、マットを敷くのを手伝ってくれる。なお、私は「親と一緒に暮らしていると衰弱する」というだけの理由でひとり暮らしをしており、実家が数駅しか離れていない。
シド&ナンシーはまたしても揉めており、絶対に私が一人で敷いた方が早く終わっただろというくらい時間がかかったが、やはり最後はなんか背中合わせに床に座って互いに褒めあい、労いあっていた。まあいいですけど…。
親と別れた後はアパートに戻り、銭湯に向かう。
実は、近くに住んでいたのに一度も行ったことがなかった銭湯。
一度くらいはと思い、無理やり時間を捻出して訪れてみると、貸し切りのように空いていた。
デカい湯船で疲れを癒す。街とのお別れには相応しいじゃないかと思った。
再びアパートに戻り、今度は、コインランドリーに向かう。
布団と毛布の丸洗い。銭湯と順序逆じゃないのか?と思うでしょうが、もう23時なんである。
計画性どうなってんだよ。
でも私は水が動いているのを見るのがもう何よりも好きなので、コンビニで買ってきたチューハイを飲みながら、ずっと洗濯を見ていた。
ふと引っ越し屋さんからのリマインドメールを見ると、かなり凄味のある注意事項?があった。
当日、お宅に到着してみると荷造り進捗が完全に0%という人が割といるらしい。上には上がいるものですね。わざわざスミつきカッコで 【スタッフが本当に困ってしまいます。】 と書いてあり、ご心労察するにあまりありすぎた。
困らせたくないね!!
当日
当日ってもう、あまり書いておくことない。
疲れているはずなのに朝は無駄に早く起きてしまったので朝マックへ向かい、コーヒーを飲んでいた。
午前中の引っ越しではあるけどまだ1時間半くらいある、と、思っていたら仕事の早い引っ越し屋さんから電話。
「前の引っ越しが早く終わったので早く伺えます!もちろん時間通りでも大丈夫ですが、どうしますか?」
「ワ、ワ…!ではお、お願いしますっ」
「では15分後に伺います!!」
早!!!!!思わずちいかわになりながら大急ぎで帰る。てか1件目って何時から?凄い。
もう、そこからは、あっと言う間。笑顔の眩しいお兄さんとお姉さんが現れ、魔法のように部屋を空にしていった。冷蔵庫はお姉さんが一人で運んでいた。いまだに信じられない。私は、ずっとちいかわだった。
冷たい飲み物を渡したら、いつものことだろうに「うわあ!ありがとうございます!!」とニコニコ。
「とてもしっかり準備してくださっていたので助かりました!」とまで言ってくれた。苦労が報われるね。
次は隣の件まで移動するとのことで風のように去っていった。
次の人も「荷造りするタイプ」であることを祈った。
まとめ
いつものことながらだらだらと書いた。
まとめると引っ越しは
決まり次第、不要なものの処分などを始める
1ヶ月半~1ヶ月前に家を決める
家(と、転居日)が決まり次第なるはやで引っ越し業者を決める
火災保険、ネット環境、電気ガス水道
2~3週間でしっかり荷造り
こんなスケジューリングかなあ。
次はいつ引っ越すことになるのかわからない。
どうせこうやって書き留めておいても、右往左往はすると思う。
ちなみに、完全な好奇心からこの前見に行ったら、更地になっていました。
もうこれからはずっと
「ふーん、ところであんた住んでたアパート取り壊しで追い出されたことある?」
とマウントをとって生きていこうと思います。
以上。
次はまた10年後でいいや…